日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS25] 津波堆積物

2015年5月24日(日) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*後藤 和久(東北大学災害科学国際研究所)、宍倉 正展(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、西村 裕一(北海道大学大学院理学研究院)

18:15 〜 19:30

[MIS25-P18] ベイズ理論に基づく津波堆積物の高精度放射性炭素年代決定の試み

*石澤 尭史1後藤 和久2横山 祐典3宮入 陽介3沢田 近子3西村 裕一4菅原 大助2 (1.東北大学大学院理学研究科地学専攻、2.東北大学災害科学国際研究所、3.東京大学大気海洋研究所、4.北海道大学大学院理学研究院)

キーワード:津波堆積物, 放射性炭素年代測定法, ベイズ理論

海溝型地震津波の再来間隔の解析にとって最も重要な課題の一つは,津波堆積物の堆積年代の推定である(小松原ほか, 2006).しかし,対象の堆積物の上下で放射性炭素年代測定を行うという,古津波の発生時期を推定する方法として一般的に使用されている手法では,数十年から数百年にも及ぶ統計誤差が生じる場合がある.また,津波による底面浸食のため,推定される年代が幅広いものになる恐れもある(Goto et al., 2014).
この手法による統計誤差は暦年較正中に生じる.暦年較正は較正曲線の形状による影響を強く受ける.特に較正曲線の平坦部や揺らぎが大きい区間では,暦年較正後の暦年代が幅広く,複数の年代値のピークを持つこともある(Blaauw, 2010).この問題を解決するために,ベイズ理論で暦年較正結果に制約を設ける手法があるが,津波堆積物の年代決定にはあまり活用されていない.
そこで本研究では,津波堆積物の高精度年代決定法の確立を主目的とし,ベイズ理論に基づく放射性炭素年代の解析を行った.具体的には,複数地点においてミリメートルオーダーの解像度で放射性炭素年代測定を実施した.その後年代較正解析プログラムOxCal ver. 4.2.4(Ramsey, 2009)の堆積モデルを用いて,暦年較正結果に制約をかけた.このモデルでは堆積した順序や深度といった情報から暦年較正結果に制約を設けて年代-深度モデルを作成することができる(Ramsey, 2008).
本研究では,較正曲線に揺らぎが認められ,通常の放射性炭素年代測定のみでは正確な年代決定が特に困難な,17世紀頃の津波堆積物を主対象として年代決定を試みた.その例として,北海道浦幌町における古津波堆積物(七山ほか, 2002)や岩手県野田村など複数地点の泥炭層で連続的に放射性炭素年代測定を行った.例えば浦幌町の津波堆積物は,Ta-bテフラ(1667年噴火)の直下に位置することから,1667年以前の17世紀に堆積したと考えられている(西村・中村, 2010).本研究の結果,ベイズ理論で制約をかけて年代-深度モデルを作成することで,この津波堆積物が従来考えられていたように17世紀前半から半ばに形成された可能性が高いことを定量的に示すことができた.
このモデルを用いれば,較正曲線に揺らぎが認められる区間においても,津波堆積物の高精度年代決定が可能であり,海溝型地震の再来間隔の解析や,広域に分布する津波堆積物の年代対比に寄与できると期待される.