日本地球惑星科学連合2015年大会

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ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS22] 太陽系における惑星物質の形成と進化

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*伊藤 正一(京都大学大学院理学研究科)、臼井 寛裕(東京工業大学地球惑星科学科)、瀬戸 雄介(神戸大学大学院理学研究科)、宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)、木村 眞(茨城大学理学部)、大谷 栄治(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、薮田 ひかる(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)

18:15 〜 19:30

[PPS22-P06] 還元的条件下におけるアエンデ隕石の水熱変成実験

飯国 恒之1、*瀬戸 雄介1留岡 和重1三宅 亮2市村 隼1 (1.神戸大学・院・理、2.京都大学・院・理)

キーワード:炭素質コンドライト, 水熱変成実験, アエンデ, 層状ケイ酸塩, 蛇紋石

多くの炭素質コンドライトは様々な程度の水質変成を受けており、その変成生成物は化学的タイプによって異なる。これは、隕石母天体における変成環境(温度、期間、pH、水/岩石比、fO2など)の違いを反映していると考えられる。これまで炭素質コンドライト母天体の水質変成環境を明らかにするために、幾つかの実験的研究が行われているが、実験上の制約から、母天体として想定される環境と比べてやや極端な条件(酸化的、高い温度・圧力、高い溶液/岩石比)で行われており、実際に隕石母天体を再現していない可能性が高かった。
そこで本研究では、Allende CV3隕石を出発物質として、炭素質コンドライト母天体の環境により近いと思われる条件(特に還元的、低温度、低圧力、低溶液/岩石比)下における水熱変成実験を行った。反応溶液は、pH 7.0、 8.5、 10.0、 14.0の4種類のNaOH溶液を使用し、水/岩石体積比(W/R)を0.5、 2.0、 8.0に調整した。反応容器は外容器(テフロン/ステンレス製、25 m l) 、 内容器(テフロン製、1 ml) を用い、外容器に塩酸とマグネジウムを入れ、H2ガスを発生させることで反応容器内を還元的雰囲気に保った。金属鉄を酸化還元度のマーカーとした予備実験から、容器内のfO2は最大で1.0×10?35気圧と見積もられ、隕石で想定される値に近いことを確認した。すべての実験は温度200℃、圧力約15気圧、 期間168時間の条件で行った。回収試料については、放射光X線回折法 (SR-XRD)を用いて結晶相同定を行い、SEM-EDSを用いて組織観察・分析を行った。また一部の試料については(S)TEM観察を行った。
実験の結果、殆どの回収物は元のブロック形状を保ったが、pH 14、W/R 8.0の条件では脆弱化し原型を失っていた。ブロックの表面にはmagnetite、anhydrite、calciteなどの析出物がランダムに点在しており、表面組織との関連は見られなかった。さらにブロックを切断研磨し、断面を観察したところ、マトリックス中のカンラン石の粒子間を充填するように変成物質が生成することを確認した。生成物の大部分はserpentineであり、すべての条件で有意な量の生成を確認した。またpH 14かつW/R 0.5の条件ではserpentineに加えてsmectiteが生成することを確認した。pH 7かつW/R 0.5の条件では、非晶質物質の生成を確認した。SR-XRDによる回折ピークの強度解析とSEMの画像解析を行ったところ、全体的に溶液pHおよびW/Rが高いほど変成生成物の量が大きくなる傾向が見られた。TEM観察から、層状ケイ酸塩鉱物はオリビンの粒子表面から直接成長しており、カンラン石の(100)面(酸素の六方最密充填構造の積層方向)と層状ケイ酸塩の積層面方向が一致することが分かった。このような結晶学的方位関係は実際の隕石中の変成組織でも知られており、エネルギー障壁の小さい(あるいは反応速度の速い)相転移であることが示唆される。
本研究では、i) 還元的条件下では、低温(200 ℃)かつ中性溶液(pH 7.0)条件下でも、わずか168時間という短い期間で有意な水質変成(特に層状ケイ酸塩化)反応が進行すること、ii) W/Rは変成生成物の種類や量に大きな影響を与えることを示した。この結果は炭素質コンドライト母天体における水質変成の解釈に重要な制約を与える可能性がある。