日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT31] 環境トレーサビリティー手法の新展開

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、陀安 一郎(京都大学生態学研究センター)

18:15 〜 19:30

[HTT31-P16] 中国地方の降水の硫黄,水素,酸素,ストロンチウム同位体比から見る越境汚染の地域的影響と季節・経年変化

塚田 快1淀瀬 達也1中野 孝教2山下 勝行1、*千葉 仁1 (1.岡山大学大学院自然科学研究科、2.総合地球環境学研究所)

キーワード:越境汚染, 降水, 硫黄同位体比, 水素同位体比, 酸素同位体比, ストロンチウム同位体比

中国大陸からの越境汚染の地域的影響と季節・経年変化を明らかにするために,中国地方を南北に縦断する鳥取と岡山の7か所において1か月間隔で降水を採取して観測を継続している。2011年1月~2014年8月の試料について結果を報告する。降水試料は,0.45umのメンブランフィルターでろ過した後,溶存イオン濃度,水の水素・酸素同位体比,硫酸イオンの硫黄同位体比,Sr同位体比を測定した。
日本海側において,非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比は,冬季に高く,夏季に低い季節変化が見られた。高い硫黄同位体比は中国北部の硫黄酸化物の飛来(越境汚染)を示している。この硫黄同位体比の値に経年変化がないことから,供給源にも変化がないことが示唆される。なお,2013年は夏季においても高い値を示した。これは,例年にない大雨の影響から高い硫黄同位体比をもった大気中の硫黄酸化物が多く洗い流されたローカルな現象の結果と考えられる。
瀬戸内側では,非海塩性硫酸の硫黄同位体比に明瞭な季節変化が見られず,一年を通して日本海側より低い硫黄同位体比を示している。このことは,中国由来の高い硫黄同位体比を持った硫黄酸化物は,中国山地を越える前に日本海側で大部分が取り除かれていることを示す。
降水のd値は,日本海側,瀬戸内側共に冬季に高く,夏季に低い季節変化がみられた。このことは,日本海側も瀬戸内側も,冬季には日本海から,夏季には太平洋から降水のもととなる水蒸気が供給されていることを示す。瀬戸内側で冬季に日本海から供給された水蒸気による降水が起きているにもかかわらず,中国由来の高い同位体比を持った硫黄酸化物の影響がみられないことは,日本海側での降水(降雪)の過程で中国由来の硫黄酸化物の大部分の除去が行われていることを示す。
日本海に近い湯梨浜において測定したSr同位体比も明瞭な季節変動を示す。Sr同位体比は4,5,6月に海水のSr同位体比より高く,7,8月には海水のSr同位体比より低い。それ以外の月では海水のSr同位体比に近い値を示す。春季に見られる高いSr同位体比は大陸から飛来する黄砂の可溶性成分が溶解している影響を受けており,秋季・冬季の海水に近いSr同位体比は海塩粒子の影響が大きいことを反映していると考えられる。非海塩性硫酸の硫黄同位体比とSr同位体比の変動の周期がずれていることから,中国大陸からの硫黄酸化物と黄砂の輸送過程は互いに独立であると推測される。