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★ [U04-01] 海底下メタンの行方と地球生命科学:15年来のブラックボックスの解明に向けて
キーワード:海底下のメタン, 炭素循環, 第3の生物界「アーキア」, ANME (ANaerobic MEthanotroph)
地球表層圏での炭素循環の主な形態は、最も酸化的な二酸化炭素CO2、最も還元的なメタンCH4、そしてその中間である有機態炭素Cn(H2O)mの3つに加え、グラファイトがある。第3の生物界「アーキア」は、ユーカリア(真核生物)、バクテリア(真正細菌)に次ぐ、地球炭素循環のミクロな担い手である。海洋炭素循環のうち、最も酸化的な形態である水柱の「二酸化炭素」の固定能を浮遊性アーキアは有している(e.g., Wuchter et al., 2003)。また、ユーリアーキオータ門の一部のアーキア群は、メタンの生産者(=メタン生成菌)でもある。このアーキアによる生物起源メタン生成の基礎プロセスは、資源科学的にも注目されている。この観点からKaneko et al. (2014)では、LC/ESI-MS/MSを用いて、オンライン分離後にトリプル四重極質量分析計による多重反応モニタリング法(Multiple Reaction Monitoring, MRM)を最適化し、0.1-1.0 femto mol(フェムトモル)オーダーの海底下のメタン生成に関わる補酵素分子の超高感度定量法を開発した。この技術開発では、微量湿式分析の「アキレス腱」ともいえる一連のマトリックス効果を克服し、メタン生成ポテンシャル評価の応用的展開に成功している。
一方、海底下および陸上の地下圏には、逆に、メタンを炭素源にする嫌気的メタン酸化アーキア群が存在する。そのANME (ANaerobic MEthanotroph)-1, ANME-2, ANME-3の系統分類群は、メタンを生化学的に分解し、「大気中への放出を面的に」防いでいる(e.g., Knittel and Boetius, 2009 and literatures therein)。メタンは、二酸化炭素よりも温室効果ガスとしての影響力が大きい。このため、海底下メタンの微生物学的分解は、地球惑星科学的にも極めて重要なプロセスであることが理解できる。その海底下で起きている嫌気的メタン酸化プロセスが発見されて以降(e.g., Hinrichs et al., 1999; Elvert et al., 1999)、炭素同位体的に軽いANMEの膜脂質(Membrane lipids)に由来する炭素13に枯渇した値は、嫌気的メタン酸化の証拠として世界中で報告されている。本セッションでは、海底下のメタン酸化に関わるアーキアの中央代謝経路からメタンの生物地球化学的プロセスを探ってみたい。15年来のブラックボックスを開くヒントは、有機分子レベルのアプローチにありそうである。
【References】
Elvert et al., 1999. Anaerobic methane oxidation associated with marine gas hydrates: superlight C-isotopes from saturated and unsaturated C-20 and C-25 irregular isoprenoids. Naturwissenschaften, 86, 295-300.
Kaneko et al., 2014. Quantitative analysis of coenzyme F430 in environmental samples: a new diagnostic tool for methanogenesis and anaerobic methane oxidation. Analytical Chemistry, 86, 3633-3638.
Knittel, K., Boetius, A., 2009. Anaerobic oxidation of methane: progress with an unknown process. Annual Review of Microbiology 63, 311-334.
Hinrichs et al., 1999. Methane-consuming archaebacteria in marine sediments. Nature, 398, 802-805.
Wuchter et al., 2003. Bicarbonate uptake by marine Crenarchaeota. FEMS Microbiology Letters, 219, 203-207.
一方、海底下および陸上の地下圏には、逆に、メタンを炭素源にする嫌気的メタン酸化アーキア群が存在する。そのANME (ANaerobic MEthanotroph)-1, ANME-2, ANME-3の系統分類群は、メタンを生化学的に分解し、「大気中への放出を面的に」防いでいる(e.g., Knittel and Boetius, 2009 and literatures therein)。メタンは、二酸化炭素よりも温室効果ガスとしての影響力が大きい。このため、海底下メタンの微生物学的分解は、地球惑星科学的にも極めて重要なプロセスであることが理解できる。その海底下で起きている嫌気的メタン酸化プロセスが発見されて以降(e.g., Hinrichs et al., 1999; Elvert et al., 1999)、炭素同位体的に軽いANMEの膜脂質(Membrane lipids)に由来する炭素13に枯渇した値は、嫌気的メタン酸化の証拠として世界中で報告されている。本セッションでは、海底下のメタン酸化に関わるアーキアの中央代謝経路からメタンの生物地球化学的プロセスを探ってみたい。15年来のブラックボックスを開くヒントは、有機分子レベルのアプローチにありそうである。
【References】
Elvert et al., 1999. Anaerobic methane oxidation associated with marine gas hydrates: superlight C-isotopes from saturated and unsaturated C-20 and C-25 irregular isoprenoids. Naturwissenschaften, 86, 295-300.
Kaneko et al., 2014. Quantitative analysis of coenzyme F430 in environmental samples: a new diagnostic tool for methanogenesis and anaerobic methane oxidation. Analytical Chemistry, 86, 3633-3638.
Knittel, K., Boetius, A., 2009. Anaerobic oxidation of methane: progress with an unknown process. Annual Review of Microbiology 63, 311-334.
Hinrichs et al., 1999. Methane-consuming archaebacteria in marine sediments. Nature, 398, 802-805.
Wuchter et al., 2003. Bicarbonate uptake by marine Crenarchaeota. FEMS Microbiology Letters, 219, 203-207.