日本地球惑星科学連合2015年大会

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インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM10] Study of coupling processes in solar-terrestrial system

2015年5月28日(木) 11:00 〜 12:45 A01 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*山本 衛(京都大学生存圏研究所)、野澤 悟徳(名古屋大学太陽地球環境研究所)、小川 泰信(国立極地研究所)、橋口 浩之(京都大学生存圏研究所)、吉川 顕正(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、座長:吉川 顕正(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

11:15 〜 11:30

[PEM10-13] 流星レーダーによる運動量フラックス測定およびEMUによるビームペア法の期待

*新堀 淳樹1津田 敏隆1 (1.松本直樹)

キーワード:中間圏・下部熱圏, 運動量フラックス, 流星レーダー, 赤道MUレーダー

赤道域では、対流圏で励起された大気波動が上方伝搬する過程で、成層圏下部における準2 年周期振動
(Stratospheric Quasi-Biennial Oscillation:SQBO、平均周期は26-28 ヶ月)、成層圏上部の半年周期振動
(Semi-Annual Oscillation:SAO)およびMLT 領域では成層圏と逆相の半年周期振動(MSAO)を駆動して
いるとされている。
本研究では、インドネシアで長期間運用している流星レーダー等のデータを用いて、赤道域の中間圏・下部
熱圏(Mesosphere-Lower Thermosphere: MLT)の高度70-110 km における風速の周期振動ならびにそれら
不規則変動を研究する。特にMSAO の西向き風が2-4 月(北半球の春分季)に2 年乃至3 年の不定期間隔で
非常に大きくなる特異現象(Mesospheric Quasi-Biennial Enhancement:MQBO)に着目する。
M-QBE は秋分季(9-10 月)に発生せず、2-4 月頃に限定的に発生する。よって1 年周期を律するプロセス
が重畳することで、M-QBE が2-4 月のみに発生すると考えられるが、そのメカニズムは未解明である。
本研究では2 つのメカニズムを検討した。
(1)
南北風との相関
赤道MLT 域では南北風が夏半球から冬半球に風が吹くことから、1年周期(AO: Annual Oscillation)を
示す。南北風と東西風とが結合する何らかのプロセスがあるならば、東西風に1 年の周期性を生み出しうる。
実際の観測により東西風と南北風の長期変動を調べると、南北風AO と東西風SAO の長期変動の間に同様の
変化傾向が見られた。これにより、南北風と東西風とが結合する何らかのプロセスが存在する可能性が示唆さ
れた。
(2)
大気重力波によるM-QBE の駆動
M-QBE の西向き風増大とMLT 高度での大気重力波強度の増加が明らかに同期していたことが先行研究で
報告されている(N.V. Rao et al., 2012)。したがって、大気重力波がM-QBE を駆動している可能性がある。
しかし、大気重力波とM-QBE の関係を明らかにするには、重力波の強度(風速分散)だけでは不十分で、
波動にともなう運動量フラックスを測定する必要がある。
運動量フラックスは水平風と鉛直風の摂動分の分散(u’w’)だが、2 次の微小量であることから観測は容易
ではない。大型大気レーダーについて、beam pair 法を用いてu’w’ を測定する画期的な方法が開発された
(Vincent and Reid, 1983)。しかし、MU レーダー級の高性能大型レーダーは世界に数ヶ所しかないため、大気
波動の効果の全球分布を知るには新たな計測手法の開発が求められた。
MU レーダーより小型簡便な流星レーダーを用いてbeam pair 法を模擬し、u’w’ を推定する手法が提案され
た(Hocking, 2005)。しかし、その測定精度に疑義が提示されている。
我々はインドネシアで同一仕様の2 台の流星レーダーを同じ緯度(赤道上)で水平に約4,000 km 離れた観
測点で運用している。これら2 台の流星レーダーによるu’w’ の測定結果を統計的に比較し、観測手法の妥当
性を検討した。
まず、約4,000 km 離れた東西端のパプア(Biak)と西スマトラ(Koto Tabang)で2011 年以降に断続的に行
われた同時観測のデータを用い、Hocking 法でu’w’ を解析し結果を比較する。運動量フラックスのよく一致
している期間は、Koto Tabang および Biak の両者においてデータ利用率が高い期間に含まれている.このこと
から,Koto Tabang およびBiak における観測によって,ノイズではない,運動量フラックスの類似した変動を観測
することができたといえる.
また、Koto Tabang では10 年以上観測が継続されていることから、季節変動および年々変動、さらに高度層
による差違を検討したところ、2 月と8 月に運動量フラックスが大きな正の値を取り,6 月と11 月に小さな値あ
るいは負の値をとる傾向が見受けられた。
M-SQO が大気波動の影響を受けているならば、u’w’ にも半年周期が現れると期待されるが、本研究により、
その予想と矛盾しない観測結果を得た。今後、大気重力波がMQBE を駆動している具体的なメカニズムを解明
していくことが重要である。