日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM33] 電気伝導度・地殻活動電磁気学

2015年5月26日(火) 11:00 〜 12:45 102A (1F)

コンビーナ:*神田 径(東京工業大学火山流体研究センター)、市來 雅啓(東北大学大学院理学研究科)、座長:畑 真紀(東京大学地震研究所)

11:00 〜 11:15

[SEM33-07] 「ふつう」の海洋マントルの電気伝導度構造イメージング

*馬場 聖至1多田 訓子2松野 哲男1pengfei liang1Luolei Zhang3清水 久芳1歌田 久司1 (1.東京大学地震研究所、2.海洋研究開発機構、3.同済大学)

キーワード:海洋上部マントル, 北西太平洋, 海底電位磁力計, マグネトテルリック法, 電気伝導度構造

マントル対流のわき出しと沈み込みの間の水平流の区間、表面積としては海洋底の大半を占める部分は、プレート境界のテクトニックな活動からはなれた「ふつう」のマントルを代表すると考えられる。東大・地震研究所とJAMSTECの研究者で構成するNormal Oceanic Mantle Project研究グループは、「ふつう」の海洋マントルを地震学的・電磁気学的に観測することで、1)アセノスフェアの流動性の原因は何か? 2)マントル遷移層は地球の巨大な貯水槽か? という二つの謎の解明へ迫ろうとしている。我々は、観測対象海域を北西太平洋シャツキー海台の北西(A海域)および南東(B海域)に設定し、2010年より段階的に観測機器を設置してデータを取得した。A海域には17観測点にのべ26台の海底電位磁力計(OBEM)を設置し、このうち15観測点22台のOBEMから解析に有効なデータを取得した。B海域については、8観測点にのべ10台のOBEMを設置し、7観測点8台のOBEMから有効データを得た。
一昨年の連合大会において、我々は、2010~2012年のパイロット観測によりA海域の4観測点で得られたデータの解析結果と上部マントル1次元電気伝導度構造モデルを提示した。また昨年の連合大会とSGEPSSの秋学会では、2011~2013年の観測で得られたB海域7観測点のデータ解析結果を加え、A、B海域の1次元電気伝導度構造の違いを議論した。本発表では、その後の観測で加わったデータを合わせて全データを再解析し、A、B海域の1次元構造を再推定した結果について報告する。
2012年度~2014年にかけて行った観測では、新たな試みとしてタイマーによる測定間隔の切替えを行った。測定間隔は、観測開始から約1ヶ月は10秒、それから約10ヶ月を従来と同じ60秒、その後再び10秒に切替えるよう設定した。これにより、推定するMTレスポンスを短周期側へ延長することと、バッテリーの効率的な利用を期した。MTレスポンスの推定には、BIRRP(Chave & Thomson, 2004)を用いた。観測海域の水深は5200~6200 mで、海水中での電磁場の減衰効果により数100秒より短周期側はS/N比が悪い。10秒間隔で測定した期間は大きな磁場擾乱もなく、従来通り柿岡をリモートリファレンスとした解析では、MTレスポンスの短周期側への延長はできなかった。しかしながら、BIRRPのオプションである2段階推定法を適用したところ、その後の解析に耐えうる有効なMTレスポンスを短周期側約50秒まで得ることができた。A海域、B海域でそれぞれ9、1観測点で10秒計測データからMTインピーダンスが推定できた。また10秒計測データから60秒計測を模してリサンプリングしたデータとアンチエイリアシングフィルタを適用して60秒間隔にリサンプリングしたデータの比較から、従来の60秒計測データで推定したMTレスポンスの400秒より短周期側は見掛け比抵抗が下方にバイアスされる事が判明した。よって周期400秒以下については10秒計測データ、それより長周期側では60秒計測データを解析して得られたMTインピーダンスをその後の解析に用いた。
得られたMTインピーダンスを海域ごとに平均をとり、海陸境界と地形効果を補正しつつ1次元構造を推定した。A海域については、パイロット観測アレイのみから推定した旧モデルよりもリソスフェア最上部(海洋地殻)の良導層がより精度よく決まった。これはMTインピーダンスが短周期側へ約半桁伸びた効果であると考えられる。一方B海域については、10秒計測データが取得できたのが1点だけなので、海域の平均レスポンスの推定には、60秒計測データのみの周期480秒以上のデータを用いた。その結果、旧モデルに見られた深さ約50kmから100kmにかけての曲率変化がなくなり、深さ約170kmの電気伝導度のピークが弱くなった。旧モデルの特徴は、下方バイアスした最短周期の見掛け比抵抗に影響されていたものと考えられる。旧モデルと新モデルには以上のような差があるものの、リソスフェアマントルに相当すると考えられる低電気伝導度の厚さという点で見ると、A海域よりもB海域のほうが若干厚い傾向にあり、両者は先行プロジェクトで得られた小笠原沖太平洋(C海域)下のモデルに比べると有意に薄い、という特徴は従来の結果と同様である。
A、B、C海域の平均的な海洋底年代は、それぞれ約130、140、147Maである。プレート冷却モデルに基づくと、これらの年代差による温度構造の違いは非常に小さい。したがって3海域の電気伝導度構造モデルの差を、均一なマントルのプレート冷却モデルの年代差で説明することは難しい。