日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 B (地球生命科学) » B-AO 宇宙生物学・生命起源

[B-AO01] Astrobiology: Origins, Evolution, Distribution of Life

2015年5月27日(水) 16:15 〜 18:03 105 (1F)

コンビーナ:*小林 憲正(横浜国立大学大学院工学研究院)、山岸 明彦(東京薬科大学生命科学部)、大石 雅寿(国立天文台天文データセンター)、田近 英一(東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻)、掛川 武(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、井田 茂(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、座長:掛川 武(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、井田 茂(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)

16:30 〜 16:45

[BAO01-04] アミノアシルtRNA合成酵素の分子系統樹から見た真核生物の起源

*古川 龍太郎1横堀 伸一2山岸 明彦2 (1.東京薬科大学大学院生命科学研究科、2.東京薬科大学生命科学部)

キーワード:分子系統解析, アミノアシルtRNA合成酵素, 初期進化, 真核生物の起源

Woeseら(1990; PNAS 87:4576-4579)は、16S/18S rRNAに基づいた分子系統樹を作成し、全生物を3つのドメイン(真正細菌、古細菌、真核生物)に分類した。この3ドメイン間の系統関係、特に真核生物の系統学的位置については、真核生物が古細菌とは独立に進化したとする3ドメイン説と、古細菌から進化したとする2分岐説の間で議論されているが、結論は出てない。近年ではゲノムデータの増加に伴い、多くの遺伝子を同時に用いた全生物の系統解析が報告され、2分岐説を示す結果が多く得られている(Guy & Ettema 2011; Trends Microbiol. 19:580-587, Williams et al. 2012; Proc. Biol. Sci. 279:4870-4879, Williams et al. 2013; Nature 504:231-236, Willams & Martin Embley 2014;Genome Biol. Evol. 6:474-481)。しかしながら、真核生物と最も近縁な生物種については複数の可能性が示されている(Thiergart et al. 2012; Genome Biol. Evol. 4:466-485, Rochette et al. 2014; Mol. Biol. Evol. 31:832-845)。これらの結果から、真核生物起源の成立過程は複数提案されており、未だに議論が続いている。
 本研究では、23種のアミノアシルtRNA合成酵素(ARS)の遺伝子の分子系統樹を作成し、それを比較することで全生物の系統関係を議論した。現存する生物は全て翻訳系をもっており、少なくとも全生物共通祖先以前にこのシステムが成立したと考えられることから、ARSの進化を調べる事は生命の初期進化の本質的理解に繋がる。真核生物は、細胞質で使用されるARSとミトコンドリアや葉緑体で使用されるARSを別々の遺伝子として持ち、それぞれが別の進化経路を辿っていることが知られている。今回は、真核生物の起源が持っていたと考えられる細胞質型のARSの系統的位置と近縁な生物種に注目した。
 まず、BLAST検索を用いて23種のARSのアミノ酸配列データ(118種:真正細菌57:古細菌23:真核生物38)を収集し、23種のデータセットを構築した。それぞれのデータセットについてアライメントを行い、最尤法(RAxML)とベイズ法(PhyloBayes)を用いてそれぞれの遺伝子系統樹を作成した。また、近縁なARS同士を用いて複合系統樹を作成し、それぞれの遺伝子系統樹の根の位置を推定した。
 解析の結果、23種の系統樹の内、13種の系統樹では真核生物の細胞質型ARSが単系統であり、7種の系統樹では多系統であった。残り3種の系統樹のうち、2種は真核生物の細胞質型ARSが存在せず、1種は細胞質型ARSが真正細菌群と姉妹群であったため、考察から除外した。真核生物の細胞質型ARSが単系統であった13種の系統樹の内、真核生物の系統学的位置は9種の系統樹で古細菌の内群となり、4種の系統樹で真正細菌の内群となった。多系統となった7種の系統樹でも、細胞質型ARSは古細菌もしくは真正細菌の内群となった。これら20種の系統樹から2分岐説が支持された。
 9種の系統樹の内3種では、細胞質型ARSはTACK superphylumに属する古細菌と最も近縁であったが、別の3種ではEuryarchaeotaと近縁であった。これらの結果は、真核生物がTACK superphylumとEuryarchaeotaの双方に由来することを示し、両者の起源が融合した生物が真核生物の起源であったのではないかということを提案する。また、真正細菌の内群となった4種の細胞質型ARSは、全て別々の真正細菌と最も近縁だった。このことは、別々の真正細菌のゲノムから真核生物起源の核ゲノムへ独立した遺伝子水平伝播が起こり、伝播された遺伝子が真核生物起源の細胞質型に置き換わったことを示す。さらに、細胞質型ARSが多系統になった7種の系統樹は、真核生物の進化の過程において古細菌もしくは真正細菌由来の独立した遺伝子水平伝播が細胞質型ARSの置き換わりを起こしたということを示す。
 以上を総括すると、真核生物の祖先はTACK superphylumの起源とEuryarchaeotaの起源が融合した後に、様々な真正細菌由来の遺伝子水平伝播の影響を受け進化した生物であったと考えられる。