日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS21] 大気化学

2015年5月28日(木) 14:15 〜 16:00 201B (2F)

コンビーナ:*澤 庸介(気象研究所海洋・地球化学研究部)、竹川 暢之(首都大学東京 大学院理工学研究科)、金谷 有剛(独立行政法人海洋研究開発機構地球環境変動領域)、高橋 けんし(京都大学生存圏研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、座長:佐藤 圭(独立行政法人国立環境研究所地域環境研究センター広域大気環境研究室)

15:30 〜 15:45

[AAS21-25] MAX-DOAS 法による横須賀での大気中ホルムアルデヒド連続観測:妥当性の検証とオゾン濃度との相関

*金谷 有剛1Oleg Postylyakov2入江 仁士3高島 久洋4 (1.海洋研究開発機構、2.ロシア科学アカデミー大気物理研究所、3.千葉大学、4.福岡大学)

キーワード:対流圏光化学, 揮発性有機化合物, 都市大気, オゾン前駆物質

対流圏オゾンは、CO2, メタンに次ぎ、ブラックカーボンと同程度の温暖化効果があるとされる重要な気体である。主に光化学反応により大気中で生成されるが、前駆物質である揮発性有機化合物(VOC)の存在量や発生源等に関する不確かさが大きく、定量的な理解は十分ではない。そのため、VOCの酸化によりオゾンと同時に生成するホルムアルデヒドの量を十分な精度で把握できれば、VOC発生量やオゾン生成過程の解明に資すると考えられる。都市圏や森林といったVOCの重要な発生源のうち、本研究では、都市域の事例として、横須賀(35.32°N, 139.65°E)でのMAX-DOAS法(複数仰角散乱光分光計測・差分吸収解析法)によるホルムアルデヒド観測に関して、妥当性を検証し、オゾンとの対応関係を解析した結果を示す。
 海洋研究開発機構・横須賀本部において継続しているMAX-DOAS計測から得られた紫外可視スペクトルのうち、336.5 - 359nmの紫外波長域についてホルムアルデヒドの差分吸収解析を行った。同時に得られたエアロゾルに関する情報を用いて、複数の低仰角における差分傾斜カラム濃度から鉛直カラム濃度や高度分布を導出した。2007年10月から2013年12月までの解析期間において、冬は8-15時台、夏は6-17時台の時刻のデータを得た。西に約2km離れた追浜行政センター(横須賀市)におけるDNPH-HPLC法による地上でのホルムアルデヒド濃度測定値(月に一度)とMAX-DOASの最下層の濃度を比較すると、夏にはとくによく一致することが確かめられた。ホルムアルデヒドは近年衛星からも観測されるようになり、我々はロシア・モスクワ郊外の森林地帯において、月平均濃度に関してMAX-DOAS法との一致度は高いことを示してきた。しかしながら、横須賀では両者の一致度は十分とはいえず、空間的な濃度不均一さなどが影響している可能性が指摘された。
 MAX-DOAS観測から導出されたホルムアルデヒドの鉛直カラム濃度のうち、13時台のデータを月別に平均したところ、いずれの年においても、7-9月に極大、12-3月に極小となる季節変動が見られ、夏の極大値は(1.4-2.0)×1016 molecules cm-2の範囲であった。追浜行政センターにおける同時刻の地上オゾン濃度との対応関係を解析したところ、夏期の変動については一致度が高かったが、4-5月に見られるオゾン濃度極大時期にはホルムアルデヒドはむしろ低濃度であった。6-8月の13-14時台では、ホルムアルデヒドの高度0-1kmの部分カラム濃度は、オゾン濃度と比較的高い正相関(R=0.67)を示し、濃度の日々変動はよく一致した。これらのことから、夏期の日中において、大気中で光化学的に2次生成するホルムアルデヒドを観測から捉えていることが示唆されるとともに、寿命の短いホルムアルデヒドは、オゾンのその場生成量の評価のために用いることができ、オゾン濃度に含まれる長距離輸送寄与などと区別するために有効であることが示唆された。