11:15 〜 11:30
[SCG59-14] 融点近傍における多結晶体の弾性・非弾性・粘性
キーワード:非弾性, 地震波減衰, メルト
地震波速度・減衰構造から地球内部の温度・粒径・メルト分布などの情報を引き出すためには、地震波帯域を含む広い周波数での岩石の非弾性を理解する必要がある。特に、上部マントルの低速度・高減衰を解釈するためには、メルトが非弾性に与える影響を理解することが重要である。
地震波帯域での非弾性は、岩石試料(オリビン多結晶体)や、そのアナログ試料を使った強制振動実験によって測定されている。岩石を使った高温での実験は困難でデータが少ないため、これを補う目的で、我々はアナログ試料を用いて実験を行っている。オリビン多結晶体のアナログとして有機物のボルネオール多結晶体を、また、部分溶融したオリビン+バサルト系のアナログとしてボルネオール+ジフェニルアミン系を用いている。ボルネオールとジフェニルアミンは共融系をなし、Tm = 43℃で部分溶融する。そのメルト形状は、オリビン+バサルト系のものとよく似ている。
これまで、岩石試料やアナログ試料を使って、さまざまな温度T・粒径d・メルト量φの条件下で、地震波帯域のQ-1が測定されてきた。その結果、さまざまな条件で測定したQ-1データを、それぞれの試料のマクスウェル周波数fMで規格化した周波数f/fMに対してプロットすると、それがQ-1(f/fM)と表される1本のマスターカーブ上にのることが示された(McCarthy et al., 2011)。しかし、これまでのQ-1データは上部マントルでの規格化地震波帯域(106≤f/fM≤109)に届いていないため、マスターカーブが地震波に適用可能かはわからなかった。最近のアナログ試料を使った実験では、規格化した地震波帯域に届くデータの取得に成功した(Takei et al., 2014)。そして、低いf/fMではQ-1がマスターカーブによくのるが、高いf/fMではQ-1が温度や粒径によってばらつくことが示された。そのばらつきには、温度が試料の融点Tmに近いほど、あるいは粒径が大きいほどQ-1が増大する向きにマスターカーブからずれるという系統性が見られた。また、それらのデータは全て融点よりも低い温度(T/Tm≤0.93)のものであり、その結果は融点近傍ではメルトがなくても地震波が低速度・高減衰となる可能性を示すものであった。さらに温度を上げてメルトが生じるとQ-1はどのように変化するのかを詳しく調べるためには、融点を超えた温度までの実験が必要である。
本研究では、ボルネオール+ジフェニルアミン系から成る、粒径とメルト量の異なる4つの試料で、融点直下から直上までの温度範囲で(0.88≤T/Tm≤1.01)、非弾性を測定した。また、非弾性メカニズムの理解のためには広い周波数に及ぶ物性の理解が必要なため、同じ温度条件で粘性と超音波帯域での弾性も測定した。特に、融点の前後で弾性・非弾性・粘性がどのように変化するのかに注目した。
メルトの発生に伴う急激な粒成長を防ぐために、物性測定の前に融点以上で試料の粒成長を行った。このような実験手法の改良を加えたことにより、弾性・非弾性・粘性の温度依存性を、融点直下から直上までの温度範囲において詳細にとらえることができた。超音波帯域の弾性波速度には、メルトの発生に伴ってポロエラスティック効果による不連続な低下が起こった。一方、強制振動実験で得られたこれより低周波数の非弾性は、融点直下から直上まで連続的に増大した。そして粘性は、融点直下から直上まで連続的に減少した。これらの結果に基づき、非弾性を無次元量f/fMとT/Tmで定式化し、上部マントルへ応用した。地震波帯域における非弾性は、融点直下から直上まで連続的に増大し、融点近傍ではメルトがなくても地震波の低速度・高減衰が予想される。さらに、本研究の結果は、融点の前後で減衰は連続的に変化するのに対して、メルトが生じると速度にはポロエラスティック効果による不連続な低下が起こることを示唆する。
これまでに粒径やメルト量の異なる4つの試料で非弾性を測定し、上述のように温度依存性については詳細に調べることができたが、粒径やメルト量依存性を十分にとらえることができていない。その理由は、部分溶融を経験した試料の物性にはさまざまなヒステリシス効果が見られ、非弾性の粒径やメルト量依存性がマスクされてしまったためである。今後は、部分溶融を経験していない試料で融点直下での実験を行うことでヒステリシス効果のないデータを取得し、非弾性の粒径とメルト量依存性を明らかにし、上記の定式化を改善する計画である。
