日本地球惑星科学連合2015年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL39] 地球年代学・同位体地球科学

2015年5月24日(日) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)

18:15 〜 19:30

[SGL39-P04] 安定同位体比質量分析計IsoPrime100を用いた高精度・高感度分析システムの開発

中根 雅晴1田中 崇史1鐵 智美1高木 悠花2、*石村 豊穂1 (1.茨城工業高等専門学校、2.早稲田大学)

キーワード:安定同位体, 炭酸塩, 開発, 高精度, 微量分析

[はじめに] 
炭酸塩,特に炭酸カルシウム(CaCO3)の炭素酸素安定同位体組成(δ13C,δ18O)は,生成当時の環境履歴をその同位体値に記録することから,過去60年以上にわたり世界中の地球科学研究で活用されてきた.特に生物源炭酸塩殻の安定同位体組成は,海水のδ18O(塩分変動・全球氷床量)と水温履歴,そして溶存無機炭素(DIC)のδ13Cを記録するので,物質循環や環境変動メカニズムの解明に関わる基礎情報として重要である.また,堆積物中や岩石中で無機沈殿によって形成される炭酸塩の安定同位体組成も,生成に伴う環境履歴を記録していることから,周辺水の温度や流体に含まれる炭素源の推定に活用することができる.この安定同位体値を国際対比するためには,国際標準炭酸塩や標準海水を用いた安定同位体比分析を高精度で安定して行うことが分析の基本となる.同時に,常に同じ基準での分析を維持するためには分析機器の長期安定性を確保する必要がある. しかし最近の商用分析システムは自動化と電子化(=ブラックボックス化)が進み,結果的に経年劣化への対応に困難を伴う場合があり,常に国際対比に耐えうるだけの分析精度を維持することが容易ではない.
 当該研究の進展に伴い,高解像度解析を目的とした微量炭酸塩の「高感度」安定同位体比分析が重要視されている. また,近年注目されている絶対温度指標であるclumped-isotope 古水温計(Gosh et al., 2006など)の研究には質量数47のCO2の高精度分析が必須であり,従来よりも「高精度」での分析をおこなう必要がある.これらの問題を解決するために、茨城高専では2014年に2台の安定同位体比質量分析計IsoPrime100を導入し,分析計の高度な調整を進めている.加えて、信頼性と安定性の高い分析を実現するための試料導入システムを独自に構築し,高精度化と高感度化を実現しつつ分析の効率化と透明性の確保を目指した.
[高精度安定同位体比分析の概要]  
デュアルインレット式安定同位体比質量分析計と,独自に構築した小型多連式ガス精製・保存システム(SPICAL2)およびガス試料導入システムからなる.100 % CO2ガス分析の外部精度はδ13C・δ18Oともに0.01‰前後であり,内部精度とほぼ同等の外部精度を引き出せることがわかった.また,国際標準炭酸塩NBS19の外部精度は,短期(1日,n=5)でδ13C・δ18Oともに±0.011‰,長期(1ヶ月,n=36)ではδ13C・δ18Oそれぞれ,±0.026‰と±0.056‰であった.
[高感度安定同位体比分析の概要] 
 連続フロー型安定同位体比質量分析計と自作の前処理システム(Ishimura et al., 2004, 2008)から構成され,炭酸塩試料と海水試料を分析した際の外部精度はδ13C・δ18Oともに±0.1‰程度であり.0.1 μg以上の炭酸塩(CO2で1nmolに相当)でも同位体比を測定できることがわかった.分析に必要な炭酸塩量は,最新の商用分析システムと比べても1/100以下での分析が可能であり,ナノグラムオーダーの炭酸塩の安定同位体組成を古海洋学・環境解析学に有用な精度で簡便に分析することが可能である.これまでの安定同位体比分析と比較すると,(1)サンプル量が少なく同位体比分析が困難であった試料を研究対象することが可能で,貴重な測定対象の消失も最小限に抑えることができ,(2)分析に用いる炭酸塩量を事前に秤量する必要が無く,試料サイズに対する自由度が高い(0.1~500μgまでの分析実績がある),また(3)反応した炭酸塩重量を高感度で簡単に定量でき,さらに(4)質量分析計に導入しなかったガスを保持することによって,複数回の導入・分析が可能で,必要に応じて分析値の検証や分析精度の向上が可能である.
[今後の展望] 
精度・感度・安定性に関しては調整を加えることによってさらなる向上が期待できる.高精度分析システムに関しては,質量数47のCO2の測定精度の検証と実際の試料分析への応用をめざしている.また高感度分析システムは分析方法の基盤を確立し,有孔虫,サンゴ,魚類の耳石,岩石切片試料など多分野に渡っての応用研究を推進している.