18:15 〜 19:30
[PPS23-P07] 地形と相関しない月の重力異常とその成因
キーワード:リッジ, 衝突盆地, 重力インバージョン, 貫入, 火成活動
Zuber et al (2013)は、月探査機GRAILの初期ミッションフェーズの観測データの解析によって得られた球面調和関数420次まで展開された重力場データに基づき、80次~300次においては重力乱れポテンシャルの98%が地形起因であるが、残りの2%は地形と相関せず地下の高密度物質に起因すると提唱した。現在ではGRAILの全ミッションフェーズの観測データの解析により、月の重力場は球面調和関数900次まで展開されており(Lemoine et al., 2014 ; Konopliv et al., 2014)、月内部の詳細な情報を取得することが可能になった。
本研究では、最新の測月データに基づき月における地形と相関しない重力異常が認められる地域を検出し、ブーゲー異常の3次元解析の実施により地殻内の密度構造とその成因の推定を目指す。
地形データは球面調和関数1080次のモデルLRO_LTM01_PA_1080 (Neumann, 2013)を用いる。ブーゲー異常は球面調和関数900次の重力ポテンシャル係数データ(Lemoine et al., 2014)と地形データから計算する(補正密度2560 kg/m^3)。なおブーゲー異常は、重力モデルの信頼性(Lemoine et al., 2014)を考慮し、球面調和関数の最大次数を600次として求めた。得られたブーゲー異常データと地形データから、地形と相関していない重力異常が認められる23地域を検出した。ブーゲー異常からモホ面の深さをWieczorek and Phillips (1998)の重力インバージョンで算出し、モホ面の起伏によるブーゲー異常を差し引いたブーゲー異常を地殻内の密度異常によるブーゲー異常(以降、残差ブーゲー異常)とする。モホ面の深さを求める際には、先行研究によるアポロ12/14号サイトの地殻厚と地殻の平均厚さと調和的な厚さになるように地殻密度(2750 kg/m^3)とマントル密度(3360 kg/m^3)を設定した。正の残差ブーゲー異常が顕著に認められる14地域に対して、Banerjee and Gupta (1977)の角柱近似の手法を適用し、地殻中の高密度領域(密度差610 kg/m^3)の形状及び位置を見積もった。残りの9地域については、残差ブーゲー異常がほぼ0となり、地形と相関していないブーゲー異常がモホ面の起伏で説明できることが分かった。
角柱近似を適用した14地域全てにおいて、地殻中の高密度領域は水平方向に卓越した形状であり、モホ面に接するように位置する。月探査機「かぐや(SELENE)」のマルチバンドイメージャ(MI)(Ohtake et al., 2008)によって得られた波長750nmの反射率マップとの比較から、この14地域は反射率が低い海に分布する。また、この14地域はリッジや衝突盆地のリング構造に沿って分布する。したがって、角柱近似で得られた高密度領域は過去の火成活動とリッジ・衝突盆地の形成プロセスに関連していることが示唆される。
以上より、次のシナリオが考えられる。リッジあるいは衝突盆地の形成の際、地殻内に生じた亀裂によってマグマ貫入が促進され、地殻内へマグマが貫入した。しかし月の揮発性物質は乏しく、貫入の際に十分な圧力・浮力が得られなかったために、モホ面付近の地殻深部で水平な板状に広がるように貫入が進行し、地殻中の高密度領域の成因となった。なお、この高密度領域の密度はマントルと同等と考えられるため、本解析では波長の長いものについてはモホ面の起伏として検出されたと考えられる。
謝辞:本研究ではLOLA Data Archive (http:// imbrium.mit.edu/LOLA.html)の地形データ、NASA PDS Geoscience Node (http:// pds-geosciences.wust.edu/missions/grail/default.htm)の重力ポテンシャルの係数データを使用しました。また、モホ面の深さ及びモホ面の起伏によるブーゲー異常の計算にはSHTOOLS(http://shtools.ipgp.fr)を用いました。記して感謝致します。
本研究では、最新の測月データに基づき月における地形と相関しない重力異常が認められる地域を検出し、ブーゲー異常の3次元解析の実施により地殻内の密度構造とその成因の推定を目指す。
地形データは球面調和関数1080次のモデルLRO_LTM01_PA_1080 (Neumann, 2013)を用いる。ブーゲー異常は球面調和関数900次の重力ポテンシャル係数データ(Lemoine et al., 2014)と地形データから計算する(補正密度2560 kg/m^3)。なおブーゲー異常は、重力モデルの信頼性(Lemoine et al., 2014)を考慮し、球面調和関数の最大次数を600次として求めた。得られたブーゲー異常データと地形データから、地形と相関していない重力異常が認められる23地域を検出した。ブーゲー異常からモホ面の深さをWieczorek and Phillips (1998)の重力インバージョンで算出し、モホ面の起伏によるブーゲー異常を差し引いたブーゲー異常を地殻内の密度異常によるブーゲー異常(以降、残差ブーゲー異常)とする。モホ面の深さを求める際には、先行研究によるアポロ12/14号サイトの地殻厚と地殻の平均厚さと調和的な厚さになるように地殻密度(2750 kg/m^3)とマントル密度(3360 kg/m^3)を設定した。正の残差ブーゲー異常が顕著に認められる14地域に対して、Banerjee and Gupta (1977)の角柱近似の手法を適用し、地殻中の高密度領域(密度差610 kg/m^3)の形状及び位置を見積もった。残りの9地域については、残差ブーゲー異常がほぼ0となり、地形と相関していないブーゲー異常がモホ面の起伏で説明できることが分かった。
角柱近似を適用した14地域全てにおいて、地殻中の高密度領域は水平方向に卓越した形状であり、モホ面に接するように位置する。月探査機「かぐや(SELENE)」のマルチバンドイメージャ(MI)(Ohtake et al., 2008)によって得られた波長750nmの反射率マップとの比較から、この14地域は反射率が低い海に分布する。また、この14地域はリッジや衝突盆地のリング構造に沿って分布する。したがって、角柱近似で得られた高密度領域は過去の火成活動とリッジ・衝突盆地の形成プロセスに関連していることが示唆される。
以上より、次のシナリオが考えられる。リッジあるいは衝突盆地の形成の際、地殻内に生じた亀裂によってマグマ貫入が促進され、地殻内へマグマが貫入した。しかし月の揮発性物質は乏しく、貫入の際に十分な圧力・浮力が得られなかったために、モホ面付近の地殻深部で水平な板状に広がるように貫入が進行し、地殻中の高密度領域の成因となった。なお、この高密度領域の密度はマントルと同等と考えられるため、本解析では波長の長いものについてはモホ面の起伏として検出されたと考えられる。
謝辞:本研究ではLOLA Data Archive (http:// imbrium.mit.edu/LOLA.html)の地形データ、NASA PDS Geoscience Node (http:// pds-geosciences.wust.edu/missions/grail/default.htm)の重力ポテンシャルの係数データを使用しました。また、モホ面の深さ及びモホ面の起伏によるブーゲー異常の計算にはSHTOOLS(http://shtools.ipgp.fr)を用いました。記して感謝致します。