10:30 〜 10:45
[SRD41-06] 深部花崗岩中の地下水と二次鉱物中における希土類元素の分配
キーワード:希土類元素, 花崗岩, 地下水
水-鉱物反応は地質環境における物質移動特性に影響を及ぼす重要な地球科学プロセスの一つである。水-鉱物反応による元素の移動性は水質条件によって複雑に変化し,鉱物の溶解/沈殿,酸化/還元,吸着/脱着といった化学反応によって支配されるため,それらに関わる調査解析手法の開発は,地球表層環境における物質移動プロセスを明らかにするうえで重要な研究課題の一つである。特に,希土類元素(YREE: La-Lu, Y)の鉱物中への分配挙動は環境条件の変化にしたがって,YREE存在度パターンとして保存されるため,地球化学プロセスを把握するための指標として利用されてきた。本研究では深部花崗岩中の地下水と二次鉱物を対象に地下水の水質条件の変化にともなうYREEの分配挙動について把握し,地質環境における物質移動プロセスを明らかにするための調査解析手法の開発を目指す。
研究を実施した岐阜県瑞浪地域には,堆積岩中ではNa-HCO3型,花崗岩の浅部ではNa-Cl型の地下水が分布し,深度の増加にしたがってCa-Cl型に近づくことが明らかとなっている。また,ボーリングコア試料から,花崗岩の割れ目には充填鉱物として炭酸塩鉱物の生成が確認されている。炭酸塩鉱物は反応性が高く,地下水中から容易に沈殿するため,沈殿時の水質環境や沈殿後の移動性を反映している可能性がある。本研究では瑞浪超深地層研究所の地下坑道(深度200, 300, 400 m)から掘削されたボーリング孔および地表から掘削したボーリング孔の深度650 mおよび1150 mから採取した地下水と,ボーリングコアから採取した炭酸塩鉱物中のYREE濃度の測定を行った。また,炭酸塩鉱物中の酸素・炭素同位体比の測定を行い,炭酸塩鉱物の生成環境についての検討を行った。
ボーリング孔から採取した地下水中の元素分析結果から,深度200~400 mではNa-Cl型,深度650 mおよび1150 mではCa-Cl型の地下水が分布していることが確認された。地下水中の全YREE濃度は深度の増加にしたがって増加し,地下水中のYREEパターンは深度200~400 mでは原子番号の大きいREE(HREE)に富み,深度650 mおよび1150 mでは原子番号の中間的なREE(MREE)に富む形状を示した。また,深度650 mおよび1150 mの地下水から負のY異常が確認された。熱力学的解析により,深度200~400 mの地下水中において,YREEは炭酸錯体が主要な溶存種であることが確認されたことから,HREEに富む地下水は炭酸錯体の寄与によって形成したと考えられる。MREEに富むYREEパターンは鉄酸化水酸化物等による収着とそれらの溶解が原因であると考えられており,鉄酸化水酸化物へのYREEの分配係数は負のY異常が報告されている[1, 2]。このことから深度650 mおよび1150 mの地下水では,地下水中で生成した鉄酸化水酸化物が一度YREEを収着し,現在の還元的な地下水中で溶解することで放出されてYREEパターンが形成したと考えられる。
ボーリングコアから採取した炭酸塩鉱物中の酸素・炭素同位体組成について,酸素同位体は深度の増加に関わらず,試料によるばらつきが見られたため,深度の変化による炭酸塩鉱物の生成温度の変化は確認されなかった。一方,炭素同位体比は深度の増加によって重くなる傾向を示したことから,過去にこの地域に涵養した淡水と海水の混合した地下水から沈殿したと考えられる。炭酸塩鉱物中のYREEを花崗岩中のYREEで規格化したところ,深度200~400 mでは花崗岩と同様の負のEu異常が確認された一方[3],地表からのボーリング孔の掘削長670~1294 mでは正のEu異常が確認された。このことから,掘削長670m~1294 mで生成した炭酸塩鉱物は花崗岩と比べてEuに富む水質条件で沈殿したと考えられる。
以上の結果から,深部花崗岩中における地下水と二次鉱物中のYREEの分配挙動は,地球表層環境における物質移動プロセスを明らかにするうえで有用な指標になりうると考えられる。
引用文献
[1] Johannesson and Zhou, 1999, Geochim. Cosmochim. Acta 63, 153-165.
