日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM22] 地形

2015年5月26日(火) 16:15 〜 18:00 101B (1F)

コンビーナ:*島津 弘(立正大学地球環境科学部地理学科)、小口 千明(埼玉大学大学院理工学研究科)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)、座長:瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)、島津 弘(立正大学地球環境科学部地理学科)

16:45 〜 17:00

[HGM22-06] 鳥取県三朝町小鹿川と三徳川における天然ダムの形成と決壊

*小玉 芳敬1岡崎 志保2 (1.鳥取大学地域学部、2.鳥取大学地域学部・学)

キーワード:天然ダム, 決壊洪水, 深層崩壊, 段丘地形, 放射性炭素同位体年代, 岩坪活断層

はじめに
鳥取県東伯郡三朝町を流れる小鹿川流域には,河岸段丘がよく発達する.この中には現河床からの比高が50m以上ある段丘状地形が4箇所(神倉,茂比平,東小鹿,西小鹿)知られており,これらはその構成物や地形的特性から,斜面の大規模崩壊に伴う崩落地形であると指摘された(坂越,1999).茂比平と西小鹿では,堆積物中に介在した材と段丘面を覆う古土壌の放射性炭素年代から,約3.4万年前の崩壊イベントであることが明らかにされた(渡邊,2013).本研究の目的は,斜面の大規模崩壊に伴う天然ダム形成の有無を明らかにし,天然ダムがどのような過程を経て決壊したかを探ることである.

調査方法
小鹿川下流域と三徳川中流域を対象として大縮尺地形図(1/2,500)の読図より段丘面の投影縦断図を作成し,面の連続性から対比を試みた.そして天然ダムの形成と,それに続くダム湖決壊の痕跡を探った.現地では段丘面の構成物を観察し,段丘面を覆う土壌試料をハンドボーリングで採取して,計14試料の放射性炭素年代を測定した.

結果および考察
小鹿川および三徳川の投影縦断図に基づき,段丘面を区分した結果,神倉の崩落地形の下流側1.4km区間に4段,西小鹿崩落地形の下流側1.2km区間に3段の特異な段丘面が認められた.神倉における最上位の面は傾斜1/8,西小鹿では1/13と急勾配を示し,下段になるにつれて勾配が緩やかになっていた.これらの段丘面群は天然ダムの決壊時の高土砂濃度で作られた地形面と考えられる.板状安山岩の巨大な角礫をこれらの段丘面露頭で確認した.三徳川の千軒原では,上流側に厚さ1.7 mほどのシルト・粘土層が確認され,ダム湖(静水域)における堆積物と認定された.つまり神倉,西小鹿,千軒原の3箇所で天然ダムが形成された.
年代測定のうち12試料において有意な年代値を取得した.その結果,神倉の崩落は1,200年前以前,千軒原の崩落は10,300年前以前のものと判明した.天然ダムが保たれていた歳月は神倉では最短でも400年間,西小鹿では最長で3万年間に及ぶ可能性がある.千軒原では,最短でも8,000年以上ダム湖が在り続けた.
この地域における大規模崩壊は約1万年に1度の周期である可能性が示唆された.これらの崩壊は岩坪断層(M7級のポテンシャルを持つ)が引き起こした地震を素因として,その後の集中豪雨により発生したと考えられる.本研究成果は,岩坪断層の活動履歴を推察するデータとなり得る.

おわりに
小鹿川および三徳川流域に存在する大規模崩壊による崩落地形では,3箇所(神倉,西小鹿,千軒原)において天然ダムが形成された.神倉では400~800年間,西小鹿では3万年間,千軒原では8,000年間ダム湖が維持されていた可能性が示唆された.岩坪断層の活動に起因する大規模崩壊によるこの種の災害は,当面危険性が低いと思われる.

謝辞
本研究は,鳥取大学平成26年度地域貢献振興事業より研究費の支援を受けた.三朝町役場の方々には現地調査に際し,住民の方々との調整で便宜を計っていただいた.

文献
坂越正明(1999)小鹿川流域における大規模崩壊に伴う段丘状地形.平成10年度鳥取大学教育学部卒業論文,38pp.
渡邊彩子(2013)鳥取県中部小鹿川下流域にある4つの大規模崩壊の地形的特徴とそれらの形成年代.平成24年度鳥取大学地域学部卒業論文,39pp.