日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS21] 大気化学

2015年5月27日(水) 16:15 〜 18:00 201B (2F)

コンビーナ:*澤 庸介(気象研究所海洋・地球化学研究部)、竹川 暢之(首都大学東京 大学院理工学研究科)、金谷 有剛(独立行政法人海洋研究開発機構地球環境変動領域)、高橋 けんし(京都大学生存圏研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、座長:中山 智喜(名古屋大学 太陽地球環境研究所)

16:30 〜 16:45

[AAS21-05] 混合状態解像モデルを用いたブラックカーボンとその放射強制力の不確定性の評価

*松井 仁志1 (1.海洋研究開発機構)

キーワード:エアロゾル, ブラックカーボン, 混合状態, 混合状態解像モデル, 光吸収増大効果, 放射強制力

私のこれまでの研究では、ブラックカーボン(BC)の排出、微物理過程による変質、変質過程に伴う光吸収量と雲粒活性度の増大、雲内での活性化、降水による除去、といった大気中でBC粒子が経験する一連のプロセスを素過程に基づいて計算できるBC混合状態解像モデルを開発してきた。本研究では、このBC混合状態解像モデルを用いて、春季東アジア領域(2009年3~4月)のBC濃度とその光学特性・放射強制力を推定し、排出量の不確定性に対するこれらのパラメータの不確定性を評価した。
本研究では排出量の粒径分布・混合状態の不確定性に着目した。化石燃料の燃焼とバイオ燃料の燃焼・バイオマスバーニングのそれぞれについて、観測結果に基づくパラメータ(粒径分布について中心直径と標準偏差、混合状態について外部混合BCの比率と内部混合BCが含む散乱性成分量)とその不確定性幅を設定し、合計15個の計算を行った。これらの粒径分布・混合状態の不確定性に対する、鉛直積算のBC濃度、鉛直積算の光吸収量、BCの放射強制力の変動幅(ベース計算の値で規格化した値(%))を見積もった。
BCの光学・放射パラメータの変動幅は、39~59%と見積もられ、非常に大きい。これは、春季東アジア域においてBCの放射強制力が地上で-12.6~-6.5 W m-2、大気上端で4.3~6.6 W m-2(計算期間の正午の平均値)の範囲で変化することに対応しており、排出量の粒径分布・混合状態の扱いの重要性を示している。一方、BC濃度の変動幅は小さく(17%)、光学・放射パラメータの変動幅との違いが顕著である。すなわち、排出量の粒径分布・混合状態の変化に対して、BC濃度の感度は相対的に小さく、光学・放射パラメータの感度は相対的に大きい。このBC濃度と光学・放射パラメータの感度の違いの要因を解析した結果、凝集過程とレンズ効果(BCの混合状態の変化に伴う光吸収量の増大効果)が大きな役割を果たしていることがわかった。
これらの結果は、BCの放射強制力の推定において、排出源におけるエアロゾルの粒径分布と混合状態の不確定性を減らすこと、また、モデルにおいてレンズ効果を十分に表現することの重要性を示している。これまでの多くのエアロゾルモデルでは、BCの混合状態の変化とそれに伴う光吸収量の増大を十分には扱っておらず、本研究の結果はその部分の改善の必要性を示している。