18:15 〜 19:30
[SVC45-P02] バーチャルMulti-GAS法による十勝岳と樽前山の火山ガス観測
キーワード:火山ガス, 十勝岳, 樽前山
はじめに: 近年,多成分のガス濃度センサーで構成されたMulti-GASと呼ばれる小型軽量のシステムが開発され,火山ガスの成分比を現場で直接測定する手法として用いられている(Aiuppa et al., 2005; Shinohara, 2005).Multi-GASは,本来は一体型の装置であるが,本研究では,比較的安価な既製品のガス濃度計を組み合わせることでも,ほぼ同等の機能が実現できるのではないかと考えた.そこで,H2S, SO2, CO2の3種の携帯型ガス濃度計を通気性の良いケースの中に固定し,アルミ伸縮棒の先に取り付けた測定具を製作した.これを観測者が持ち,地表付近を流れる噴気の中を歩行するという方法で,北海道の十勝岳と樽前山の噴気を対象に観測を試行した.
測定方法: 本研究で用いた市販のガス濃度計は,安全管理用の警報器であり,分解能はさほど高くはない(測定分解能は,H2S: 0.1 ppm,SO2: 1 ppm,CO2: 1 ppm).さらに,CO2濃度計は90%応答特性が約1分でH2SやSO2計よりもかなり遅い.そこで,実際の観測では,比較的濃い噴気の中をゆっくりと歩行しながら測定することにした.装置ごとの応答特性の違いは,H2SとSO2の時系列に1分間の移動平均処理を施してCO2濃度計に合わせた.また,SO2濃度計はロギング機能を有していないため,液晶表示部をスマートフォンのインターバルカメラ・アプリで撮影することで,データを記録した.
測定結果: 十勝岳では,2014年9月23日に大正火口を対象に観測を行った.大正火口では,火口壁面に複数の噴気孔が列をなしている.これらの噴気孔から放出されるガスは,多くの場合,数条にまとまりながら西風に乗って壁面を舐めるように登り,尾根を過ぎたところで地表から離れて浮力によって上昇していく.このため,火口壁の尾根上を歩くと,比較的濃いガスの中を通過することができる.このようにして測定された各成分のピーク濃度値は,H2S: 約50 ppm,SO2: 約80 ppm,CO2: 約170 ppm(背景からの差)であった.濃度ピーク前後のデータを用いて任意の2成分の相関図を作成し,その傾きから成分比(モル比)を求めると,H2S/SO2: 0.48,CO2/H2S: 5.9,CO2/SO2: 2.9であった.この結果と,2014年7月に産総研が採取分析で求めた成分比(篠原, 私信)を比較したところ,その違いは15%以下であったことから,この手法にはそれなりの精度があるものと判断した.
樽前山では,2014年10月22日にA火口とE火口で同様の観測を行った.各成分のピーク濃度値は,H2S: 12 ppm,SO2: 3 ppm,CO2: 約70 ppm(背景からの差)であった.A火口の成分比は,H2S/SO2約2.4,CO2/H2S: 6.1,CO2/SO2: 約17, E火口の成分比は,H2S/SO2: 約8.9,CO2/H2S: 13,CO2/SO2: 約100となった.ただし十勝岳とは異なり,SO2はほとんど検出限界に近かった.このため,SO2と他の2成分との比は精度が低い.
放出率推定: 十勝岳においては,成分比だけではなく放出率の推定も試みた.アラスカやニュージーランドの火山では,航空機を用いたガス観測が頻繁に行われているが,その際,噴煙の断面における濃度分布をコンタリングすることで放出率を求めている例がある(例えば,Werner et al., 2005; Werner et al., 2013).我々は,これと同様のことを地上観測で行うべく,ガスセンサーを取り付けたアルミ伸縮棒の長さを調節して,3つの高さ(2.7, 3.8, 5.0 m)で大正火口噴気のトラバースを行い,噴気断面上の濃度をマッピングした.先述の通り,ガスの大半は火口壁の尾根を舐めるように流れているため,5.0 mより高い位置に濃いガスは流れていない可能性が高いが,下層の濃度分布から5.0 m以上の濃度を外挿推定して積分計算に考慮した.また,流速は,やや離れた地点から撮影したビデオ映像から読み取った.流速を濃度の断面積分値に乗じることで放出率を推定したところ,SO2の放出率は7-9 t/dと求められた.
