日本地球惑星科学連合2015年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS30] 地震発生の物理・震源過程

2015年5月25日(月) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*安藤 亮輔(東京大学大学院理学系研究科)、加瀬 祐子(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)

18:15 〜 19:30

[SSS30-P08] M2級鉱山誘発地震群の震源域での弾性境界要素法応力解析による地震発生の再現とMohr-Coulomb破壊基準の拘束

*内浦 大海1ホフマン ゲラード2ウィギンス ミッチ3ストーン ヴァウター3ンダバ ピンキー3プロッツ ジャネール3レネガン パトリック3イェルマス ハリル4ヅヴァリヴァザ タワンダ4ムガディ シヤンダ4カーペイド アンドリュー4ダーハイム レイモンド5ミレフ アレックス6小笠原 宏7矢部 康男8加藤 春實9 (1.立命館大学、2.Anglogold Ashanti、3.Sibanye Gold、4.ヴィットウォーターズランド大学、5.CSIR / ヴィットウォーターズランド大学 / SATREPS、6.CSIR、7.立命館大学 / SATREPS、8.東北大学 / SATREPS、9.株式会社 3D地科学研究所)

キーワード:モール・クーロン破壊基準, 大深度南アフリカ金鉱山, 弾性境界要素法応力解析, 震源の応力

JST-JICA SATREPS「鉱山での地震被害低減のための観測研究」プロジェクトの観測サイトの1つである鉱山のサイト付近で、M2級地震が複数発生している。このサイトには3台の石井式3成分歪計が埋設され100Hz連続収録されており、比較的連続性の良いデータが2011年12月以来得られている。このサイトにはAEネットワークはないが、CSIRの4台の14Hz Geophoneが間隔100m未満で埋設されており、鉱山地震観測網(観測点間隔>約500m)の震源決定精度不足を補うことができる。また、約3km離れたTau Tona鉱山で較正された初期応力モデルや、同鉱山の約1km離れた地点で実測された応力を参考にできる。観測サイトで計器埋設のための9本(総延長約340m)のドリリングで得られたコアは、Witwatersrand大鉱山学部で弾性率と強度の測定が行われた。
本研究では、サイトから183m~351mのところで2013年12月と2014年1月、8月に発生した、それぞれ、1個と1個、2個、計4個のM2級の地震について、弾性境界要素法応力解析ソフトMap3Dでの再現、および、震源でのMohr-Coulomb破壊基準の拘束を試みた。Map3Dでは、薄板状の採掘や地質構造を、変位不連続面や仮想力ブロックで3次元的にCAD表現することができ、断層に相当する変位不連続要素に強度のピーク値・残留値を割り当て、応力がその強度に達したときに、断層上に生じうる弾塑性的すべり量を計算することができる。そのすべり量と範囲はピーク強度と残留強度との差によって決まる。
Hofmannら (2012)は、Map3Dを用いて2007年12月にJAGUARS (Nakataniら2008)の観測サイトであるMponeng鉱山のPink and Greenダイクで発生したMw2.2の震源の応力場と強度を議論した。JAGUARSは、鉱山地震観測網よりも格段に正確な地震の破壊面(Yabeら 2009;Naoiら 2011)をAEで描き出し、Hofmannら(2012)はそれが超過剪断応力(ESS)が最大の面であることを確認した。また、実際に発生した地震の時期やすべり範囲をMap3Dで再現できる断層強度パラメータを拘束することにも成功した。本研究が対象としている鉱山にはAE観測網がないが、Map3Dで推定されるESS最大の面の位置を参考にすることによって、一定の根拠を持って震源の応力と強度を議論できると期待される。
本研究では4個のM2級の地震について、ESSが最大の面をグリッドサーチし、その面上の法線応力・剪断応力・モールクーロンの破壊基準パラメータを検討することによって、計算機上での地震発生の再現を試みた。本研究では、初期応力場(採掘前の応力場)には隣のTau Tona鉱山のデータ(Hofmannら2013)を用いた。また、採掘開始前に我々が観測サイトで行った9本のドリリングの際に観察されたブレークアウトとコアディスキングの特徴を、この初期応力とMap3Dでほぼ再現できることを確認した。鉱山の既存の採掘跡のうち2013年1月以降のものを毎月の採掘前線の前進がわかるようにモデルし、ESSが高い領域は約20度で傾斜する薄板状の採掘跡に平行に発達すると予想されるので、震源位置を通り、その走向が採掘跡のDip方向と一致する複数の面を10度刻みのRoll角(Roll角軸は板状採掘跡に平行)で設定し、ESSが最大の面をグリッドサーチした。
結果、4つのうちの3つの推定地震断層面上の、地震直前の法線応力に対する剪断応力の合成プロットは、一本の破壊基準直線ではほぼ説明可能であったが、強度はHofmannら (2012)の基準直線よりも数MPa大きかった。残り1つの推定断層上のそれは、Hofmannら (2012) とほぼ等しい基準直線と調和的であった。これらの結果は、観測サイトの実際の応力場が我々のMap3D予測よりずれていたり、震源位置が無垢な岩盤であったか既存弱面が存在したかによったりすることによる可能性がある。
今後の研究では、震源域での応力擾乱源や既存弱面の有無の調査などや石井式歪計との比較解析を進め、連合大会ではその経過を報告する。