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[SVC45-P01] 北海道中央部、十勝岳火山群の新期活動期の岩石学的研究:特に20世紀噴火のマグマ系について
キーワード:十勝岳, マグマ供給系, 岩石学
十勝岳は北海道中央部に連なる十勝岳火山群の中央部にある火山である。十勝岳火山群の活動は約100万年前から始まり、その活動は古期・中期・新期の3つに分けられている(勝井ほか,1963a; 石塚ほか, 2010)。その中で新期の後半では約4700年前から、十勝岳の北西山腹において火口域を変えながら現在まで活動を続けてきた。その活動は噴火の時間間隙や給源火口の移動などから4つのステージに分けられており、現在のステージ4を除く全てのステージで爆発的噴火の後に溶岩流出を伴うという推移を繰り返してきた(藤原ほか, 2007, 2009)。十勝岳は20世紀に1926年、1962年、そして1988-89年の3度のマグマ噴火を起こしている。これらの噴火については多くの研究が成されており(多田・津屋, 1926; 勝井ほか, 1963b; 勝井ほか, 1990など)、20世紀噴火の推移や様式については詳細に明らかにされている。しかし、岩石学的見地から研究を行ったものは少なく、特に20世紀噴火全体のマグマ系について考察したものはない。そこで本研究では、十勝岳の20世紀噴火の本質物質を対象に岩石学的手法を用いて解析し、20世紀噴火のマグマ供給系の解明を試みた。
本研究では20世紀の噴火の本質物質を採取し、鏡下観察による記載、全岩化学組成分析及び鉱物化学組成分析を行った。20世紀噴火の噴出物は玄武岩質安山岩であり、斑晶鉱物は、かんらん石、斜方輝石、単斜輝石、斜長石、Fe-Ti酸化物からなる。斑晶量は1926年が26~47%、1962年が36~43%、1988-89年が43~48%である。1926年のスコリアでは石基に不均質な組織が見られたが、1962年のスコリアの石基は均質であった。一方1988-89年の火山弾の石基は結晶度が高く、半分以上のかんらん石斑晶に輝石の反応縁が見られるなどの特徴を持ち、それ以前の噴火とは大きく異なっている。全岩化学組成ではTiやAl、Vなどの元素で1962年と1988-89年の間に違いが見られるが、ほとんどの元素で年代ごとの違いは見られない。かんらん石は、1926年のスコリアではFo=71と75のバイモーダルな組成を示しているが、それ以降の噴火ではFo=76のみにピークが見られる。両輝石は1988-89年でMg#が低くなる傾向が見られたが、それ以外の大きな違いは見られず、単斜輝石はMg#=68-77で、斜方輝石はMg#=66-75でいずれもユニモーダルな組成を持つ。Fe-Ti酸化物は全ての噴火年代でMg/Mn=15にピークが見られたが、1988-89年火山弾中の斑晶のリムはMg/Mn=8とMg/Mn=14でバイモーダルとなっている。斜長石はAn=56?92の広い組成の範囲を示す。また両輝石と斜長石ではすべての年代で正と逆累帯構造が共存するが、1962年スコリアは斜長石で、1988-89年火山弾は単斜輝石でそれぞれ正累帯構造が多く見られた。一方で1926年スコリアはいずれの鉱物でも逆累帯構造が多く見られる。
以上の観察事実に基づき、マグマプロセスについての検討を行った。まず1926年スコリアの多くの鉱物斑晶で逆累帯構造が見られることから、噴火の前にマグマ混合が起きていたことが示唆された。加えて石基中に不均質な組織が見られることから、十分に混合する間も無く噴火に至ったことが推測できる。一方で1962年スコリアは均質な組織を持っていることから、噴火時のマグマは1926年の噴火時のものと比べて均質な状態であったことを示している。また、斜長石の逆累帯構造があまり見られなかったことは、マグマ溜まり内において1926年噴火時とは異なる部分のマグマが噴出したことを示していると考えられる。1988-89年噴出物は斑晶量の高さやFe-Ti酸化物のリムが低Mg/Mnにもピークを持つことなどから、1962年噴火時と比べて低温のマグマが噴出したと見られる。反応縁を持たないかんらん石も一定量見られることや、Fe-Ti酸化物のリムがバイモーダルであることから、噴火直前に分化したマグマが少量混合したのかもしれない。
以上のことから20世紀のマグマ供給系は主にマグマ溜まり内におけるマグマの空間的変化とマグマ混合によって説明される。
本研究では20世紀の噴火の本質物質を採取し、鏡下観察による記載、全岩化学組成分析及び鉱物化学組成分析を行った。20世紀噴火の噴出物は玄武岩質安山岩であり、斑晶鉱物は、かんらん石、斜方輝石、単斜輝石、斜長石、Fe-Ti酸化物からなる。斑晶量は1926年が26~47%、1962年が36~43%、1988-89年が43~48%である。1926年のスコリアでは石基に不均質な組織が見られたが、1962年のスコリアの石基は均質であった。一方1988-89年の火山弾の石基は結晶度が高く、半分以上のかんらん石斑晶に輝石の反応縁が見られるなどの特徴を持ち、それ以前の噴火とは大きく異なっている。全岩化学組成ではTiやAl、Vなどの元素で1962年と1988-89年の間に違いが見られるが、ほとんどの元素で年代ごとの違いは見られない。かんらん石は、1926年のスコリアではFo=71と75のバイモーダルな組成を示しているが、それ以降の噴火ではFo=76のみにピークが見られる。両輝石は1988-89年でMg#が低くなる傾向が見られたが、それ以外の大きな違いは見られず、単斜輝石はMg#=68-77で、斜方輝石はMg#=66-75でいずれもユニモーダルな組成を持つ。Fe-Ti酸化物は全ての噴火年代でMg/Mn=15にピークが見られたが、1988-89年火山弾中の斑晶のリムはMg/Mn=8とMg/Mn=14でバイモーダルとなっている。斜長石はAn=56?92の広い組成の範囲を示す。また両輝石と斜長石ではすべての年代で正と逆累帯構造が共存するが、1962年スコリアは斜長石で、1988-89年火山弾は単斜輝石でそれぞれ正累帯構造が多く見られた。一方で1926年スコリアはいずれの鉱物でも逆累帯構造が多く見られる。
以上の観察事実に基づき、マグマプロセスについての検討を行った。まず1926年スコリアの多くの鉱物斑晶で逆累帯構造が見られることから、噴火の前にマグマ混合が起きていたことが示唆された。加えて石基中に不均質な組織が見られることから、十分に混合する間も無く噴火に至ったことが推測できる。一方で1962年スコリアは均質な組織を持っていることから、噴火時のマグマは1926年の噴火時のものと比べて均質な状態であったことを示している。また、斜長石の逆累帯構造があまり見られなかったことは、マグマ溜まり内において1926年噴火時とは異なる部分のマグマが噴出したことを示していると考えられる。1988-89年噴出物は斑晶量の高さやFe-Ti酸化物のリムが低Mg/Mnにもピークを持つことなどから、1962年噴火時と比べて低温のマグマが噴出したと見られる。反応縁を持たないかんらん石も一定量見られることや、Fe-Ti酸化物のリムがバイモーダルであることから、噴火直前に分化したマグマが少量混合したのかもしれない。
以上のことから20世紀のマグマ供給系は主にマグマ溜まり内におけるマグマの空間的変化とマグマ混合によって説明される。