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[MIS24-P09] 飛騨山脈北部及び日本海上越沖のNi・Cr含有率の時空間分布からみた最終間氷期以降の堆積物輸送変動
キーワード:MD-179航海, 氷期・間氷期サイクル, 元素分析, 姫川, 物質輸送, 夏季モンスーン
日本海東縁の海底堆積物には、日本列島起源の堆積物が多量に含まれていると考えられる。陸源物質の輸送・堆積過程の解明は、メタンハイドレート含有層の形成環境を理解するうえで重要である。日本海東北沿岸の堆積物中のNi・Crの主要供給源は姫川流域周辺に限定されることから(今井ら,2010)、堆積物のNi・Cr濃度の時間変化をもとに、姫川流域から供給される物質輸送の歴史を復元できる可能性がある。細粒な河川供給物は海底谷だけでなく海脚にも連続的に堆積していると考えられる。本研究では、姫川河口から数10~300km離れた海脚で掘削された3本のボーリングコア堆積物に含まれるNi・Cr濃度の最終間氷期以降の変化を明らかにした。さらに、姫川を含む北陸の主要河川の河床堆積物、上越海岸堆積物のNi・Cr濃度の空間分布を求め、飛騨山脈から日本海への物質輸送の時空間変動を検討した。
本研究では、上越沖の大陸棚に近接する水深約1000mの海脚で得られたMD179-3296(姫川河口からの距離約45 km)コアと同3312コア(同61 km)、姫川河床堆積物を含む北陸地方の表層堆積物試料に加え、比較のため姫川河口から約284km離れた秋田―山形沖で掘削されたRC1408コアを分析試料とした。Ni、Crの起源は姫川上流に分布する時代未詳の蛇紋岩化した超苦鉄質岩と考えられており、西隣を流れる青海川流域にも蛇紋岩が分布する。姫川は飛騨山脈北部を水源とし、河口の沖合に大陸棚が発達しない急勾配な河川である。
研究方法としては、試料を乾燥、粉砕後タブレット状に加圧形成し、波長分散型蛍光X線分析装置(ZSX PrimusII RIGAKU製 東京大学新領域創成科学研究科自然環境学専攻所有)で検量線法による元素分析を行った。MD179-32961、3312コアは、テフラ、14C年代値、有孔虫酸素同位体比等に基づく年代モデル(仲村ら, 2013;滝澤ら, 2014など)を用いて、深度を時間変換した。堆積物はレーザ回折式粒度分布測定装置(SALD3000S同所有)を用いて粒度分析も行った。
地球化学図(今井ら,2010)に示されたNi・Crの濃度分布パターンから、姫川起源の砕屑物は姫川河口からおよそ20~30 km以内ではサスペンジョン粒子として海流に流されつつ沈み、それより離れると主に重力流によって流下していると考えられる。姫川と青海川の河床堆積物の元素・粒度分析の結果、粒子が粗いほどNi・Cr濃度は高いことが明らかになり、Ni・Crは主に鉱物態で、砕屑物として供給されると推定された。さらに、姫川河床堆積物のNi・Crは蛇紋岩帯の直近のみで高濃度を示し、Ni・Crの起源は姫川や青海川流域の中でも一部に限定される事が分かった。3296、3312コアのNi・Cr濃度は概ね一致し、温暖期に増加、寒冷期に減少する傾向を示した。ただし、姫川河口に近い3296コアの方が濃度のピーク値が高く、遠地のRC1408コア中のNi・Cr濃度は3296コアの濃度の半分~3分の1程度であった。Ni・Cr濃度の時間変化は、湖底堆積物のTOC含有率から推定された中部山岳地域の気温・降水量の変化(公文ほか, 2009)と同調している。姫川周辺の急峻な地形条件を考慮すると、主に夏季モンスーンに影響された降雨量変化が蛇紋岩砕屑物の供給量の変化要因と考えられる。
本研究は、経済産業省のメタンハイドレート資源開発促進事業の一環として実施されたものである。
参考文献
今井ら (2010) 海と陸の地球化学図. 207p,産業技術総合研究所. 滝澤ら(2014)日本地球惑星科学連合大会講演要旨HQR24. 公文ら (2009) 中部山岳地域の湖沼堆積物の有機物含有率を指標とした過去16万年間の気候変動復元. 地質学雑誌, 115, 7, p.344-356. 仲村ら(2013)日本ガスハイドレート調査で得られた上越沖海底堆積物の後期更新世テフラ層序. 石油技術協会誌, 78, p.79-91.
