10:15 〜 10:30
[MIS22-06] ジュール加熱により引き起こされる地球内核中の流れについて
キーワード:地球内核異方性, 地球外核磁場, 地球外核流れ, 内核外核境界, 地球外核ダイナモ作用
地震波観測により示された地球内核の弾性的性質の異方性は, 内核の固化における固体組織の整列や内核中の流体運動による塑性変形による組織の整列によるものと考えられてきている. 内核の固化では異方性の深さ分布が説明できない一方で, これまでに考察されたさまざまな要因による内核中の流れでは異方性を生み出すに十分なほど決定的ではない. Takehiro (2011) では, 内核中の流れを引き起こす要因として, 内核外核境界で与えられた磁場が内核中へ貫入し発生するジュール熱を提案した. 具体的に, 球面調和函数の全波数 2, 方位角波数 0 のトロイダル磁場成分を内核外核境界において与えて計算したところ, 赤道域で下降流, 極域で上昇流の流れのパターンが得られた. この流れ場は外核との質量交換を伴っており, 内核外核境界 (ICB) にて0 でない速度の動径成分が存在している. このような流れ場が得られた要因は, ICB での境界条件として応力の法線成分が一定であることを用いていることにあり, 暗に ICB を通過する物質の相変化が瞬間的であることを仮定している. しかしながら, 実際には物質の相変化の速度は有限であり, もしも十分に相変化の速度が遅ければ, 流れの動径成分の存在により ICB が変形し凹凸が発達することになるだろう. このような表面変位が存在すると, 内外核間の密度差による浮力が働き, 内核中の流れを妨げる可能性がある.
そこで本研究では, 水平不均一なジュール加熱により引き起こされる地球内核中の流れに対する表面変位の影響を考察し, どの程度の振幅の表面変位が発達し内核中の流れ場がどう変形されるのかを吟味した.
内核外核境界における磁場分布と表面変位分布を与えたときのジュール熱により引き起こされる定常な速度場を数値的に求めた. 用いた方程式は磁場の拡散の式, ブシネスク流体の運動方程式および熱の式である. 境界条件は内核外核境界において応力の接線成分が 0 に加えて, 温度擾乱が融点温度に等しいことと応力法線成分が表面変位による浮力とバランスする式を用いた. 球面調和函数の全波数 2, 方位角波数 0, トロイダル磁場成分および表面変位を与え, 地球内核中で予想されているパラメターを用いて計算したところ, ICB でのトロイダル磁場振幅が 10-2--10-1 T に応じて表面変位振幅が 0.018 -- 1.8 m 程度で内核表面での速度動径成分が 0 となる結果が得られた.
これに対して, 相変化の速度を見積もるために, ICB を通って出てくる固相の鉄を融かすに必要な熱(あるいは ICB を通って入っていく液相の鉄を凝結させるに必要な熱)が外核中の速度場によって ICB 表面に輸送される熱とのバランスを考えた. ICB における表面変位は断熱温度と融解温度の温度差を生じ, これに伴う熱が外核中の小スケールの速度場によって ICB 表面に輸送されると考えた.
この熱バランスによる式を上の数値計算結果に適用することにより, 平衡状態での表面変位振幅と速度動径成分振幅が定められる. 外核中の小スケールの速度場の振幅が 10-1-10-2m/s 程度に速いときには変位の発達速度に対して相変化の速度が十分に大きく, ICB において 10-10 m/s 程度の速度動径成分が存在し, 表面変位振幅が 0.006 -- 0.06 m 程度となる. これに対して, 外核中の小スケールの速度場の振幅が 10-4-10-5m/s 程度に遅いときには, 相変化の速度に対して表面変位の発達速度が十分に速く, ICB における速度動径成分が 0 となり, 表面変位が 1 m にまで発達する.
