16:30 〜 16:45
[AOS23-09] 黒潮フロント域の渦、乱流、内部波、混合と栄養塩供給
キーワード:黒潮, 乱流, 渦, 内部波, 二重拡散, 栄養塩
日本太平洋側沿岸域を北上する黒潮は、 水平・鉛直方向の熱・物質輸送や、海域の物理、化学、生物環境に多大な影響を及ぼす。貧栄養として特徴づけられる黒潮の上流域である薩南、南西諸島海域では、多くの浮魚類が産卵を行い、黒潮はそれらの稚仔魚を下流方向に輸送するため、輸送経路である黒潮フロント域における基礎生産は、稚仔魚の生残に重要であると推察できる。しかしながら、黒潮フロント域で基礎生産を支える栄養塩を供給する機構については明らかではない。従って、季節的・経年的に起こる黒潮の変動に対して、栄養塩供給に依存する海域の生態系が如何に応答するかは、不明である。本研究では、黒潮に栄養塩を供給する主要な物理メカニズムを検証し、それらを定量して相対的な重要性を明らかにすること、また黒潮の変動に伴った栄養塩供給や生態系の応答の把握・予測に役立てることを目的とする。
本研究においては、黒潮で栄養塩を供給する機構を等密度面に沿った(i)等密度面輸送とそれを横切る(ii)等密度面を横切る輸送とに分けて研究を遂行している。「(i)等密度面輸送」には、中規模の渦が黒潮から切離すること、黒潮の蛇行に伴う鉛直流等をその成因として挙げる事が出来る。一方「(ii)等密度面を横切る輸送」は、乱流混合や、二重拡散対流を挙げる事が出来る。本研究プロジェクトで「栄養塩供給機構の解明」を分担する著者、長井(東京海洋大学)は、2009年10月に取得した現場観測データに、3次元ω方程式を適用して、準地衡近似を満たすバランスした鉛直流をO(10 m/day)と推定し、黒潮の蛇行に同調する低塩分水の舌状分布を説明した (Nagai et al. 2012)。Clayton et al. (2014)は、同航海で得た栄養塩の断面データを用いて、バランスした鉛直流が引き起こす、等密度面に沿った硝酸塩の鉛直フラックスが 水深 60 m でO(100 mMol m-2day-1)に及ぶと推定した。しかしながら、蛇行するフロントに沿って湧昇や下降流が繰り返し発生する事を考えると、推定した大きな栄養塩の鉛直上向きフラックスは、その前後で発生するであろう下向きフラックスと打ち消し合うため、正味の輸送を生じ難いと考える事ができる。正味の栄養塩供給に至るためには、等密度面に沿った輸送に加えて等密度面を横切るフラックスが必要である。Nagai et al. (2009)が行った2008年8月図1 黒潮流軸に沿って投入したEM-APEXフロートで取得したの黒潮フロント域の現場観測データをはじめとし、2009年10月、2011年8月、2012年8月に取得した観測データは、黒潮流軸の躍層内で O(10-8-10-6 W/kg)と典型的な外洋域の躍層の散逸率の10-1000倍大きい乱流運動エネルギー散逸率を示した。この時、同時に観測したADCPによる水平流速の鉛直シアは、黒潮流軸直下で帯状の構造を示したことから、内部波の砕波がそこで発生している事が推察できる。このような黒潮流軸直下における著しい乱流運動エネルギー散逸率の観測結果は、Kunze (1985)やWhitt and Thomas (2013)らの、近慣性内部波の捕捉と砕波がフロントの流れの水平・鉛直シアに伴って発生し得るとした理論的研究結果を支持するものである。Nagai et al. (査読中)は、この様なフロントにおける近慣性内部波が、黒潮が蛇行する事で自励的に発生するという仮説を検証するために、水平高解像度(1 km)の非静水圧モデルに観測した黒潮断面を初期条件として用いて数値実験を実施した。その結果、風や冷却等の海面強制力無しで黒潮の発達した蛇行の谷と峰から近慣性内部波がO(10 mW m-2)で生成されることが判った。従って、黒潮流軸直下で直接観測した著しい乱流運動エネルギー散逸率や、それに伴った等密度面を横切る栄養塩フラックスは、風が生成した近慣性波のみならず、黒潮から自励的に発生した近慣性内部波が流軸直下で砕波する事で発生していると考える事が出来る。また、2013年7月に実施したフロートを用いた黒潮流軸に沿った微細構造観測結果から、流軸直下に沿った約900 kmに渡って低塩分水が帯状構造をとりつつ数日及び近慣性周期で変動している事が判った。さらに、その塩分極小層 (100-300 m 深)付近では、乱流運動エネルギー散逸率は小さいもの、水温の散逸率が流軸直下300 km に亘って著しく大きい事が判った。この結果は、黒潮流軸直下且つ有光層直下において二重拡散対流に伴う混合が無視できない栄養塩供給経路である可能性を示すものであると考える。発表では、これらに加えて渦解像モデルを用いた渦の切離に伴う栄養塩の等密度面輸送解析結果について紹介させて頂く予定である。