[2] Bau, 1999, Geochim. Cosmochim. Acta 63, 67-77.
[3] Takahashi et al., 2002, Chem. Geol. 184, 311-335.
研究を実施した岐阜県瑞浪地域には,堆積岩中ではNa-HCO3型,花崗岩の浅部ではNa-Cl型の地下水が分布し,深度の増加にしたがってCa-Cl型に近づくことが明らかとなっている。また,ボーリングコア試料から,花崗岩の割れ目には充填鉱物として炭酸塩鉱物の生成が確認されている。炭酸塩鉱物は反応性が高く,地下水中から容易に沈殿するため,沈殿時の水質環境や沈殿後の移動性を反映している可能性がある。本研究では瑞浪超深地層研究所の地下坑道(深度200, 300, 400 m)から掘削されたボーリング孔および地表から掘削したボーリング孔の深度650 mおよび1150 mから採取した地下水と,ボーリングコアから採取した炭酸塩鉱物中のYREE濃度の測定を行った。また,炭酸塩鉱物中の酸素・炭素同位体比の測定を行い,炭酸塩鉱物の生成環境についての検討を行った。
ボーリング孔から採取した地下水中の元素分析結果から,深度200~400 mではNa-Cl型,深度650 mおよび1150 mではCa-Cl型の地下水が分布していることが確認された。地下水中の全YREE濃度は深度の増加にしたがって増加し,地下水中のYREEパターンは深度200~400 mでは原子番号の大きいREE(HREE)に富み,深度650 mおよび1150 mでは原子番号の中間的なREE(MREE)に富む形状を示した。また,深度650 mおよび1150 mの地下水から負のY異常が確認された。熱力学的解析により,深度200~400 mの地下水中において,YREEは炭酸錯体が主要な溶存種であることが確認されたことから,HREEに富む地下水は炭酸錯体の寄与によって形成したと考えられる。MREEに富むYREEパターンは鉄酸化水酸化物等による収着とそれらの溶解が原因であると考えられており,鉄酸化水酸化物へのYREEの分配係数は負のY異常が報告されている[1, 2]。このことから深度650 mおよび1150 mの地下水では,地下水中で生成した鉄酸化水酸化物が一度YREEを収着し,現在の還元的な地下水中で溶解することで放出されてYREEパターンが形成したと考えられる。
ボーリングコアから採取した炭酸塩鉱物中の酸素・炭素同位体組成について,酸素同位体は深度の増加に関わらず,試料によるばらつきが見られたため,深度の変化による炭酸塩鉱物の生成温度の変化は確認されなかった。一方,炭素同位体比は深度の増加によって重くなる傾向を示したことから,過去にこの地域に涵養した淡水と海水の混合した地下水から沈殿したと考えられる。炭酸塩鉱物中のYREEを花崗岩中のYREEで規格化したところ,深度200~400 mでは花崗岩と同様の負のEu異常が確認された一方[3],地表からのボーリング孔の掘削長670~1294 mでは正のEu異常が確認された。このことから,掘削長670m~1294 mで生成した炭酸塩鉱物は花崗岩と比べてEuに富む水質条件で沈殿したと考えられる。
以上の結果から,深部花崗岩中における地下水と二次鉱物中のYREEの分配挙動は,地球表層環境における物質移動プロセスを明らかにするうえで有用な指標になりうると考えられる。
引用文献
[1] Johannesson and Zhou, 1999, Geochim. Cosmochim. Acta 63, 153-165.
[2] Bau, 1999, Geochim. Cosmochim. Acta 63, 67-77.
[3] Takahashi et al., 2002, Chem. Geol. 184, 311-335.