日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候・生態系変動

2015年5月28日(木) 09:00 〜 10:45 301A (3F)

コンビーナ:*池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、野木 義史(国立極地研究所)、大島 慶一郎(北海道大学低温科学研究所)、座長:菅沼 悠介(国立極地研究所)

09:45 〜 10:00

[MIS21-14] 南大洋の成層化が氷期の大気中二酸化炭素変動に及ぼす影響の評価

*小林 英貴1岡 顕1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:炭素循環, 氷期-間氷期, 南大洋, 子午面循環

氷期における大気中の二酸化炭素濃度は、間氷期と比べて約100 ppmv 低下していたことが知られている。しかしながら、これまでの海洋大循環モデル(Ocean General Circulation Model: OGCM) を用いた数値実験では、氷期と間氷期との間の大気中二酸化炭素濃度の違いを再現することができていない。古気候プロキシデータから、最終氷期の南大西洋深層では、37.0 psu を超える高塩分や、3,000 年を超える水塊の滞留時間が示された。これらの証拠は、氷期の南大洋で塩分による成層が強く、表層から隔離された深層が炭素を多量に保持していた可能性を示唆する。OGCM を用いた先行研究では、氷期の深層の塩分や水塊年齢の再現が不十分であり、これが大気中二酸化炭素濃度の再現に影響していたことが考えられる。
そこで本研究では、南大洋における成層の強化が大気中二酸化炭素濃度の変動に与える影響を、OGCM を用いて定量的に評価した。氷期における南大西洋深層での高い塩分データを説明するためには、東南極における深層水形成が重要であることがわかった。その一方で、南大洋深層の高塩分化は、深層大循環の南極底層水起源の北向き流量を増加させるため、海洋中の炭素の滞留時間が小さくなることで、先行研究とは異なり、大気中二酸化炭素濃度を増加させる寄与があることが示された。また、成層の強化に伴う鉛直混合の弱化により、溶存無機炭素の濃度の鉛直勾配が大きくなり、大気中二酸化炭素濃度は減少した。しかしながら、南大洋の過程のみでは、氷期の大気中二酸化炭素濃度の低下のうち、半分程度しか説明できなかった。本研究の結果は、氷期-間氷期にわたる海洋炭素循環の変動に対する南大洋の過程の寄与を、先行研究では過大評価していた可能性を示唆する。南大洋のみならず、太平洋の成層が強化されることが、氷期の大気中二酸化炭素濃度の変動に重要である可能性が示された。