日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-RD 資源・鉱床・資源探査

[S-RD41] 資源地質学の新展開:鉱化流体の起源と進化

2015年5月25日(月) 09:00 〜 10:45 106 (1F)

コンビーナ:*実松 健造(独立行政法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 鉱物資源研究グループ)、野崎 達生(海洋研究開発機構地球内部ダイナミクス領域)、大竹 翼(北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門)、高橋 亮平(秋田大学国際資源学部)、座長:実松 健造(独立行政法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 鉱物資源研究グループ)、野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)

10:15 〜 10:30

[SRD41-05] 地温勾配下における堆積盆間隙水の塩分濃度分布

*吉村 俊平1 (1.山形大学理学部地球環境学科)

キーワード:間隙水, 塩分濃度, 堆積盆

<はじめに>
堆積盆の間隙水は,続成作用,鉱床形成,炭化水素類の生成・輸送などにおいて重要な役割を果たしている.これまでの研究により,間隙水はしばしば海水より高い塩分濃度を有し,その濃度は深部ほど高く,400g/Lを超える場合もあることが知られている(e.g., Kharaka and Hanor, 2003).そのような高濃度の塩水の成因としては,堆積盆深部からの岩塩の溶出,海水の蒸発,水―岩石相互作用,炭化水素形成に伴うH2Oの枯渇,高温下での気液分離,海水の凍結,頁岩による濾過効果など,様々なプロセスが提案されてきた.中でも,多くの堆積盆において岩塩が存在することから,岩塩の溶出が主要な原因と考えられている.しかし,岩塩が存在しない場でも塩分濃度が下部ほど高くなる傾向が見いだされることから(e.g., Xie et al., 2003),岩塩を必要としない,より普遍的な塩分濃縮メカニズムの存在が示唆される.
本研究では,鉛直方向に地温勾配・圧力勾配・重力ポテンシャル勾配の存在する場に塩水が置かれ,平衡状態に達すると,塩分濃度勾配が自然に生じ,深部ほど高濃度になることを理論的に示した.間隙水の塩分の化学ポテンシャルは,温度項・圧力項・濃度項・重力ポテンシャル(位置の関数)の和で表される.深部ほど高圧のため,圧力項は増加する一方,高温のために温度項は低下する.また重力ポテンシャルは低下する.これらの総和は,一般に深部ほど低下する.最終的な平衡状態では,どの深度でも化学ポテンシャルが等しいはずであるから,濃度項が増加することで低下した分を補い,その結果,深部ほど高濃度になると考えられる.この考えのもと,各深度の塩濃度を計算した.

<化学平衡モデルと計算結果>
簡単のため,間隙水を塩化ナトリウム水溶液で近似し,Pitzer et al. (1984),Rogers and Pitzer (1982)のモデルを用いて状態変数を計算した.その際,純水の誘電率と状態方程式には,それぞれArcher and Wang(1991), IAPWS97を用いた.まず,堆積物コラムの各深度において,温度・圧力を与え,重力項も含めた化学ポテンシャルを計算した.次に,その値とコラムの最上部(海底面に相当)での値の差を濃度項に帰し,塩化ナトリウムの濃度を算出した.その結果,深部ほど濃度は増加し,実際に観測されている塩濃度と同程度となった.また,濃度勾配は,温度勾配の大きさにほぼ比例した.例えば,温度勾配を0.05K/m,最上部の温度と塩分濃度をそれぞれ2℃,32g/Lとすると,厚さ2000mの堆積物の底部では208g/Lまで増加した.温度勾配がない場合でもごくわずかに増加し,同じ条件で36g/Lとなったが,これは,重力ポテンシャルだけでは実際の塩分濃度分布を説明できないとするMangelsdorf et al. (1970)の結論と調和的である.また,淡水~汽水域の堆積盆を想定し,最上部の塩分濃度を1g/Lとすると,同じ条件で24g/Lに達した.以上から,間隙水が鉛直方向に平衡の状態に達すれば,下部ほど塩分濃度が高くなる分布が普遍的に作られることが示された.

<応用可能性>
本研究の手法は,流体が静的とみなされる場にさえあれば,地殻内流体,変成流体,マグマ性流体,マントル流体など,堆積盆以外の流体の研究にも応用可能と考えられる.また,この濃度分布は化学平衡によって決まるものであるため,流体の組成分布や流れを理解するための基準になると考えられる.