日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS02] Frontier studies on subduction zone megathrust earthquakes and tsunamis

2015年5月25日(月) 14:15 〜 16:00 国際会議室 (2F)

コンビーナ:*金川 久一(千葉大学大学院理学研究科)、Demian Saffer(Dept. of Geosciences, The Pennsylvania State University, USA)、Michael Strasser(Geological Institute, Seiss Federal Insitute of Technology ETH Zurich)、山田 泰広(京都大学工学研究科都市社会工学専攻)、小平 秀一(海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)、日野 亮太(東北大学災害科学国際研究所)、氏家 恒太郎(筑波大学生命環境系)、伊藤 喜宏(京都大学防災研究所)、座長:Michael Strasser(Geological Institute, )、Demian Saffer(Dept. of Geosciences, The Pennsylvania State University, USA)

15:15 〜 15:30

[SSS02-17] ピストンコアラー貫入時の摩擦発熱から地層の摩擦係数を推定する試み -NanTroSEIZE掘削のAPC-Tデータの例-

*木下 正高1林 為人1川村 喜一郎2 (1.海洋研究開発機構、2.山口大学)

キーワード:IODP, NanTroSEIZE, APC-T, Friction coefficient

海洋科学掘削では、浅部泥質堆積層の採取に用いる水圧ピストンコアラー(APC)の先端に温度計(APCT)を取り付け、地層温度が測定されている。IODP南海トラフ地震発生帯(NanTroSEIZE)掘削では、「ちきゅう」によりAPCTデータが取得された。APCTでは、APCが水圧により瞬間的に地層に「突き刺さる」時の温度上昇を含めた温度データが毎秒記録されている。その際に得られた全温度データをコンパイルし、貫入直後の最大温度を抽出したところ、温度上昇は10Kないしそれ以上に達するが、全体的に深度とともに増大していること、深度ゼロでの温度上昇(切片)がゼロでないように見えることが新たに見出された。
温度上昇の原因は、地層物質とパイプの相対運動による摩擦発熱である。摩擦発熱エネルギーQは、パイプと地層の間に働くせん断応力τと滑り量Dの積に等しい。Dはピストンコアラ―は水圧により押し出される長さ(9.5m)で、深度によらず一定である。一方せん断応力τは、クーロン則を適用すると、τ=τ0 + μ(Sv-Pp) で表される(τ0は粘着力、μは地層とパイプの間の動摩擦係数、Svはパイプを押す地層の圧力、Ppは間隙水圧)。すなわち、Qの値は、粘着力に起因する(深度に依存しない)部分と、深度とともに増加する部分に分けられることから、摩擦係数が一定であれば、観測された温度上昇を説明できそうである。
最大温度とQの関係は、有限要素法(COMSOL)による推定から、互いに比例することが示され、得られた比例係数を利用して、APCTによる測定値ごとに摩擦係数を推定した(Svとして静水圧を仮定し、有効応力を与えた)。また同じサイトで得られたコア試料について、船上で計測されたベーンせん断計測データも選び出し、同様にして摩擦係数を求めた。
その結果、ベーンせん断地から推定した粘着力・摩擦係数はそれぞれ20-80kPa、0.05~0.2に、温度上昇から推定した粘着力は10-20kPa、摩擦係数は0.01-0.06という低い値になった。また、どちらの推定でも、サイトC0012(沈み込む前の四国海盆海丘上)において、付加体斜面における他よりも摩擦係数が有意に大きいことが分かった。半遠洋性地層が卓越することが原因の一つと推定される。
摩擦発熱から推定した摩擦係数が、ベーンせん断からの推定値の数分の一になった理由として、パイプと泥の間に水が浸入したことにより、その間の摩擦が泥の内部摩擦よりも低いこと、あるいは温度上昇を発熱エネルギーに変換する比例係数が実際のAPCTでの値とは異なること、などが考えられる。いずれにせよ、静水圧を仮定して計算した摩擦係数が、0.06とか0.2とか、表層堆積物の内部摩擦と比べて有意に小さいように見えるのは、測定・推定された値が現場条件と異なるための誤差であろうとも推定される。今後さらに精度を上げる工夫を行いたい。