日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG31] 北極域の科学

2015年5月25日(月) 16:15 〜 18:00 201B (2F)

コンビーナ:*竹内 望(千葉大学)、檜山 哲哉(名古屋大学地球水循環研究センター)、平譯 享(北海道大学大学院水産科学研究院)、田中 博(筑波大学計算科学研究センター)、野澤 悟徳(名古屋大学太陽地球環境研究所)、座長:野澤 悟徳(名古屋大学太陽地球環境研究所)

16:45 〜 17:00

[ACG31-06] 冬季北極域中間圏の擾乱状態を示す新たな指標の検討

*坂野井 和代1木下 武也2村山 泰啓2佐藤 薫3 (1.駒澤大学、2.情報通信研究機構、3.東京大学)

キーワード:中層大気擾乱, 太陽活動, 北極振動, 成層圏準2年周期振動, 北極域, 成層圏突然昇温

本研究は、冬季北極域における代表的な擾乱現象である成層圏突然昇温を、中間圏まで含めた中層大気全体の擾乱として捉え、その擾乱について、長期的な太陽活動度との関係を解明することを最終的な目的としている。成層圏突然昇温と太陽活動度との関連は、太陽活動11年周期による成層圏の熱的構造の変調として、成層圏領域では研究が進んでいる。冬季北極域成層圏の代表的な熱的構造は、北半球環状モード(Northern hemisphere Annular Mode: NAM)と呼ばれるパターンを示し、極域が低温・中緯度域が高温となる正のモードとその逆パターンとなる負のモードに分類される。Labitzke(2005)は、北極域・中緯度の上部成層圏温度とF10.7 indexの相関を、QBOの位相に分けて比較し、QBO西(東)風位相時には、太陽活動極大で負(正)のNAM、極小で正(負)のNAMとなることを示した。
 成層圏突然昇温の程度を表すものとして、伝統的に、昇温が「大昇温」か「そうでない」かという定性的な分類が使われてきた。しかしこのような定性的な分類だけでは他の現象との比較が難しい。本発表では、中間圏まで含めた中層大気擾乱と太陽活動度を定量的に比較するための準備として、中間圏の擾乱度を表す指標としてどのようなものがあるかを検討する。
 これまでの解析では、気象全球客観解析データ(英国Met Officeが提供するUKMOデータおよびNASAが提供するMERRAデータ)を用いて、中間圏まで含めた中層大気擾乱の程度を指標化することを試みてきた。まず始めに、UKMOデータ帯状平均東西風の東風領域(成層圏突然昇温時に対応)の、最低高度を指標として使うことを検討した。日々の帯状平均東西風データから、高度15km以上の範囲において、東風となっている高度領域の最低高度を抽出、それぞれのイベントでその抽出した最低高度を平均し、1つのイベントに対して1つの指標(今後、この指標をZEW indexとする)を作成した。導出したZEW indexをQBOの東風位相と西風位相に分けて、太陽活動度(F10.7 index)との相関図を作成した。この結果、おおむねZEW index < 35 が大昇温に対応し、ZEW indexは伝統的な成層圏突然昇温の分類に対応し、擾乱度を定量的に表す指標としては使えそうであることを確認した。
 次に、1000~0.1hPa(約65km高度)の高度においてAO indexを計算し、中間圏まで含めた中層大気の擾乱度を表す指標として使用できるか検討を始めた。10hPaより高高度でAO indexを用いた研究はほとんど例がなく、慎重な検討を必要とするが、以下のようなことが明らかになった。中層大気でのAO indexの値のピークは、おおむね0.5hPa(~50km)高度にある。100hPa - 0.1hPa高度においてAO indexの正負はほぼ一致するが、ときおり10hPaの上下で正負が異なる場合もある。AO index の負のピーク値が大きいことと大昇温とは対応しない、また負の領域が10hPa以下まで達していることも、必ずしも大昇温とは対応しない。伝統的な昇温の分類では成層圏突然昇温と判定されない中間圏のみの擾乱も存在する。
 また、4つのイベントにおいて、10hPaおよび1hPaでポーラーマップを作成し、擾乱が起きている際の気圧や風速・温度場のパターンを確認したところ、以下のような傾向が見られた。(1)10hPa高度と1hPa以上の高度では、循環パターンが異なる場合が多い。(2)大昇温かそうでないかにかかわらず、イベント時に波数2構造がみられると、AOがほぼ全高度で負になっていた(3)波数1構造が維持される場合は、AO負の高度範囲が限られるように見える。
 本発表では、さらにイベント数を増やして10hPaおよび1hPa高度の気圧および風速・温度場と大昇温、AO indexの関係について検討を進めていく。