18:15 〜 19:30
[HRE28-P01] CO2地中貯留のナチュラルアナログとしての温泉場における炭酸塩反応実験
キーワード:CO2地中貯留, ナチュラルアナログ, 炭酸塩, 反応速度, 鉱物トラップ, 温泉
帯水層へのCO2地中貯留では、CO2の地層水への溶解を起点として様々な地化学プロセスが起こる。このような地化学プロセスのうち、炭酸塩鉱物の反応は、鉱物トラップとしてCO2の固定に寄与する一方で、坑井周囲やキャップロック内部の間隙での溶解を通して浸透率の増加の原因となるなど、貯留安全性の増加と漏洩リスクの両面から最も重要である。しかしながら、これらの反応プロセスは時間スケールが長期にわたることもあり、これまでCO2地中貯留条件下でのキネティクスに関しては不明な点が多かった。特に、反応速度に対する飽和度や不純物濃度の効果の解明と、実際に生成する炭酸塩鉱物の特定が課題となっている。
ここでは、可能な限りCO2地中貯留条件に近い環境下で反応速度を求める手法を適用した。本手法の特徴は2つ挙げられる。一つ目は、天然の温泉を反応場として現場実験を行う点にある。特に、炭酸泉あるいは炭酸水素塩泉を選ぶことにより、実際のCO2圧入サイト以外で、簡便にCO2地中貯留のナチュラルアナログとしてのフィールドが得られる。また、そこに産出している鉱物を観察することにより、過去からの長期にわたる反応の結果と照合することも可能となる。2番目の点は、種結晶を温泉場に持ち込む点にある。あらかじめキャラクタライズした種結晶について、反応前後の表面形状変化をナノスケールで解析することにより、反応の遅い鉱物に対しても短時間で高精度の反応速度の測定が可能となる。また、任意の鉱物について、現場条件における生成可否の判定がより確実に行えるようになる。
今回選定したサイトは、北海道斜里町のウトロ温泉である。本サイトでは、源泉からの温泉水が上流タンクに貯留された後、50 mの配管を伝って排水されている。温泉水の排水過程でCO2の脱ガスが起こるため、下流にいくにしたがい過飽和度が高くなり炭酸塩が生成しやすくなっている。そこで、上流タンク内と配管中間部および配管下端の3ヵ所を観測点として設定した。いずれの観測点においても、主要な4種類の炭酸塩鉱物である、カルサイト、アラゴナイト(共にCaCO3)、ドロマイト(CaMg(CO3)2)およびマグネサイト(MgCO3)のへき開片を温泉水中に最長24時間浸漬させ、所定時間ごとに1個ずつ回収して試料表面の観察を行った。今回の実験では、温泉水そのままでの反応に加えて、上流タンク内でCO2をバブリングあるいは塩化マグネシウムを添加した場合についても、それぞれ反応を行った。
回収した試料について、位相シフト干渉計およびレーザー顕微鏡を用いて、基準面と反応面の高さ変化をナノ~ミクロンレベルで測定することにより反応速度を算出した。その結果、炭酸塩鉱物の反応速度は温泉水組成の変化に対応して敏感に変動することが示された。特に、現場におけるカルサイトの反応速度は従来得られていた理論値よりも低下していた。これは、溶液の飽和度の関数形の違いや溶液中に含まれる種々のイオン(主としてMgイオン)による抑制効果のためであると予想される。また、ドロマイトの過飽和度が最も高いにも関わらず、その成長速度はカルサイトやアラゴナイトと比較して著しく遅いことも明らかとなった。このことは、炭酸塩鉱物の沈殿に関して、過飽和度だけからその生成を判断することは誤った予測につながることを示唆している。
本研究は,経済産業省からの委託研究「二酸化炭素回収・貯蔵安全性評価技術開発事業(弾性波探査を補完するCO2 挙動評価技術の開発)」の一部として実施した。
ここでは、可能な限りCO2地中貯留条件に近い環境下で反応速度を求める手法を適用した。本手法の特徴は2つ挙げられる。一つ目は、天然の温泉を反応場として現場実験を行う点にある。特に、炭酸泉あるいは炭酸水素塩泉を選ぶことにより、実際のCO2圧入サイト以外で、簡便にCO2地中貯留のナチュラルアナログとしてのフィールドが得られる。また、そこに産出している鉱物を観察することにより、過去からの長期にわたる反応の結果と照合することも可能となる。2番目の点は、種結晶を温泉場に持ち込む点にある。あらかじめキャラクタライズした種結晶について、反応前後の表面形状変化をナノスケールで解析することにより、反応の遅い鉱物に対しても短時間で高精度の反応速度の測定が可能となる。また、任意の鉱物について、現場条件における生成可否の判定がより確実に行えるようになる。
今回選定したサイトは、北海道斜里町のウトロ温泉である。本サイトでは、源泉からの温泉水が上流タンクに貯留された後、50 mの配管を伝って排水されている。温泉水の排水過程でCO2の脱ガスが起こるため、下流にいくにしたがい過飽和度が高くなり炭酸塩が生成しやすくなっている。そこで、上流タンク内と配管中間部および配管下端の3ヵ所を観測点として設定した。いずれの観測点においても、主要な4種類の炭酸塩鉱物である、カルサイト、アラゴナイト(共にCaCO3)、ドロマイト(CaMg(CO3)2)およびマグネサイト(MgCO3)のへき開片を温泉水中に最長24時間浸漬させ、所定時間ごとに1個ずつ回収して試料表面の観察を行った。今回の実験では、温泉水そのままでの反応に加えて、上流タンク内でCO2をバブリングあるいは塩化マグネシウムを添加した場合についても、それぞれ反応を行った。
回収した試料について、位相シフト干渉計およびレーザー顕微鏡を用いて、基準面と反応面の高さ変化をナノ~ミクロンレベルで測定することにより反応速度を算出した。その結果、炭酸塩鉱物の反応速度は温泉水組成の変化に対応して敏感に変動することが示された。特に、現場におけるカルサイトの反応速度は従来得られていた理論値よりも低下していた。これは、溶液の飽和度の関数形の違いや溶液中に含まれる種々のイオン(主としてMgイオン)による抑制効果のためであると予想される。また、ドロマイトの過飽和度が最も高いにも関わらず、その成長速度はカルサイトやアラゴナイトと比較して著しく遅いことも明らかとなった。このことは、炭酸塩鉱物の沈殿に関して、過飽和度だけからその生成を判断することは誤った予測につながることを示唆している。
本研究は,経済産業省からの委託研究「二酸化炭素回収・貯蔵安全性評価技術開発事業(弾性波探査を補完するCO2 挙動評価技術の開発)」の一部として実施した。