日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG28] 生命-水-鉱物-大気相互作用

2015年5月26日(火) 12:00 〜 12:45 105 (1F)

コンビーナ:*白石 史人(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、大竹 翼(北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門)、鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、高井 研(海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター)、上野 雄一郎(東京工業大学大学院地球惑星科学専攻)、長沼 毅(広島大学大学院生物圏科学研究科)、掛川 武(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、横山 正(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)、中村 謙太郎(独立行政法人海洋研究開発機構 (JAMSTEC) システム地球ラボ プレカンブリアンエコシステムラボユニット)、座長:長沼 毅(広島大学大学院生物圏科学研究科)、上野 雄一郎(東京工業大学大学院地球惑星科学専攻)

12:15 〜 12:30

[BCG28-02] 深海底の熱水活動が停止した硫化物チムニー内部に優占する古細菌の新規系統群

*古谷 仁志1幸塚 麻里子1砂村 倫成1加藤 真悟2中村 謙太郎3鈴木 庸平1 (1.東京大学大学院理学系研究科、2.独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター、3.独立行政法人海洋研究開発機構 (JAMSTEC))

キーワード:深海底熱水噴出域, 金属硫化物構造体, 古細菌, DHVE6

金属硫化物の表面で生命が誕生したとする表面代謝説は, 深海底熱水噴出域を誕生の場として有力視している. 熱水活動停止後に,金属硫化物の溶解反応に依存した微生物が酸化的環境に生息することは知られるが,初期地球に普遍的だった還元的環境において溶解速度が遅いため, 微生物の存在は懐疑的だった.近年,地下生命圏に代表とされる極貧栄養環境に微生物が生息することが明らかになってきている.そのため, 還元的環境で金属硫化物との反応に依存した微生物が存在し, 金属硫化物と相互作用する機構を有する可能性が高い. 生命誕生における金属硫化物の役割の解明の足がかりを得ることを目的として, 深海底熱水噴孔に形成した金属硫化物に着目して研究を行った. これまでインド洋と太平洋の深海底熱水噴出域において, 熱水活動が停止した金属硫化物構造体デッドチムニー内部の微生物研究が行われているが,前者でNitrospirae門の細菌が優占した一方,後者では優占しなかった.Nitrospirae門の細菌は黄鉄鉱を普遍的に含む大陸地殻の深部花崗岩体で優占するため,生息環境を明らかにすることは重要である.金属硫化物構造体中の微生物群集組成は鉱物組成や酸化還元度等によって規定されるが,太平洋の先行研究では鉱物組成しか明らかにしていない.そこで本研究では先行研究と同じく太平洋の南部マリアナトラフにおいてデッドチムニーを採取し,詳細な鉱物学的,微生物学的分析を実施した.まず粉末X線回折,走査型電子顕微鏡観察およびエネルギー分散型X線分析により,内側から順に黄銅鉱(CuFeS2)層,白鉄鉱層(FeS2),鉄酸化物層が同心円状に分布し,内部はほとんど酸化的変質により生じる鉄酸化物を伴わないことが明らかになった.薄片の各層からマイクロドリルで削り出した試料を用いて鉄酸化物の価数を比色法により定量した結果,内部は多くが二価であり還元的であったことが確認できた.次に内外の各層からDNAを抽出し次世代シーケンサーを用いた16S rRNA遺伝子配列に基づく分子系統解析を行ったところ,外側でNitrospirae門の細菌が優占していた.特筆すべきことに内側では古細菌の割合が約33%と高く,この割合は定量PCR法による測定でも支持された.系統解析の結果からは,この古細菌の大部分がDeep-Sea Hydrothermal Vent Euryarhaeota 6(DHVE6)に分類された.DHVE6の古細菌の系統群について最尤法による系統解析を行ったところ,南部マリアナトラフのデッドチムニーで得られたDHVE6の古細菌は沖縄の熱水噴出域や陸域の堆積物から得られているDHVE6グループとは異なる新たな系統を形成することから, 金属硫化物内部に適応したグループである可能性がある.微生物細胞分布と内部構造の相関を探るためSYBR Green Iで薄片中の微生物細胞内のDNAを蛍光染色し,共焦点レーザー顕微鏡により観察したところ,白鉄鉱層の空隙や表面に微生物細胞が集積する様子が確認できた.以上からNitrospirae門の細菌は酸化的変質境界で,DHVE6の古細菌は還元的な環境でそれぞれ硫化金属との相互作用に適応しており,同環境に普遍的な群集であることが示唆された.これらの微生物は生命誕生時の金属硫化物と生命の相互作用の情報を有する可能性があり, 初期生命研究において重要な足がかりとなることが期待される.