表面変位振幅が大きくなるにつれて, ICB における速度動径成分が小さくなり, ICB 直下に内部領域とは逆向きの流れが現れるようになる. しかし以前として内部領域の流れは表面変位によって妨げられることなく赤道から極へ向けての流れが存在している. このことは, 内部領域の流れを定めるバランスが水平不均一のジュール加熱と移流による熱輸送との熱バランスによるものであり, 力学的要因でないからである. 一方, 流れ場の応力の振幅は表面変位振幅が大きくなるにつれて内部領域よりも ICB 付近で大きくなってしまう. このことは, 地球内核の地震波速度異方性を説明するのに表面変位が大きい場合には整合的でないという結論に達する. しかしながらこのメカニズムは核マントル境界での熱フラックスが大きくより強い地球磁場が外核において生成されていたと考えられる過去の地球内核において重要な役割を果たしていた可能性が残されている.
参考文献:Takehiro, S., 2011: Phys. Earth Planet. Inter., 184, 134--142.
そこで本研究では, 水平不均一なジュール加熱により引き起こされる地球内核中の流れに対する表面変位の影響を考察し, どの程度の振幅の表面変位が発達し内核中の流れ場がどう変形されるのかを吟味した.
内核外核境界における磁場分布と表面変位分布を与えたときのジュール熱により引き起こされる定常な速度場を数値的に求めた. 用いた方程式は磁場の拡散の式, ブシネスク流体の運動方程式および熱の式である. 境界条件は内核外核境界において応力の接線成分が 0 に加えて, 温度擾乱が融点温度に等しいことと応力法線成分が表面変位による浮力とバランスする式を用いた. 球面調和函数の全波数 2, 方位角波数 0, トロイダル磁場成分および表面変位を与え, 地球内核中で予想されているパラメターを用いて計算したところ, ICB でのトロイダル磁場振幅が 10-2--10-1 T に応じて表面変位振幅が 0.018 -- 1.8 m 程度で内核表面での速度動径成分が 0 となる結果が得られた.
これに対して, 相変化の速度を見積もるために, ICB を通って出てくる固相の鉄を融かすに必要な熱(あるいは ICB を通って入っていく液相の鉄を凝結させるに必要な熱)が外核中の速度場によって ICB 表面に輸送される熱とのバランスを考えた. ICB における表面変位は断熱温度と融解温度の温度差を生じ, これに伴う熱が外核中の小スケールの速度場によって ICB 表面に輸送されると考えた.
この熱バランスによる式を上の数値計算結果に適用することにより, 平衡状態での表面変位振幅と速度動径成分振幅が定められる. 外核中の小スケールの速度場の振幅が 10-1-10-2m/s 程度に速いときには変位の発達速度に対して相変化の速度が十分に大きく, ICB において 10-10 m/s 程度の速度動径成分が存在し, 表面変位振幅が 0.006 -- 0.06 m 程度となる. これに対して, 外核中の小スケールの速度場の振幅が 10-4-10-5m/s 程度に遅いときには, 相変化の速度に対して表面変位の発達速度が十分に速く, ICB における速度動径成分が 0 となり, 表面変位が 1 m にまで発達する.
表面変位振幅が大きくなるにつれて, ICB における速度動径成分が小さくなり, ICB 直下に内部領域とは逆向きの流れが現れるようになる. しかし以前として内部領域の流れは表面変位によって妨げられることなく赤道から極へ向けての流れが存在している. このことは, 内部領域の流れを定めるバランスが水平不均一のジュール加熱と移流による熱輸送との熱バランスによるものであり, 力学的要因でないからである. 一方, 流れ場の応力の振幅は表面変位振幅が大きくなるにつれて内部領域よりも ICB 付近で大きくなってしまう. このことは, 地球内核の地震波速度異方性を説明するのに表面変位が大きい場合には整合的でないという結論に達する. しかしながらこのメカニズムは核マントル境界での熱フラックスが大きくより強い地球磁場が外核において生成されていたと考えられる過去の地球内核において重要な役割を果たしていた可能性が残されている.
参考文献:Takehiro, S., 2011: Phys. Earth Planet. Inter., 184, 134--142.