日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG35] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2015年5月27日(水) 11:00 〜 12:45 105 (1F)

コンビーナ:*山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、清家 弘治(東京大学大気海洋研究所)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、池田 昌之(静岡大学)、座長:清家 弘治(東京大学大気海洋研究所)

11:30 〜 11:45

[HCG35-09] 津波に伴う浸食・堆積・地形変化プロセスの解明:現状と課題

*菅原 大助1成瀬 元2 (1.東北大学、2.京都大学)

キーワード:津波堆積物, 堆積作用, 数値モデル

巨大津波は海岸域の広範囲に亘る大規模な浸食・堆積作用をもたらし,地形を改変する.その地質記録の解読と堆積作用のモデル化は,防災・減災に資する情報を提供する手段であるばかりでなく,陸海の地層形成作用の統合的な理解や(Goto et al., 2014),低頻度の巨大津波の影響による長期的な地形・海岸環境の変化の解明においても有益である.
堆積物から津波の何を読み取れるかはケースバイケースであると思われる.例えば,2011年の東北沖津波の際,三陸南部の鮫浦湾で大規模な海砂の堆積を生じさせたのは第二波であり,同規模の第一波は堆積物形成に関与していないとみられることが,目撃証言等によって明らかになっている(菅原ら,2014).この場合,第一波に関する情報は堆積物からは取得できない.
津波と堆積物の関係に対して一貫性のある解釈や結論を導くためには,波・流れと堆積プロセスに対する理解と洞察が不可欠であろう.地形と堆積環境を俯瞰した数値モデルによるプロセスの解析は,現象のダイナミクスを捉え,津波堆積物や津波改変地形を解釈する際の助けとなる.
津波の堆積学的研究が始まって以来,特にこの10年ほどの間に収集された各種データは,津波堆積物に関する我々の知見を深める基盤となってきたと同時に,数値モデルによる解析に活用され,現象に対する我々の理解を向上させてきた.例えば仙台平野では,海底からの堆積物供給の欠如や,地形に影響された特徴的な堆積物分布形態が,漂砂の数値モデルが提示したプロセスで説明可能であることが示されている(Sugawara et al., 2014).また,津波堆積物はタービダイトと類似する特徴を有していることは従来指摘されてきたが,最近,地表の津波氾濫と海底の乱泥流には共通の流体力学・水理学的プロセスが働いている可能性が指摘され,数値モデルを用いた研究が進められている(成瀬ら,2014).
依然として,観察とモデルを整合させ,現象を統合的に理解するためには,データの取得・活用,支配的な物理過程の検討など更なる課題がある.地質データの特性を踏まえた現象のモデル化と,モデルの検証に資する質・量のデータ取得を両立させることが,研究の更なる発展の鍵になると思われる.