地震波帯域での非弾性は、岩石試料(オリビン多結晶体)や、そのアナログ試料を使った強制振動実験によって測定されている。岩石を使った高温での実験は困難でデータが少ないため、これを補う目的で、我々はアナログ試料を用いて実験を行っている。オリビン多結晶体のアナログとして有機物のボルネオール多結晶体を、また、部分溶融したオリビン+バサルト系のアナログとしてボルネオール+ジフェニルアミン系を用いている。ボルネオールとジフェニルアミンは共融系をなし、Tm = 43℃で部分溶融する。そのメルト形状は、オリビン+バサルト系のものとよく似ている。
これまで、岩石試料やアナログ試料を使って、さまざまな温度T・粒径d・メルト量φの条件下で、地震波帯域のQ-1が測定されてきた。その結果、さまざまな条件で測定したQ-1データを、それぞれの試料のマクスウェル周波数fMで規格化した周波数f/fMに対してプロットすると、それがQ-1(f/fM)と表される1本のマスターカーブ上にのることが示された(McCarthy et al., 2011)。しかし、これまでのQ-1データは上部マントルでの規格化地震波帯域(106≤f/fM≤109)に届いていないため、マスターカーブが地震波に適用可能かはわからなかった。最近のアナログ試料を使った実験では、規格化した地震波帯域に届くデータの取得に成功した(Takei et al., 2014)。そして、低いf/fMではQ-1がマスターカーブによくのるが、高いf/fMではQ-1が温度や粒径によってばらつくことが示された。そのばらつきには、温度が試料の融点Tmに近いほど、あるいは粒径が大きいほどQ-1が増大する向きにマスターカーブからずれるという系統性が見られた。また、それらのデータは全て融点よりも低い温度(T/Tm≤0.93)のものであり、その結果は融点近傍ではメルトがなくても地震波が低速度・高減衰となる可能性を示すものであった。さらに温度を上げてメルトが生じるとQ-1はどのように変化するのかを詳しく調べるためには、融点を超えた温度までの実験が必要である。
本研究では、ボルネオール+ジフェニルアミン系から成る、粒径とメルト量の異なる4つの試料で、融点直下から直上までの温度範囲で(0.88≤T/Tm≤1.01)、非弾性を測定した。また、非弾性メカニズムの理解のためには広い周波数に及ぶ物性の理解が必要なため、同じ温度条件で粘性と超音波帯域での弾性も測定した。特に、融点の前後で弾性・非弾性・粘性がどのように変化するのかに注目した。
メルトの発生に伴う急激な粒成長を防ぐために、物性測定の前に融点以上で試料の粒成長を行った。このような実験手法の改良を加えたことにより、弾性・非弾性・粘性の温度依存性を、融点直下から直上までの温度範囲において詳細にとらえることができた。超音波帯域の弾性波速度には、メルトの発生に伴ってポロエラスティック効果による不連続な低下が起こった。一方、強制振動実験で得られたこれより低周波数の非弾性は、融点直下から直上まで連続的に増大した。そして粘性は、融点直下から直上まで連続的に減少した。これらの結果に基づき、非弾性を無次元量f/fMとT/Tmで定式化し、上部マントルへ応用した。地震波帯域における非弾性は、融点直下から直上まで連続的に増大し、融点近傍ではメルトがなくても地震波の低速度・高減衰が予想される。さらに、本研究の結果は、融点の前後で減衰は連続的に変化するのに対して、メルトが生じると速度にはポロエラスティック効果による不連続な低下が起こることを示唆する。
これまでに粒径やメルト量の異なる4つの試料で非弾性を測定し、上述のように温度依存性については詳細に調べることができたが、粒径やメルト量依存性を十分にとらえることができていない。その理由は、部分溶融を経験した試料の物性にはさまざまなヒステリシス効果が見られ、非弾性の粒径やメルト量依存性がマスクされてしまったためである。今後は、部分溶融を経験していない試料で融点直下での実験を行うことでヒステリシス効果のないデータを取得し、非弾性の粒径とメルト量依存性を明らかにし、上記の定式化を改善する計画である。