日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG38] 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態

2015年5月26日(火) 16:15 〜 18:00 301B (3F)

コンビーナ:*北 和之(茨城大学理学部)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、中島 映至(東京大学大気海洋研究所)、五十嵐 康人(気象研究所 環境・応用気象研究部)、山田 正俊(弘前大学被ばく医療総合研究所)、竹中 千里(名古屋大学大学院生命農学研究科)、山本 政儀(金沢大学環低レベル放射能実験施設)、篠原 厚(大阪大学理学系研究科)、座長:山田 正俊(弘前大学被ばく医療総合研究所)

16:45 〜 17:00

[MAG38-24] 福島県及びその近隣県沖海域の動物プランクトン群集に含まれる^{137}Csの時系列変化とその主な要因

*池上 隆仁1高田 兵衛1長谷川 一幸1工藤 なつみ1磯野 良介1日下部 正志1 (1.(公財)海洋生物環境研究所)

キーワード:福島原発事故, ^{137}Cs, 動物プランクトン, 群集組成

福島第一原発の事故に際し、多量の人工放射性核種が周辺環境にもたらされた。セシウム(Cs)は生物にとって必須元素であるカリウムと似た化学的性質を有し、生物に取り込まれやすい元素である。放射性セシウムの半減期は134Csが約2年、137Csが約30年である。137Csは134Csに比べ半減期が長いため、137Csによる汚染状況を継続的にモニタリングすることが欠かせない。
 動物プランクトンは二次生産者として食物連鎖の中間に位置し、海洋物質循環において重要な役割を果たしている。そのため、動物プランクトンに含まれる137Csと海水、海底堆積物、懸濁粒子といった動物プランクトンを含む周囲の環境の137Csの挙動を明らかにする必要がある。

 観測:本研究では、宮城県沖から茨城県沖にかけての7〜8観測点において2012年5月から2014年1月までの期間に採集した動物プランクトンについて、137Csの測定と顕微鏡観察による群集組成の算出を行った。試料の採集は、表層 0-80 mの水平曳きにより行い、同時に海水及び海底堆積物試料の採取を行った。

 結果:動物プランクトンに含まれる137Cs 濃度(Bq/kg-dry)は、2012年5月から2014年1月までの期間に0.26-184(Bq/kg-dry)の範囲で変化した。濃度が高い時期は観測点により異なる。2014年1月の濃度は6.59-40.3(Bq/kg-dry)の範囲で、事故前に東北地方沿岸で報告された濃度(0.09-0.4 Bq/kg-dry, Kaeriyama et al., 2008)より依然として1-2 桁高い。群集組成は、概して顎脚綱が高い割合を占めたが、各分類群の割合は季節及び観測点により変動した。そこで、生息環境が動物プランクトンの137Cs濃度に及ぼす影響と動物プランクトンに含まれる137Cs 濃度が観測点によりばらついた原因について考察を行った。
 動物プランクトンに含まれる137Csは、生息環境の海水、海底堆積物、懸濁粒子、餌に含まれる137Csが起源であると考えられる。海底堆積物中の137Cs濃度は海水ほどの時系列的な濃度減少は見られないため、再懸濁等により動物プランクトンへの取り込みの可能性がある。動物プランクトンに含まれるアルミニウムを海底堆積物由来と仮定した場合、動物プランクトンに含まれる137Cs濃度に対する海底堆積物の寄与率は10%と見積もられた。また、海水中の動物プランクトンに含まれる137Csの濃度(μBq/m3)は、海水中の137Cs 濃度、動物プランクトンのバイオマス(mg-dry/m3)のいずれとも相関が見られなかった。一方、動物プランクトンに含まれる137Cs濃度の増加時期は尾虫綱と硬骨魚綱(主に魚卵)の増加時期、および試料中に植物プランクトンが多く混在した時期と概ね一致した。これらの結果から、動物プランクトンに含まれる137Cs 濃度の変化は、生息環境における137Cs濃度や動物プランクトンの重量よりも群集組成の違いに起因している可能性が示唆された。

<謝辞>
本成果は、原子力規制委員会原子力規制庁の委託業務の成果の一部である。

引用
Kaeriyama, H., Watabe, T., and Kusakabe, M. (2008). 137Cs concentration in zooplankton and its relation to taxonomic composition in the western North Pacific Ocean. Journal of environmental radioactivity, 99(12), 1838-1845.