日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG62] スロー地震

2015年5月27日(水) 16:15 〜 18:00 303 (3F)

コンビーナ:*廣瀬 仁(神戸大学都市安全研究センター)、小原 一成(東京大学地震研究所)、中田 令子(海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センター)、座長:武田 哲也(防災科学技術研究所)、廣瀬 仁(神戸大学都市安全研究センター)

17:30 〜 17:33

[SCG62-P01] 「低周波地震」を用いた地震波異方性の検出にむけて

ポスター講演3分口頭発表枠

*石瀬 素子1西田 究1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:低周波地震, 地震波異方性, 流体

地震観測網の稠密化に伴い,通常の地震とは特徴が異なる様々な振動現象(スロー地震)が相次いで発見されてきている.そのひとつである深部低周波微動は,スロー地震のなかで最も発生頻度の高い現象であり,他のスロー地震と連動して時空間的に発展することが知られている(例えば,Rogers and Dragert, 2003).また,これらスロー地震は西南日本のフィリピン海プレート境界の巨大地震の震源域と接するように発生しており,深部低周波微動のメカニズム解明は,一連のスロー地震活動の理解だけでなく,プレート境界地震の発生準備過程の研究にも重要な情報をもたらすと考えられる.そのため,深部低周波微動の発生メカニズムに関する研究は,その活動の発見以来 (Obara, 2002),すでに数多く報告されている.しかし,これらからは,共通して流体との関連性が示唆されてはいるが(例えば,Katsumata and Kamaya, 2003; Shelly et al., 2006),その詳細は未だ明らかではない.そこで,我々は,流体の特性に非常に敏感な性質である「地震波異方性」に注目し,その「時空間変化」という観点から,流体と深部低周波微動活動との関連性の解明を進めていくことを計画した.

その第一歩として,本研究では,西南日本のフィリピン海プレート境界付近で発生した「低周波地震」を対象とした異方性測定を実施したのでその暫定結果を報告する.ここでいう「低周波地震」とは,気象庁地震月報の情報に従っている.これは,深部低周波微動の微動波群に含まれる孤立的な位相に対応しており,S波として検測され震源決定に用いられている(西出・他,2000).従って,異方性の測定にはS波スプリッティング解析を用いる(例えば,Ando, 1983).この手法では,分裂したふたつのS波のうち,速いS波の振動方向と両者の到達時間差で,異方性の方向と強さが記述される.これらのパラメータは,直交した水平動2成分の相互相関係数が高くなるような回転角と,時間軸方向の移動によって求められる.

ここでは,愛媛県と香川県の県境付近を震源とする微動活動から得られた異方性の特徴を記す.なお,以下の結果は,2-8Hzのバンドパスフィルターを適用して得られたものである.

異方性を決定する際の指標とした相互相関係数は,測定の確からしさともいえる.しかし,本研究で実施した解析の相関係数は通常の地震を対象とした場合に比べて有意に低く,現時点では,相関係数0.8を超えるイベントはない.このよう状況ではあるが,比較的相関の高いイベント間では互いに似た異方性が得られており,その方向は東西系で大きさは0.2-0.4秒程度であった.ただし,時空間変化の議論については,これまでの解析数が十分でないため,今後の課題とする.

さらに,もうひとつの課題として,S波スプリッティング法を用いた解析で得られる異方性の不確定性の問題がある.この方法で得られる異方性は,波線が通過した領域にある全ての異方性の影響がかけ合わさったものとなる.従って,本解析で得られた異方性には,少なくとも上部地殻や下部地殻の異方性が含まれている.そのため,異方性の変化の検出はできても,震源付近の異方性についての厳密な議論には,剥ぎ取り法(Oda, 2011)などを用いて浅部の異方性を補正し,震源付近の異方性を明らかにする必要がある.