本研究においては、黒潮で栄養塩を供給する機構を等密度面に沿った(i)等密度面輸送とそれを横切る(ii)等密度面を横切る輸送とに分けて研究を遂行している。「(i)等密度面輸送」には、中規模の渦が黒潮から切離すること、黒潮の蛇行に伴う鉛直流等をその成因として挙げる事が出来る。一方「(ii)等密度面を横切る輸送」は、乱流混合や、二重拡散対流を挙げる事が出来る。本研究プロジェクトで「栄養塩供給機構の解明」を分担する著者、長井(東京海洋大学)は、2009年10月に取得した現場観測データに、3次元ω方程式を適用して、準地衡近似を満たすバランスした鉛直流をO(10 m/day)と推定し、黒潮の蛇行に同調する低塩分水の舌状分布を説明した (Nagai et al. 2012)。Clayton et al. (2014)は、同航海で得た栄養塩の断面データを用いて、バランスした鉛直流が引き起こす、等密度面に沿った硝酸塩の鉛直フラックスが 水深 60 m でO(100 mMol m-2day-1)に及ぶと推定した。しかしながら、蛇行するフロントに沿って湧昇や下降流が繰り返し発生する事を考えると、推定した大きな栄養塩の鉛直上向きフラックスは、その前後で発生するであろう下向きフラックスと打ち消し合うため、正味の輸送を生じ難いと考える事ができる。正味の栄養塩供給に至るためには、等密度面に沿った輸送に加えて等密度面を横切るフラックスが必要である。Nagai et al. (2009)が行った2008年8月図1 黒潮流軸に沿って投入したEM-APEXフロートで取得したの黒潮フロント域の現場観測データをはじめとし、2009年10月、2011年8月、2012年8月に取得した観測データは、黒潮流軸の躍層内で O(10-8-10-6 W/kg)と典型的な外洋域の躍層の散逸率の10-1000倍大きい乱流運動エネルギー散逸率を示した。この時、同時に観測したADCPによる水平流速の鉛直シアは、黒潮流軸直下で帯状の構造を示したことから、内部波の砕波がそこで発生している事が推察できる。このような黒潮流軸直下における著しい乱流運動エネルギー散逸率の観測結果は、Kunze (1985)やWhitt and Thomas (2013)らの、近慣性内部波の捕捉と砕波がフロントの流れの水平・鉛直シアに伴って発生し得るとした理論的研究結果を支持するものである。Nagai et al. (査読中)は、この様なフロントにおける近慣性内部波が、黒潮が蛇行する事で自励的に発生するという仮説を検証するために、水平高解像度(1 km)の非静水圧モデルに観測した黒潮断面を初期条件として用いて数値実験を実施した。その結果、風や冷却等の海面強制力無しで黒潮の発達した蛇行の谷と峰から近慣性内部波がO(10 mW m-2)で生成されることが判った。従って、黒潮流軸直下で直接観測した著しい乱流運動エネルギー散逸率や、それに伴った等密度面を横切る栄養塩フラックスは、風が生成した近慣性波のみならず、黒潮から自励的に発生した近慣性内部波が流軸直下で砕波する事で発生していると考える事が出来る。また、2013年7月に実施したフロートを用いた黒潮流軸に沿った微細構造観測結果から、流軸直下に沿った約900 kmに渡って低塩分水が帯状構造をとりつつ数日及び近慣性周期で変動している事が判った。さらに、その塩分極小層 (100-300 m 深)付近では、乱流運動エネルギー散逸率は小さいもの、水温の散逸率が流軸直下300 km に亘って著しく大きい事が判った。この結果は、黒潮流軸直下且つ有光層直下において二重拡散対流に伴う混合が無視できない栄養塩供給経路である可能性を示すものであると考える。発表では、これらに加えて渦解像モデルを用いた渦の切離に伴う栄養塩の等密度面輸送解析結果について紹介させて頂く予定である。