日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS23] 月の科学と探査

2015年5月26日(火) 11:00 〜 11:45 A02 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*長岡 央(早稲田大学先進理工学部)、諸田 智克(名古屋大学大学院環境学研究科)、Masaki N Nishino(Solar-Terrestrial Environment Laboratory, Nagoya University)、本田 親寿(会津大学)、長 勇一郎(立教大学理学部)、座長:大竹 真紀子(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部 固体惑星科学研究系)、小川 佳子(会津大学)

11:00 〜 11:15

[PPS23-20] 月磁気異常上空における太陽風プロトンとアルファ粒子の観測

*加藤 大羽1斎藤 義文2Masaki N Nishino3横田 勝一郎2綱川 秀夫4 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所、3.名古屋大学太陽地球環境研究所、4.東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:月, プラズマ, 太陽風, 磁気異常

月には厚い大気も大局的な固有磁場も存在しないため、月面は太陽風の影響を直接受ける。しかしながら、月面には局所的に磁気異常と呼ばれる磁場の強い領域が存在し、月表面の強い磁気異常の存在によって、太陽風は月面に衝突することを妨げられる。太陽風と月磁気異常の相互作用に関する研究は、月表面の磁気異常領域が発見された1960年代以降、人工衛星による観測や計算機シミュレーション、実験室の再現実験などで研究が行われている。磁気異常は太陽風や月周辺プラズマの挙動と密接に関連するため、磁気異常上空におけるプラズマ環境の解析は重要な意味を持つ。
通常、月へ飛来してくる太陽風イオンの主成分はプロトンであり、次いでアルファ粒子が数%程度含まれている。
月の磁気異常領域上空では、太陽風イオンの数十%程度が磁場によって反射されることが知られている。しかし、月磁気異常による太陽風イオンの反射について、イオンを種類別に分類しての議論はこれまで行われていない。太陽風イオンは主成分のプロトンの割合が9割であることから、磁気異常と太陽風イオンの相互関係についてのこれまでの知見は、プロトンの振る舞いに大きく依存した結果であると言える。すなわち、プロトン以外の太陽風イオンでは既存の研究結果と一致する振る舞いをしているかは不明である。特にアルファ粒子は、入射太陽風イオン中に存在することは明確に確認できるが、プロトンとは異なり、反射イオンを観測した場合には明確には存在の確認がなされていない。したがって、プロトンだけでなくアルファ粒子についてもその有無を含めて解析を行うことは、月磁気異常上空におけるプラズマ構造のより詳細な理解へとつながることが期待できる。
本研究では、月探査衛星「かぐや」に搭載された低エネルギーイオン質量分析器MAP-PACE-IMAによって観測されたデータを用い、磁気異常上空で反射されたイオンについて質量分析データの解析を行った。解析の結果、磁気異常領域上空において、磁気異常によって反射されたプロトンとアルファ粒子は異なる分布を示すことが明らかとなった。磁気異常によって反射されるイオンは多くの場合、運動エネルギーを少し失って加熱されるが、プロトンと比べてアルファ粒子は運動エネルギーの減少量が大きいことが分かった。またアルファ粒子の入射粒子フラックス強度に対する反射粒子フラックス強度の比率は、プロトンの入射粒子フラックス強度に対する反射粒子フラックス強度の比率に比べても小さいことが明らかとなった。従来の解析で反射されたアルファ粒子の確認が困難であったのは、1) 強い減速により観測されるE/q (E: 運動エネルギー, q: 電荷) が入射太陽風アルファ粒子と反射アルファ粒子で大きく変化すること、2) 反射されたアルファ粒子のフラックス強度が小さいことが原因と結論づけられる。これらの結果は、月磁気異常による太陽風イオンの反射が理想的な磁気ミラー反射ではなく、非断熱的変化を伴った反射であることを示している。