本研究では、上越沖の大陸棚に近接する水深約1000mの海脚で得られたMD179-3296(姫川河口からの距離約45 km)コアと同3312コア(同61 km)、姫川河床堆積物を含む北陸地方の表層堆積物試料に加え、比較のため姫川河口から約284km離れた秋田―山形沖で掘削されたRC1408コアを分析試料とした。Ni、Crの起源は姫川上流に分布する時代未詳の蛇紋岩化した超苦鉄質岩と考えられており、西隣を流れる青海川流域にも蛇紋岩が分布する。姫川は飛騨山脈北部を水源とし、河口の沖合に大陸棚が発達しない急勾配な河川である。
研究方法としては、試料を乾燥、粉砕後タブレット状に加圧形成し、波長分散型蛍光X線分析装置(ZSX PrimusII RIGAKU製 東京大学新領域創成科学研究科自然環境学専攻所有)で検量線法による元素分析を行った。MD179-32961、3312コアは、テフラ、14C年代値、有孔虫酸素同位体比等に基づく年代モデル(仲村ら, 2013;滝澤ら, 2014など)を用いて、深度を時間変換した。堆積物はレーザ回折式粒度分布測定装置(SALD3000S同所有)を用いて粒度分析も行った。
地球化学図(今井ら,2010)に示されたNi・Crの濃度分布パターンから、姫川起源の砕屑物は姫川河口からおよそ20~30 km以内ではサスペンジョン粒子として海流に流されつつ沈み、それより離れると主に重力流によって流下していると考えられる。姫川と青海川の河床堆積物の元素・粒度分析の結果、粒子が粗いほどNi・Cr濃度は高いことが明らかになり、Ni・Crは主に鉱物態で、砕屑物として供給されると推定された。さらに、姫川河床堆積物のNi・Crは蛇紋岩帯の直近のみで高濃度を示し、Ni・Crの起源は姫川や青海川流域の中でも一部に限定される事が分かった。3296、3312コアのNi・Cr濃度は概ね一致し、温暖期に増加、寒冷期に減少する傾向を示した。ただし、姫川河口に近い3296コアの方が濃度のピーク値が高く、遠地のRC1408コア中のNi・Cr濃度は3296コアの濃度の半分~3分の1程度であった。Ni・Cr濃度の時間変化は、湖底堆積物のTOC含有率から推定された中部山岳地域の気温・降水量の変化(公文ほか, 2009)と同調している。姫川周辺の急峻な地形条件を考慮すると、主に夏季モンスーンに影響された降雨量変化が蛇紋岩砕屑物の供給量の変化要因と考えられる。
本研究は、経済産業省のメタンハイドレート資源開発促進事業の一環として実施されたものである。
参考文献
今井ら (2010) 海と陸の地球化学図. 207p,産業技術総合研究所. 滝澤ら(2014)日本地球惑星科学連合大会講演要旨HQR24. 公文ら (2009) 中部山岳地域の湖沼堆積物の有機物含有率を指標とした過去16万年間の気候変動復元. 地質学雑誌, 115, 7, p.344-356. 仲村ら(2013)日本ガスハイドレート調査で得られた上越沖海底堆積物の後期更新世テフラ層序. 石油技術協会誌, 78, p.79-91.