日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS30] 地震発生の物理・震源過程

2015年5月25日(月) 11:00 〜 12:45 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*安藤 亮輔(東京大学大学院理学系研究科)、加瀬 祐子(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)、座長:加瀬 祐子(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)、鈴木 岳人(青山学院大学理工学部物理・数理学科)

12:36 〜 12:39

[SSS30-P07] 三次元グリーン関数と屈曲断層モデルを用いた1923年関東地震の震源過程解析

ポスター講演3分口頭発表枠

*尹 淳恵1纐纈 一起2小林 励司3 (1.東京大学地震研究所/伊藤忠テクノソリューションズ、2.東京大学地震研究所、3.鹿児島大学大学院理工学研究科)

キーワード:震源過程解析, 三次元グリーン関数, 関東平野

1923 年9 月1 日に発生した関東地震は,震源域に陸域直下を含んでおり,関東地方を中心に甚大な被害をもたらした.この地震は,フィリピン海プレートが大陸プレートの下に沈み込む相模トラフに沿って発生した,プレート境界地震である.大きな震度が震源域の直上のみならず,震源域から離れた地域でも観測され,関東平野の複雑な三次元構造の影響が示唆されている.本研究では,関東平野の構造が地震動に与える影響を十分に評価するため,全国一次地下構造モデル (Koketsu et al., 2008)を導入して求めた三次元グリーン関数を用いて,震源過程解析を行った.なお,用いた全国一次地下構造モデルは,東京湾や千葉県北部の直下では堆積層の厚さが3㎞以上に及び,関東平野の複雑な三次元構造が反映されたモデルである.観測データは地殻変動,遠地波形,強震波形を用いた.断層モデルにはSato et al. (2005)と同じ平面断層と,同じ緯度・経度で深さをフィリピン海プレート上面に沿って設定し直した屈曲断層を仮定した.
最初に,半無限構造・一次元速度構造・三次元速度構造の3つのモデルを仮定してグリーン関数を計算した.得られた3種類のグリーン関数を比較すると,三次元速度構造モデルを用いて計算したグリーン関数は,水平成分・鉛直成分共に振幅が大きく,継続時間が長かった.特に後続波の増幅が顕著であり,剛性が小さくかつ複雑な三次元構造の堆積層を伝播した影響と考えられる.震源過程解析として,まず上記3種類のグリーン関数と地殻変動データおよび平面断層モデルを用いた.3つの結果はどれも地殻変動の再現性が高く,すべりが大きな領域の分布も似ていた.しかし地震モーメントは,三次元グリーン関数を用いた結果の方が,半無限や一次元グリーン関数の結果よりも小さかった.このことは,堆積層の増幅効果は,地殻変動データのみの震源過程解析にも影響を与えることを示唆している.次に地殻変動,遠地波形,近地波形データおよび平面断層モデルを用いて,震源過程解析を行った.すべりの大きな領域の分布は半無限・一次元グリーン関数を用いたSato et al. (2005) の結果と似ていたが,三次元グリーン関数を用いた本研究の結果の方が全体的にすべり量は小さく,地震モーメントも小さかった.また,一次元グリーン関数では再現の難しかった近地波形の後続波については,三次元グリーン関数を用いることにより良く再現できるようになった.さらに,地殻変動,遠地波形,近地波形データおよび屈曲断層モデルを用いて震源過程解析を行った.その結果,平面断層モデルの結果に比べて,西側の大きなすべりがプレート境界の浅い南西方向に移動し震源から離れた領域に求まった.最大すべり量は平面断層の結果よりも大きく,地震モーメントも大きかった.このことは,屈曲断層モデルが平面断層モデルよりも全体的に数km深い位置に設定されていることによって,グリーン関数が小さくなった影響だと考えられる.
本研究の平面断層モデルによる結果とSato et al. (2005) の結果では,西側のすべりの大きな領域が余震の多く発生していた領域に求まった.しかし本研究の屈曲断層モデルの結果では,西側のすべりの大きな領域が余震の比較的少ない領域に求まっており,すべり分布と余震分布の関係において過去の研究と整合的である.一方,破壊の進展過程は平面断層モデルと屈曲断層モデルの結果で似ており,プレート境界上のでっぱった領域から始まった破壊が,発生から約20秒間はプレート境界の浅い南の方向に,その後約20秒間はプレート境界の窪んだ東の方向に進んだという結果になった.
本研究により,堆積層が厚く複雑な三次元構造の関東平野直下で発生した地震の場合,速度構造は強震波形のみならず地殻変動にも影響を与えること,半無限・一次元構造モデルを用いた震源過程インバージョンは,すべり量・地震モーメントを過大評価する可能性があることが示唆された.また,一次元グリーン関数では再現の難しかった強震波形の後続波をより良く再現できるようになり,三次元グリーン関数を用いることの有用性が明らかになった.さらに,屈曲断層モデルを用いた結果は,本震のすべり分布と余震分布に関する定説に合うことが分かった.