日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

2015年5月27日(水) 16:15 〜 18:00 304 (3F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、座長:森 俊哉(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)、寺田 暁彦(東京工業大学火山流体研究センター)

17:09 〜 17:12

[SVC45-P04] 十和田火山中掫テフラ層(噴火エピソードC)の噴火推移の復元

ポスター講演3分口頭発表枠

*井澤 慶俊1宮本 毅2 (1.東北大学大学院理学研究科、2.東北大学東北アジア研究センター)

キーワード:十和田火山, 中掫テフラ層, マグマ噴火, マグマ水蒸気噴火

火口湖である十和田湖を有する十和田火山は、中湖火口を給源としたいずれの活動においても、デイサイト~流紋岩質のマグマ噴火からマグマ水蒸気噴火へ推移する噴火を繰り返してきた(Hayakawa, 1985)。最新の噴火である平安噴火では、マグマ噴火からマグマ水蒸気噴火への移行が時間間隙なく連続的に進行し、噴火様式の変化に軽石の気泡成長が関与している可能性が示唆された(広井・宮本, 2011)。一方、中湖火口を給源とする他の噴火については、マグマ噴火からマグマ水蒸気噴火への移行の連続性を議論した噴火推移の復元はほとんどなされていない。
中掫テフラ層は、約6,200年前に発生した中湖火口を給源とする最大規模の噴火である(工藤・佐々木, 2007)。下位からマグマ噴火噴出物である中掫軽石(CP)、金ヶ沢軽石(KP)、マグマ水蒸気噴火噴出物である宇樽部火山灰(UA)に区分され(早川, 1983)、遷移期である金ヶ沢軽石を挟んで噴火様式がマグマ噴火からマグマ水蒸気噴火へ推移した。Hayakawa(1985)ではこの層序に基づいて噴火推移の復元がなされているが、3ユニットの連続性に関しては言及されておらず、マグマ噴火からマグマ水蒸気噴火への移行が連続的であったかどうかは不明である。また、先行研究間(例えばHayakawa, 1985; 松山・大池, 1986)で金ヶ沢軽石の区分について一致しておらず、詳しい噴火様式や噴火推移についても明らかでない。本研究では、中掫テフラ層の詳細な野外調査に基づき、噴火層序を再検討し、各ユニット間の連続性に注目しながら噴火推移の復元を行う。
中掫軽石は、類質~異質岩片を少量含むプリニー式の白色~黄褐色降下軽石層(早川, 1983)で、田代平(給源から南東8.1km)では総層厚327cmである。粒径変化に基づき下位よりCP1~CP4の4つのサブユニットに区分され、CP1からCP2にかけていったん細粒となったのち、CP3で最も粗粒となってCP4で極細粒となる。各サブユニット間の粒径変化は急激でかつ漸移することから、中掫軽石はすべて一連の降下軽石であるといえる。全体の8割を占め最も層厚の厚いCP3は粒径変化のない一様な堆積物で、層厚は距離に対して系統的に減少する。一方、金ヶ沢軽石に直接覆われるCP4の層厚は距離に対して系統的な変化を示さない。これはCP4の堆積後、金ヶ沢軽石の堆積までにCP4が侵食を受けたためと考えられ、両ユニット間での時間間隙の存在を示唆する。
金ヶ沢軽石は堆積物の岩相と連続性から、下位よりKP1~KP5の5つのサブユニットに区分される。KP2、KP4、KP5は降下火山礫、KP1、KP3は細粒火山灰からなる。KP2とKP4は層内で岩相の明瞭な変化がみられ、下部は灰色の安山岩質溶岩を主体とした類質~異質岩片が卓越する(岩片量約70wt%)。一方、上部は黄褐色軽石が卓越するが(岩片量約30wt%)、両者は漸移する。この変化は遠方でも同様で、噴煙柱内での構成物の密度差による分別で層相に違いが生じたとは考えにくい。金ヶ沢軽石は級化した軽石が累重した層(Hayakawa, 1985)、軽石と礫の互層(松山・大池, 1986)であると報告されてきたが、本研究では岩片主体から軽石主体へ漸移する降下火砕物であることを確認した。KP5は石質岩片が卓越する部分のみが観察され、CP4と同様に層厚の系統的な距離変化は認められない。
宇樽部火山灰は、火口近傍においてマグマ水蒸気噴火噴出物に特徴的な大量の火山豆石や、サグ構造が観察される。火砕サージ堆積物の分布は十和田カルデラ内とされてきたが(Hayakawa, 1985; 工藤・佐々木, 2007)、外輪山斜面上において宇樽部火山灰が下位のKP5を削剥しており、カルデラ外でも降下火山灰と火砕サージの互層からなる可能性がある。
以上の噴火層序から、噴火推移を次のように復元した。中掫軽石はCP1の小規模な噴煙柱が形成された後、一時的に噴煙柱の勢いが弱まって細粒のCP2を堆積し、その後急激に勢いを強め、安定した噴煙柱を形成した(CP3)。末期には急速に噴煙柱の勢いを弱めCP4を堆積したが、中掫軽石と金ヶ沢軽石の間には、CP4がすべて侵食されない程度の時間間隙が存在し、CP4が堆積後に噴火が一旦終息した可能性が考えられる。金ヶ沢軽石の噴火様式についてはさらに検討の余地があるが、爆発現象を伴いながら(KP2とKP4の下部、KP5)軽石を堆積させる噴煙柱が形成された(KP2とKP4の上部)可能性が考えられる。このような噴火が細粒火山灰(KP1、KP3)を狭在して断続的に3度発生した後、マグマ水蒸気噴火へと移行し、宇樽部火山灰を堆積させた。金ヶ沢軽石から宇樽部火山灰への移行では、宇樽部火山灰の火砕サージによるKP5の削剥の影響もあり明らかではないが、CP4の場合と同様に侵食を受ける程度の時間間隙が存在した可能性がある。以上より、中掫テフラ層の3つのユニットは、各ユニット間での時間間隙の存在からそれぞれ独立した噴火事象によって形成されたと考えられる。