17:18 〜 17:21
[SMP43-P02] ザクロ石中のSiO_{2}包有物の残留圧力から読み解く超高圧変成岩の変成履歴
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:石英, 残留圧力, 石英ラマン圧力計, 超高圧変成岩, 蘇魯帯
変成作用時に成長したホスト鉱物と取り込まれた包有物の間には、それぞれの物性の違いによって残留圧力が発生する。その残留圧力を精密に読み取ることができれば、ホスト鉱物の結晶成長条件および変成岩の圧力温度 (P-T)履歴の見積もりに対して有用な情報を提供する。Enami et al. (2007, AM, 1303-1315)は、ザクロ石に包有されている石英のラマンスペクトルのピークシフト度合を測定し、残留圧力を推定する手法 (石英ラマン圧力計)を提案した。Kouketsu et al. (2014, AM, 433-442)では、ザクロ石中の石英が保持する残留圧力とα-石英安定下でのザクロ石成長時におけるP-T条件との関係を数値計算し、変成条件を制約する新規な手法も提案された。石英ラマン圧力計は、従来の熱力学モデルに基づく地質温度圧力計および相平衡に依存しない。それゆえ、熱力学的解析では検出困難な場合が多い累進変成作用の解読に有効と考えられる。しかし、石英ラマン圧力計は、原理的に少なくとも石英が不安定になる圧力温度条件下で形成された超高圧変成岩に適用することは出来ない。とは言うものの、石英安定条件下でザクロ石に取り込まれた石英は、累進変成作用初期に経験した情報を保存している可能性がある。そこで本研究は、ザクロ石中の石英の残留圧力から超高圧変成岩の変成履歴を制約できるか検討した。
研究試料は、中国東部・蘇魯帯に属する楊庄地域のエクロジャイトを用いた。楊庄地域ではこれまでコース石の報告は無いが、コース石の石英仮像の記載および熱力学モデルによる解析によって、2.7-3.5 GPa/660-830 ℃のピーク変成条件が見積もられている (Enami and Nagasaki, 1999, IAR, 459-474)。これは楊庄地域の試料に、石英からコース石安定下での累進P-T経路が記録されている可能性を示唆している。
ザクロ石はその化学組成から、Inner (Alm49-54Prp16-28Grs21-29Sps1, XMg = 0.22-0.36)とOuter (Alm45-52Prp18-31 Grs23-29Sps1, XMg = 0.29-0.41)部に区分され、その境界はGrs成分の不連続変化によって定義された。Inner部ではSiO2相全てがα-石英であり、コース石の仮像および石英包有物周囲に顕著なクラックは確認されなかった。石英は最高0.9 GPa程度の残留圧力値を示し、ザクロ石Inner部の結晶コアからマントル部に向かって、Grs成分の減少に対応して系統的に残留圧力値が増加する傾向を示した。この残留圧力を、数値計算により変成圧力へ逆算すると、石英-コース石転移曲線付近の圧力条件を示した。Outer部では、クラックが発達したコース石の仮像が認められるとともに、藍晶石包有物中に本地域では初となるコース石を確認した。本試料中のコース石の存在は、これまでに地質温度圧力計から見積もられているP-T条件を支持する。上記の結果は、(1) Inner部の石英はザクロ石に包有された後、コース石への相転移を免れ、そして現在も昇温変成作用初期のP-T情報を保存すること、(2) Outer部に認められるSiO2相包有物は、コース石としてザクロ石へ包有されて、上昇時にそのほとんどが石英へ相転移し、残留圧力が開放されたことを示唆している。すなわち石英ラマン圧力計は、超高圧変成岩の場合でさえも、石英安定条件下で包有された石英であれば、累進変成作用初期のP-T条件を導出する上で有用な手法である事を示している。
研究試料は、中国東部・蘇魯帯に属する楊庄地域のエクロジャイトを用いた。楊庄地域ではこれまでコース石の報告は無いが、コース石の石英仮像の記載および熱力学モデルによる解析によって、2.7-3.5 GPa/660-830 ℃のピーク変成条件が見積もられている (Enami and Nagasaki, 1999, IAR, 459-474)。これは楊庄地域の試料に、石英からコース石安定下での累進P-T経路が記録されている可能性を示唆している。
ザクロ石はその化学組成から、Inner (Alm49-54Prp16-28Grs21-29Sps1, XMg = 0.22-0.36)とOuter (Alm45-52Prp18-31 Grs23-29Sps1, XMg = 0.29-0.41)部に区分され、その境界はGrs成分の不連続変化によって定義された。Inner部ではSiO2相全てがα-石英であり、コース石の仮像および石英包有物周囲に顕著なクラックは確認されなかった。石英は最高0.9 GPa程度の残留圧力値を示し、ザクロ石Inner部の結晶コアからマントル部に向かって、Grs成分の減少に対応して系統的に残留圧力値が増加する傾向を示した。この残留圧力を、数値計算により変成圧力へ逆算すると、石英-コース石転移曲線付近の圧力条件を示した。Outer部では、クラックが発達したコース石の仮像が認められるとともに、藍晶石包有物中に本地域では初となるコース石を確認した。本試料中のコース石の存在は、これまでに地質温度圧力計から見積もられているP-T条件を支持する。上記の結果は、(1) Inner部の石英はザクロ石に包有された後、コース石への相転移を免れ、そして現在も昇温変成作用初期のP-T情報を保存すること、(2) Outer部に認められるSiO2相包有物は、コース石としてザクロ石へ包有されて、上昇時にそのほとんどが石英へ相転移し、残留圧力が開放されたことを示唆している。すなわち石英ラマン圧力計は、超高圧変成岩の場合でさえも、石英安定条件下で包有された石英であれば、累進変成作用初期のP-T条件を導出する上で有用な手法である事を示している。