日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC12] Multidisciplinary volcano monitoring

2015年5月26日(火) 14:15 〜 16:00 304 (3F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、マウリツィオ リペペ(フィレンツェ大学地球科学科)、市原 美恵(東京大学地震研究所)、座長:市原 美恵(東京大学地震研究所)、青木 陽介(東京大学地震研究所)

14:30 〜 14:45

[SVC12-02] 火山ガスのCO2/H2O比:噴火ポテンシャル評価のための地球化学的指標

*大場 武1 (1.東海大学理学部化学科)

キーワード:地球化学, CO2, H2O, 噴火ポテンシャル, magma

マグマに含まれる揮発性成分で支配的な成分はH2OとCO2である.これらの成分はマグマ中で脱ガスしマグマに浮力を与えることにより噴火を駆動する.噴火前であっても火山ガスを放出している火山は多く,その火山ガスに含まれるH2OとCO2の量は,それぞれの成分がマグマから脱ガスする流量を反映すると考えられる.H2OとCO2を比較すると,メルトに対する溶解度はCO2が相対的に小さい.深部マグマ供給源からマグマを供給されていない孤立したマグマチャンバーを考えた時,マグマから放出される流体のCO2/H2O比は次第に低下すると考えられる.よって,火山ガスのCO2/H2O比はマグマに残存する揮発性成分の量の目安となるかも知れない.そこで,各地の火山で火山ガスを採取し,そのCO2/H2O比と噴火活動の関係を調べてみた.その結果,火山ガスに含まれるマグマ成分のCO2/H2O比が0.01を超えると噴火活動を示す火山が多い.以下にいくつかの事例を挙げる.

岩手山
1998年に火山性地震が頻発し,地殻変動などの観測からマグマの貫入が推測されたが,結局噴火は起きずに未遂となった.岩手山山頂付近の地熱地帯で採取した火山ガスを分析した結果,マグマ性ガスのCO2/H2O比は0.008であり,0.01に達していなかった.岩手山が噴火しなかったのは,貫入したマグマの揮発性成分の濃度が低く,マグマが浮力を獲得できなかったためと推測される.

霧島山
霧島新燃岳は2011年噴火の以前は,山頂火口内に非常に噴出圧の高い噴気孔が存在していた.1994年に噴気を採取し分析したところ,マグマ性ガスのCO2/H2O比は0.03という高い値を示した.その後,2011年の噴火までの間に火山ガスの観測を行われていない.1994年の段階で新燃岳の地下には揮発性成分に富むマグマが存在し,噴火の準備段階にあったと推定される.

草津白根山
1982,1983年の湯釜火口における水蒸気爆発以来,噴火活動は観測されていない.2000年に山頂直下の北側山麓噴気地帯で勢いの強い噴気を採取・分析したところ,マグマ性ガスのCO2/H2O比は0.005で,0.01よりも低かった.ところが,2014年になり火山性地震の頻発と山頂領域の膨張が始まり,2014年7月に北側山麓噴気地帯で観測を行ったところ,マグマ性ガスのCO2/H2O比は0.025に増加していた.噴気のSO2/H2SやH2濃度は低く,熱水系の温度に異常は見られないが,深部に揮発性成分に富むマグマが貫入したと推定される.今後,火山活動の変化を注意深く観察する必要がある.