日本地球惑星科学連合2015年大会

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ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS23] 月の科学と探査

2015年5月25日(月) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*長岡 央(早稲田大学先進理工学部)、諸田 智克(名古屋大学大学院環境学研究科)、Masaki N Nishino(Solar-Terrestrial Environment Laboratory, Nagoya University)、本田 親寿(会津大学)、長 勇一郎(立教大学理学部)

18:15 〜 19:30

[PPS23-P09] 日照域の月面レゴリス中への水の捕獲

*蓮中 亮太1 (1.大阪大学 理学研究科 宇宙地球科学専攻)

キーワード:月, レゴリス, 水, シミュレーション

従来、月面は非常にドライで地中大気ともにほぼ無水であると考えられていた。アポロミッションなどの過去の観測でも月固有の水は確認できなかった。微小隕石や太陽風によって月には水の供給はあるとしても供給された水は直ちに宇宙空間へ散逸し月面には残らないだろうと思われていた。しかし、近年の観測ミッションに伴うリモートセンシングにより、月面には一定量の水が存在することを示唆する観測結果が得られつつある。2009年に行われたLCROSSの探査で月の極域には5.6±2.9wt%の水が存在する事を示唆する観測結果が得られている。(Colaprete et al.,2010)また赤外観測でも全球で水酸基が確認されていてこれは月面上の水の存在を示す可能性がある。(Pieters et al.,2009 )
月面に水があるとするなら「月の気候学」、すなわち、月面に対する水の供給、月面上での水の移動、月面での水の捕獲、月面からの水の散逸のような水の流れを考える必要がある。本発表では、月面に供給された水の捕獲という点に注目し、表土中の水の挙動を数値シミュレーションにより考察した。同様の考察をSchorghofer & Taylor (2007) が行っている。彼らはレゴリスを構成する岩石微粒子への水の吸着に注目し、水分子が岩石への吸着と脱離を繰り返しながらレゴリスに捕獲されるメカニズムを提示した。これは主に、極域に存在する永久陰における水の捕獲に対応する。これに対し、本研究において私たちは、太陽光が当たり表面の温度が大きく日周変化する地域での水の捕獲について考察した。レゴリス内部の温度は、数十cm厚の表層においては、日照に伴い大きく変動するが、それ以深では、ほぼ一定を示す。高緯度域においては、レゴリス深部の定常温度において水が凝縮する。レゴリス中の熱伝導と水蒸気の拡散を比較すると、水が凝縮しない高温域では、熱よりも水蒸気の方が速く拡散する。ところが、水が凝縮する低温域では、水蒸気圧が下がるため、水が効率的に移動できなくなる。月外から供給(あるいは、月面で生成)され、月面上で希薄な蒸気として存在する水分子は、夜間、温度の下がったレゴリス表面に凝縮する。凝縮した水分子は、日照開始と共に蒸発する。水蒸気の一部はレゴリス内部へと拡散する。日照熱に追われるように内部に拡散した水蒸気は、低温なレゴリス深部において凝縮し、そこで固定・蓄積される。
 シミュレーションの結果、月の緯度84°以上の範囲において、レゴリス中に水が凝縮し、長期間保持されることが確認された。その凝縮量は月の水供給に対して0.1%程度であった。水の凝縮は、レゴリスの深さ10 cm以上の部分においてのみ見られた。これは、レゴリス表面を月面上空から観察しても検出され難い、「隠れた」月面水の存在を意味する。