日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE28] 地球温暖化防止と地学(CO2地中貯留・有効利用,地球工学)

2015年5月25日(月) 09:00 〜 10:45 105 (1F)

コンビーナ:*徳永 朋祥(東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻)、薛 自求(財団法人 地球環境産業技術研究機構)、徂徠 正夫(独立行政法人産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、座長:徳永 朋祥(東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻)

10:00 〜 10:15

[HRE28-04] 地中貯留二酸化炭素の地下常在微生物による電気化学的メタン変換研究

*前田 治男1五十嵐 雅之1福島 直哉2小林 肇2佐藤 光三2 (1.国際石油開発帝石株式会社、2.東京大学 大学院 工学研究科)

キーワード:二酸化炭素地中貯留, 電気化学的メタン変換, メタン生成菌, 電子放出菌, 炭素循環

[1]緒言
地球温暖化に代表されるグローバルな環境問題と石油、天然ガスなどの化石燃料をベースとしたエネルギー資源の枯渇は解決すべき喫緊の課題となっている。近年、地球温暖化の対策としてCCS(二酸化炭素地中貯留)技術が有効な手法として各国で実施あるいは計画されている。しかし、CO2を地中貯留しただけでは、貯留されたCO2は炭素循環の環に加わっておらず、持続可能な社会の実現には、この炭素循環の不均衡化を是正する必要がある。その不均衡を解消するためのアプローチとして持続型炭素循環システムの開発に、国際石油開発帝石と東京大学は産学連携共同研究という形で平成23年度より取り組んでいる。
当該研究においては、CCSにより地中に隔離されたCO2を微生物反応によりメタンに変換し、有用資源として利用する技術の構築を目指している。当該メタン変換反応には地下常在の水素資化性メタン生成菌ならびに電子放出菌が関与していることが、最近の我々の研究により明らかとなっている。このシステムにおいてはメタン生成菌が反応装置の電極から電子を、地下水から陽子(プロトン)を受け取り、水に溶解しているCO2をメタンへと還元する。CO2のメタン変換に必要な電力には、風力、太陽光発電等のCO2を排出することのない再生可能エネルギー源を利用する。本報告では、メタン生成菌に水素を供給する方法として、電気化学的な水素還元力利用の可能性につき、実油田の微生物を利用した実験をもとに得られた最新結果につき紹介する。
[2]実験
電気化学的微生物メタン生成の反応プロセスにおいては、地下に常在している水素資化性メタン生成古細菌がCO2をメタンに変換する際に、水素(H2)を直接利用する代わりに油層水、地下水等をソースとするプロトン(H+)および反応系に印加された電流から得られる電子(e-)を利用することを想定している。評価実験に利用した微生物電気化学的メタン生成リアクター装置は容量250mlのガラス瓶を使い、4x10cmのカーボンクロスをアノード、カソード電極として設置したうえで電極間にはセパレータを設置している。リアクターボトル内には秋田県八橋油田(油層深度:1293m~1436m、油層温度:40~82℃)の坑井から嫌気条件で採取したメタン生成菌等含む古細菌群ならびに各種細菌群の存在が確認されている油層水を培養液として添加し、ヘッドスペースガスとして80%窒素20%CO2の混合ガスを封入し55℃で嫌気培養を行った。 系内に直流電源装置により電極に0.75ボルトの電圧を加えた場合と、同じ系で電圧を加えない場合のメタン生成状況を定期的に観測した。また印加電圧を0.4、0.5、0.6、0.7、0.8ボルトに設定したうえで、同様にメタン生成速度および電流-メタン変換効率を経時的に測定した。
[3]結果

0.75ボルト電圧印加した場合とまったく印加しない場合のメタン生成量(mmol)を観測した。その結果、電圧非印加実験においてはメタンの生成は見られず、一方、電圧印加したケースでは、ほぼ定レートのメタン生成がみられており、当該生成速度は386mmol/day.m2と算定された。また、電流-メタン変換効率もほぼ100%と高い値を示した。一方、印加電圧を変えた実験では電圧が0.4から0.8ボルトに増加するにつれて、メタン生成速度は84 mmol/day.m2から、最大1103 mmol/day.m2まで上昇した。 また、電流-メタン変換効率は、すべての印加電圧で90%を超えており、非常に高い電流-メタン変換効率となっている。
さらに、電気化学的微生物メタン生成反応に関与している微生物を調査すべく、当該リアクター試験のカソード電極に付着している微生物群(古細菌および細菌)を同定解析した結果、古細菌は水素資化性メタン生成菌であるMethanothermobacter、細菌は電子放出菌であるThermincolaが優占化していることが明らかとなった。

一方で、Methanothermobacter単菌のみの電気化学的メタン生成実験を実施したところ、メタン生成速度は80 mmol/day.m2、電流-メタン変換効率は20%以下と低い値を示した。
 現在までの実験結果から、八橋油田由来の微生物群による電気化学的メタン生成反応については、水素資化性メタン生成菌が電子放出細菌を介し、間接的に電子を受容してメタンを生成していることが示唆されている。

我々の研究成果により、油田微生物を利用した二酸化炭素の電気化学的メタン変換の可能性が、初めて示唆されることとなった。