まとめ: 本研究で用いた比較的安価なガス濃度計を利用したシステムでも,測定対象のガスが濃ければ,問題なく成分比を測定できることが確認できた.また,噴気の流れ方の条件によっては,この装置でコンタリングすることで放出率を推定することも可能であることを示した.装置は軽量なので,マルチコプター等の無人機への搭載も問題がなく,近い将来には,観測者を危険にさらすことなく測定ができるようになるものと考えている.
測定方法: 本研究で用いた市販のガス濃度計は,安全管理用の警報器であり,分解能はさほど高くはない(測定分解能は,H2S: 0.1 ppm,SO2: 1 ppm,CO2: 1 ppm).さらに,CO2濃度計は90%応答特性が約1分でH2SやSO2計よりもかなり遅い.そこで,実際の観測では,比較的濃い噴気の中をゆっくりと歩行しながら測定することにした.装置ごとの応答特性の違いは,H2SとSO2の時系列に1分間の移動平均処理を施してCO2濃度計に合わせた.また,SO2濃度計はロギング機能を有していないため,液晶表示部をスマートフォンのインターバルカメラ・アプリで撮影することで,データを記録した.
測定結果: 十勝岳では,2014年9月23日に大正火口を対象に観測を行った.大正火口では,火口壁面に複数の噴気孔が列をなしている.これらの噴気孔から放出されるガスは,多くの場合,数条にまとまりながら西風に乗って壁面を舐めるように登り,尾根を過ぎたところで地表から離れて浮力によって上昇していく.このため,火口壁の尾根上を歩くと,比較的濃いガスの中を通過することができる.このようにして測定された各成分のピーク濃度値は,H2S: 約50 ppm,SO2: 約80 ppm,CO2: 約170 ppm(背景からの差)であった.濃度ピーク前後のデータを用いて任意の2成分の相関図を作成し,その傾きから成分比(モル比)を求めると,H2S/SO2: 0.48,CO2/H2S: 5.9,CO2/SO2: 2.9であった.この結果と,2014年7月に産総研が採取分析で求めた成分比(篠原, 私信)を比較したところ,その違いは15%以下であったことから,この手法にはそれなりの精度があるものと判断した.
樽前山では,2014年10月22日にA火口とE火口で同様の観測を行った.各成分のピーク濃度値は,H2S: 12 ppm,SO2: 3 ppm,CO2: 約70 ppm(背景からの差)であった.A火口の成分比は,H2S/SO2約2.4,CO2/H2S: 6.1,CO2/SO2: 約17, E火口の成分比は,H2S/SO2: 約8.9,CO2/H2S: 13,CO2/SO2: 約100となった.ただし十勝岳とは異なり,SO2はほとんど検出限界に近かった.このため,SO2と他の2成分との比は精度が低い.
放出率推定: 十勝岳においては,成分比だけではなく放出率の推定も試みた.アラスカやニュージーランドの火山では,航空機を用いたガス観測が頻繁に行われているが,その際,噴煙の断面における濃度分布をコンタリングすることで放出率を求めている例がある(例えば,Werner et al., 2005; Werner et al., 2013).我々は,これと同様のことを地上観測で行うべく,ガスセンサーを取り付けたアルミ伸縮棒の長さを調節して,3つの高さ(2.7, 3.8, 5.0 m)で大正火口噴気のトラバースを行い,噴気断面上の濃度をマッピングした.先述の通り,ガスの大半は火口壁の尾根を舐めるように流れているため,5.0 mより高い位置に濃いガスは流れていない可能性が高いが,下層の濃度分布から5.0 m以上の濃度を外挿推定して積分計算に考慮した.また,流速は,やや離れた地点から撮影したビデオ映像から読み取った.流速を濃度の断面積分値に乗じることで放出率を推定したところ,SO2の放出率は7-9 t/dと求められた.
まとめ: 本研究で用いた比較的安価なガス濃度計を利用したシステムでも,測定対象のガスが濃ければ,問題なく成分比を測定できることが確認できた.また,噴気の流れ方の条件によっては,この装置でコンタリングすることで放出率を推定することも可能であることを示した.装置は軽量なので,マルチコプター等の無人機への搭載も問題がなく,近い将来には,観測者を危険にさらすことなく測定ができるようになるものと考えている.