日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] 火山・火成活動と長期予測

2015年5月26日(火) 14:15 〜 16:00 303 (3F)

コンビーナ:*及川 輝樹(独)産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(財団法人電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、石塚 吉浩(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、下司 信夫(産業技術総合研究所 地質情報研究部門)、座長:長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、石毛 康介(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻地球惑星システム科学講座)

15:45 〜 16:00

[SVC47-18] インドネシア、リンジャニ火山の岩石学的研究:マグマ変化から見た西暦1257年カルデラ形成噴火およびその準備過程について

*中川 光弘1高橋 良輔1宮坂 瑞穂1栗谷 豪1Haryo Wibowo1古川 竜太2高田 亮2 (1.北海道大学地球惑星科学、2.産総研地質調査総合センター)

キーワード:カルデラ, カルデラ形成噴火, マグマプロセス, 珪長質マグマ, リンジャニ火山

カルデラ噴火のような大規模噴火では、その噴火準備過程を明らかにすることは、火山深部プロセスを理解するうえで重要なだけではなく、低頻度・大規模噴火災害に対する監視・観測体制を備えるためにも重要である。その際に国内のカルデラだけではなく、異なるテクトニクス場にある海外でのカルデラ噴火事例と比較することは重要な研究手法のひとつである。そのような観点から我々はインドネシアのリンジャニ火山のAD1257年のカルデラ噴火について検討している。このカルデラは大型成層火山が形成後、VEI6クラスの巨大噴火により形成されており、先行する大型成層火山体が存在しない後期更新世からの日本のカルデラ火山とは別のタイプである。
 リンジャニ火山はCentral Lombok Volcanic Complex(CVL)を覆って、10万年前頃から活動している。その活動は大きく、成層火山活動期、低活動期(先カルデラ期)、カルデラ形成期および後カルデラ期の4つに分けられる。成層火山形成期では0.6km3/kyの噴出率であったが、完新世になって低活動期になり0.15km3/kyと低下し、約5000年前にはPropok軽石を噴出し、Lembah溶岩を流出している。AD1257年のカルデラ形成期では、プリニー式噴火の後に火砕流が流出して、山頂部に6 X 7 kmのカルデラを形成した。総噴出量はDREで10km3以上と見積もられている。カルデラ形成後、カルデラ内で後カルデラ期の活動が継続している。CLVおよび成層火山活動期の岩石はSiO2=44.8~63.7%の組成幅を示すが、玄武岩~玄武岩質安山岩に富む。これらの岩石では玄武岩ではかんらん石、安山岩では輝石が主要なマフィック斑晶であり、デイサイトでわずかに角閃石を含むことがある。低活動期からは岩質が大きく変化し、角閃石デイサイトが主体となり、カルデラ期では角閃石の他にマフィック斑晶として輝石も含まれる。SiO2量は低活動期が63.8~66.7%で、カルデラ形成期が62.1~66.2%であり、両者を比較すると低活動期の方がSiO2に富んでいる。後カルデラ期はSiO2=55%でかんらん石と輝石をマフィック斑晶として含んでいる。全岩化学組成で見ると、成層火山活動期および後カルデラ期の玄武岩~安山岩、そして低活動期およびカルデラ形成期のデイサイトに2大別できる。両者はハーカー図上において、Al2O3、MgO, FeO, CaO, K2Oなどの主成分元素、そしてV、Rb、Y, Zr, Nb, Ba, Thなどの微量元素で、異なる組成変化経路を描くことで区別できる。また液相濃集元素比やSr同位体比などでも、成層火山活動期・後カルデラ期と低活動期・カルデラ形成期は異なっている。これらのことから、リンジャニ火山に産する玄武岩質マグマの単純な結晶分化では、デイサイト質マグマを生成することはできず、地殻の部分溶融やAFCプロセスが必要である。
 低活動期とカルデラ形成期を比較すると、両者は類似した角閃石デイサイト質マグマであるが、ハーカー図で見ると、全ての元素で両者はともに直線的に変化する2つの別のトレンドを描くことで明瞭に区別できる。液相濃集元素のうちK2O、RbやBaなどのLIL元素はSiO2に対して正の相関を示し、2つの活動期の噴出物はそれぞれ平行な異なる2つのトレンドを描く。同じSiO2で比べた場合、カルデラ形成期マグマの方がLIL元素に乏しい。一方、Nb、ZrおよびYなどのHFS元素では、カルデラ形成期の試料はSiO2と正の相関をするのに対して、低活動期のそれは負の相関を示す。そのため、珪長質側で両者は類似したNb・Zr濃度を示すが、安山岩に近い組成では低活動期噴出物のNb・Zr濃度は、カルデラ形成期のそれと比べて著しく高くなる。このHFS元素の高いデイサイトは、他のリンジャニ火山噴出物の作る組成分布と大きく異なり、リンジャニ火山では特異な組成を示すといえる。これらの低活動期とカルデラ形成期のデイサイトの化学組成の差を考えると、マグマは共通の初生マグマからの結晶分化や単純な混成作用によって生成されたマグマではない。この解明のためには同位体比のデータが不可欠であり、Sr, NdおよびPbの同位体について現在、分析中である。
 リンジャニ火山の更新世末からの噴火推移・様式やマグマの変化を考慮すると、低活動期がカルデラ噴火の準備過程とみなすことができるであろう。この時期には噴出率が低下し、カルデラ形成期と類似のデイサイト質マグマが活動していることも、準備過程にふさわしいであろう。しかしながら低活動期のデイサイトはカルデラ形成期のマグマとは別である。このことから、準備過程ではカルデラ形成期と同じマグマが徐々に生産・蓄積されていくのではなく、時間とともにマグマ組成が変化するプロセスによりデイサイトマグマが蓄積されていたか、あるいは低活動期とは別のプロセスで比較的短期間にマグマが生産・蓄積されたかのいずれかであると考えられる。