日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT31] 環境トレーサビリティー手法の新展開

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、陀安 一郎(京都大学生態学研究センター)

18:15 〜 19:30

[HTT31-P17] メソポタミア粘土板胎土の組成と原産地特定の試み

*安間 了1渡辺 千香子2申 基澈3昆 慶明4辻 彰洋5中野 孝教3横尾 頼子6 (1.筑波大学、2.大阪学院大学、3.総合地球環境学研究所、4.産業技術総合研究所、5.国立科学博物館、6.同志社大学)

キーワード:粘土板, 組成, 同位体

メソポタミア各地から出土する楔形文字粘土板には日付が記されている経済文書が含まれており、その胎土に含まれる粒子や微化石から当時の環境が高精度で復元できる可能性を秘めている。いっぽう、最近の中東の政治的混乱により多くの粘土板が出所も明らかでないままに現地の博物館に収蔵されている。そこで粘土板の原産地を特定するための試みとして、スレイマニヤ考古博物館に収蔵されている31点の粘土板から数十mgの試料(これらを粘土板試料とする)を採取し、微量元素の組成およびNd同位体比を測定した。また、原形をとどめない粘土板16点からは10g程度の試料(これらを胎土試料とする)を採取し、薄片観察を行ったうえ、粒径分布、主要・微量元素組成およびNd同位体比を測定した。
胎土試料の顕微鏡観察と粒度分析の結果、いわゆる粘土板は粘土主体の基質をもつもの(タイプ1)、シルト主体の基質をもつもの(タイプ2)、粘土質の基質に火山ガラスや微化石を含むもの(タイプ3)の三種類に区分される。それぞれシルトから砂サイズの珪質砕屑粒子を含んでおり、その主要鉱物は長石や石英で微量の白雲母などを含む。これらフェルシックな鉱物のほかに輝石を微量に含む試料もある。タイプ3には保存の良い底棲有孔虫や円石藻の殻も見られる。したがって、タイプ3の粘土板は海成粘土を材料とし、そこに花崗岩質の堆積物を補強材として混ぜた可能性がある。Na濃度は1%程度であるのに対して、Ca濃度は10%に達しており、Ca炭酸塩が母材堆積物中にセメント物質として存在していたか、粘土板の保存中に析出したことを示唆する。薄片では炭酸塩粒子が空隙を埋めているようである。
いっぽう胎土試料のREE組成はタイプにかかわらずほとんど一致する。粘土板試料は、胎土試料と同じく軽希土類に富み、負の弱いEu異常をもつ共通したパターンを示すが、濃度には2倍程度の違いがあってばらつきが大きい。Nd同位体比は試料に関わらず非常に狭い範囲に入り、eNdは-4.7±0.6であった。これまでに得られた結果は粘土板の母材が同じ地層であったことを示唆するようである。YとZr、AlとFeは良い相関を示し、母材の堆積物は異なる地球化学的な特徴を持つ岩石に起源をもつ粒子の混合物であることを示す。TiO2濃度(およそ0.6%)は珪長質岩としてはやや高く、クロムやニッケルを100ppm以上含んでおり苦鉄質岩的な特徴も見られる。これらのことは、粘土板の母材である堆積物の後背地に花崗岩質およびオフィオライト的な地質があった可能性を示唆する。ストロンチウムや鉛の安定同位体比を測定することで、粘土板の母材の特徴をより詳細に明らかにできると考えられる。