日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] 火山・火成活動と長期予測

2015年5月26日(火) 09:00 〜 10:45 303 (3F)

コンビーナ:*及川 輝樹(独)産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(財団法人電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、石塚 吉浩(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、下司 信夫(産業技術総合研究所 地質情報研究部門)、座長:下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、田島 靖久(日本工営株式会社)

10:30 〜 10:33

[SVC47-P01] 広域テフラ対比に基づく日本列島の前期更新世~鮮新世火山噴火史

ポスター講演3分口頭発表枠

*田村 糸子1山崎 晴雄1 (1.首都大学東京大学院 都市環境科学域 地理)

キーワード:広域テフラ対比, 鮮新世, 前期更新世, 火山噴火史, 日本列島

はじめに:日本列島における巨大噴火の発生頻度や規模の推定は,長期的地質変動の予測において重要な課題のひとつである.後期更新世における巨大噴火史の復元は,火山近傍の火砕流堆積物と遠方まで分布する広域火山灰との対比・編年により検討されてきた(例えば,30kaの入戸火砕流堆積物とAT火山灰との対比:町田・新井,1974など).過去12.5万年間では,VEI 6クラスが8回,VEI 7クラスが9回発生し(町田・新井,2003),日本列島における巨大噴火は,およそ7000~8000年に1回の頻度であることが明らかにされている.しかしながら,さらに時代を遡ると侵食が進み,多くは火山体やカルデラなどの地形が消失し,噴出源の特定ができず,噴火の規模や時期の評価が困難である.

広域火山灰の同定・識別:テフロクロノロジーにおいて,1990年代から,従来の鉱物組成,岩相や層位データに加えて,火山ガラスの主成分元素(Si, Ti, Al, Fe, Mn, Mg, Ca, Na, K, P))の化学組成分析に基づくテフラの同定・対比が行われるようになった.その結果,より古い年代の大規模火砕流堆積物と遠隔地のテフラとの対比精度が向上し,恵比須峠-福田テフラ(1.75Ma:吉川ほか,1996)や大峰-Sk110テフラ(1.65Ma:長橋,1998)などの存在が明らかとなり,前期更新世以前の広域テフラ対比が進み,巨大噴火の情報が得られるようになってきた.また,吉川(1990)は火山ガラスの主成分組成が類似するテフラでもLa, Ba, Sr, Yなどの微量成分特性の違いから識別できることを示し,さらに水野(2001)は大規模火砕流堆積物の火山ガラス微量成分特性から,広域火山灰の噴出源を中部山岳,九州,東北地域とある程度限定できることを示した.筆者らは2000年頃から,各地の鮮新-更新統中の指標テフラの火山ガラスの微量成分分析を行い,その特性に基づいて中央日本の鮮新-更新統の指標火山灰の対比・編年を検討してきた.また火山体が残されていないテフラでも,火山ガラスの主成分微量成分化学組成の特性や各地でのテフラ粒子の粒度傾向などから,噴出源を検討した(田村・山崎,2004;田村ほか,2005;Tamura et al., 2008;Tamura and Yamazaki, 2010など).本発表では,多くの研究者によって報告されてきた広域テフラ情報に独自のデータを加え,今までに微量成分分析を行った5Ma~1Maの36枚の広域テフラについて,テフラの岩石学的特徴と推定される噴火規模,噴出源,噴出年代を報告する.なお,北海道や2Maより古い東北の鮮新-更新世大規模火砕流に関しては,研究が遅れており対比に有効な分析値が得られていないため,今回は扱っていない.

前期更新世~鮮新世の火山噴火史:36枚の広域テフラのうち, La/Y が0.5以下でBa/La が30以上という東北起源(水野,2001)の可能性が高いテフラは,下位のものより,In1-B25テフラ(3.1Ma:田村ほか,2014),TmgR4-HSCテフラ(2Ma:下釜・鈴木,2006),KryⅠ-HSAテフラ(1.9Ma:田村ほか2006),Kd44-Nkテフラ(1.9Ma:鈴木・中山,2007;田村ほか,2008),Kumado-Kd22Uテフラ(村田・鈴木,2011),Akai-Kd18テフラ(村田・鈴木,2011),Ashino-Kd8-CH13テフラ(1.3Ma:村田・鈴木,2011;田村ほか,2011),Ysm-CH3テフラ(1Ma:田村ほか,2011)の8枚である.堆積年代は2Ma~1Maに集中している.火山ガラス化学分析値(La/Y が1前後,Ba/La が20~30)と粒径傾向から九州起源と推定されるテフラは,下位よりHbt1-MT2テフラ(2.8-2.9Ma:富田・黒川,1999),Ass-Tmd2テフラ(2.6Ma:Tamura et al, 2008),Skt-Kd16テフラ(1.4Ma:水野,2007),Ss-Pnkテフラ(1.02Ma:町田・新井,2003)の4枚である.Trb1-Ya4テフラ(4.2Ma:田村・山崎,2004)やKsg-An77テフラ(4Ma:田村・山崎,2004)はテフラ粒子の粒度傾向から両白山地起源の可能性が高い.特異な火山ガラス化学組成を示し,噴出源不明なテフラは,Sk-Ya5テフラ(4.1Ma:田村ほか,2005),OK3-OM1テフラ(2.15Ma:田村・山崎,2010)である.上記以外の20枚が中部山岳起源と推定されるテフラで,多くが黒雲母を含み,K2Oが4%を超え,La/Y が1以上,Ba/Laが20-30という特徴を示す.中部山岳起源のテフラが出現し始めるのは,およそ3.6MaのHgs-An129テフラ(Satoguchi and Nagahashi, 2012)からである.また3Ma~1.5Maの間に16枚と集中している.
今後の課題:九州や東北,北海道などには,遠隔地のテフラとの対比が検討されていない前期更新世~鮮新世の大規模火砕流堆積物の存在が知られている.高精度な火山噴火史の構築に向けての今後の課題は,特に情報の少ない北海道や2Maより古い東北地域のテフラ編年を進めることである.