日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL39] 地球年代学・同位体地球科学

2015年5月24日(日) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)

18:15 〜 19:30

[SGL39-P03] 石英の OSL 特性変化に関する物理的履歴の影響

*長田 章良1山中 千博1高田 将志2 (1.大阪大学大学院理学研究科、2.奈良女子大学文学部人文社会学科)

キーワード:ルミネッセンス年代測定, 光励起発光(OSL), 石英

光励起発光(OSL)年代測定法は、石英や長石が蓄積する自然放射線被曝量の情報を用いた年代測定法である。鉱物の価電子帯の電子や正孔は自然放射線により励起され、不純物センターや酸素欠陥などに捕らえられ、準安定状態を形成する。ルミネッセンス法では、光や熱によってこの準安定状態の電子を伝導帯に励起し、正孔と再結合した際の発光を計測する。こうしたルミネッセンス法の一つであるOSL法では、太陽光への曝露で簡単に起こる発光を観測するため、土砂が堆積した時点から現在までの年代を知ることができる。しかし、試料によって同じ放射線照射量に対しても発光量の違いがあり、また励起光に反応して発光する時間も試料によって異なっている。年代測定には時間が短い成分(Fast成分)が卓越した試料が適しており、火成岩質の岩石に由来する石英では、よりFast成分が見られにくいという報告がある[1]。
本研究では、石英のOSL特性と物理的機構の関連を解明することを目的としている。特に今回は発光強度・感度の変化ついて詳しく実験を行った。具体的には、ボールミルで削る時間による発光量の比較、α線照射による発光量変化、加熱による発光量・発光感度変化の3つについて調べた。測定機器はRISá-TL/OSL reader DA-20を用いた。ボールミルによる比較実験では、試薬石英に対して削る時間30分、1時間、2時間のものについて粒径149〜250μmの粒子を抽出し発光量を比較した。α線照射試料は、照射線量1.3kGy、5.5kGy、63kGyの3試料について測定を行った。加熱実験では、上記の2パターンの処理を加えた試薬石英の他に、Liを0.01mol%ドープした試薬石英、そして発光量・感度の良い自然試料として、エアーズロックの石英砂とインド・タール砂漠の石英砂を用意し、300℃〜800℃まで100℃毎に60分間加熱を施した。
ボールミルによる実験においては、削る時間の増加とともに発光量が増加し、α線照射実験では、ボールミルによって削った石英と比較して100倍以上の強い発光が観測された。これらの結果は、α線の飛程を考えると、発光量変化の要因として石英粒子表面付近の欠陥が発光に大きく関わっているということがわかる。
また加熱実験においては、500℃以上の加熱により発光量は最大で約10倍に増加し、その傾向はボールミル、α線照射を行った試料で顕著であった。しかし逆に、Liをドープした試薬石英では、300℃以上の加熱で最小10分の1程度の発光量まで減少した。エアーズロック試料では500℃以上の加熱で発光量の増加が見られなかったが、インド・タール砂漠試料では最大で約20倍と、ボールミル・α線照射を行った試薬石英の増加率に比べてもさらに大きな発光量の増加が見られた。これらの加熱による発光量変化の実験結果とはまた異なり、発光感度(Fast成分の発光量全体における割合)については、試薬石英で加熱による変化が見られなかったのに対し、発光感度の良い自然試料については最大約5倍の感度の増加が見られた。これら加熱実験の結果は、加熱による電子の移動が発光量の増加および発光パターンの変化に関わっていること、そして加熱に対する安定性がFast成分の発光とそれ以外の発光を示すセンター、および発光を妨害するセンターで異なっていることを示唆している。

参考文献
[1]Tokuyasu K., Tanaka K., Tsukamoto S., and Murray A., “The characteristics of OSL signal from quartz grains extracted from modern sediments in Japan”, Geochronometria 2010, vol.37, pp13-19.