日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM27] 大気圏・電離圏

2015年5月26日(火) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*大塚 雄一(名古屋大学太陽地球環境研究所)、津川 卓也(情報通信研究機構)、川村 誠治(独立行政法人 情報通信研究機構)

18:15 〜 19:30

[PEM27-P18] 観測ロケット搭載ラングミュアプローブにより観測されたスポラディックE層の空間構造と新たな解析方法の導入

*坂本 優美花1阿部 琢美2三宅 亙1 (1.東海大学大学院工学研究科航空宇宙専攻、2.宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)

キーワード:E層, ラングミュアプローブ, 観測ロケット

スポラディックE層の観測・研究は古くから行なわれてきたが,その生成機構についてはwind-shear理論が一般に受け入れられている.この理論は電子密度の集積過程を説明するが,内部の熱エネルギー収支についてはほとんど情報を与えない.電離圏の熱エネルギー収支を議論する上で,電子温度は重要なパラメータであるが,スポラディックE層内での正確な電子温度観測の例は少ない上に信頼性に乏しい.このように,スポラディックE層内の電子密度に関しては夥しい数の観測例が報告されているものの,熱エネルギー収支を議論するために必要な電子温度情報は限られた報告例しか存在せず,信頼性のある観測が待ち望まれている.
一般にスポラディックE層の高度方向の幅は非常に狭いため,高速で飛行する観測ロケットによる詳細観測は難しい.観測報告が多数あるものの,詳細空間構造を議論する上で十分なデータは得られていないのが現状である.このため,スポラディックE層空間構造の更なる理解のためには,高速サンプリングが可能な測定器による観測を基にした,精度に優れた電子温度・電子密度データを得ることが求められる.
下部電離圏に発生するスポラディックE層の空間構造解明を主目的として平成26年8月17日19時10分00秒(JST)に宇宙航空開発機構内之浦宇宙空間観測所より観測ロケットS-520-29号機が打ち上げられた.この実験は光,電波,直接測定という3つの手段を用いて電子/イオン密度分布を測定し,スポラディックE層の空間構造を捉えることを目的としている.本実験では所期の目的通りロケットが飛翔中に厚さ約1 kmのスポラディックE層を通過し,観測が行なわれた.
直接測定用プローブのひとつとしてロケットにラングミュアプローブが搭載されたが,この測定器における印加電圧の掃引周期は62.5ミリ秒であり,これを周期として電子温度と電子密度を推定することが可能である.この時間は空間分解能では約100 mに相当するが,鋭いスポラディックE層のような鉛直方向の厚さ1 km程度の空間の詳細構造を議論するには不十分である.実際に今回の実験においてスポラディックE層内で取得されたプローブの電圧-電流特性を見ると,電圧掃引時間内に電子密度が変化したためと思われる電流の変化が見られ,従来の方法では電子温度と電子密度が推定できないことがわかった.
本研究では,このように急激に電子密度が変化する場合でも正確な推定を可能にする新たな解析方法を考案し,スポラディックE層付近で取得された実際のデータに適用した.新たな方法ではデータ補間を用いることで,掃引時間よりも短い時間間隔で電子温度と密度を推定することが可能になる.本講演では新たな手法に基づいて推定したスポラディックE層の厚さや背景との電子密度の比較,補間法の妥当性や,含まれる誤差について検討した結果を報告する.