日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS07] Natural hazards impacts on the society, economics and technological systems

2015年5月25日(月) 09:00 〜 10:45 203 (2F)

コンビーナ:*ELENA PETROVA(Lomonosov Moscow State University, Faculty of Geography)、Hajime Matsushima(Research Faculty of Agriculture, Hokkaido University)、座長:松島 肇(北海道大学大学院農学研究院)

10:30 〜 10:45

[HDS07-04] 東日本大震災により被災した地域における市民活動による自然復元への取り組み

*松島 肇1鈴木 玲2孫田 敏3木村 浩二4藤 彰矩5 (1.北海道大学大学院農学研究院、2.北の里浜 花のかけはしネットワーク、3.(有)アークス、4.雪印種苗(株)、5.石狩浜海浜植物保護センター)

キーワード:東日本大震災, 海浜植物, エコトーン, レジリエンス, グリーンインフラ, 種子

国土が狭小で平野部が少ない日本では、古くから沿岸域は生活・流通・産業の場として重要であったが、特に第二次世界大戦後の復興期に国土開発が進み、沿岸部では塩性湿地や海岸砂丘が埋め立て・開発・植林により、農地や宅地、工業用地に転換されてきた。こうして、日本の沿岸部、特に砂浜海岸においては、塩性湿地や海岸砂丘が消失し、現在これらの自然環境が残されているのは人口密度の非常に低い地域か北海道のような比較的開発の歴史の浅い地域に限定される。しかし、沿岸域の土地利用を最大限活用するような開発を進めた結果、陸域の生活域と海域がコンクリートの壁を隔てて隣接するようになり、結果として沿岸部では海岸侵食や高潮災害が顕著になった。これに対し、土木工学の分野においても、従来の直立式護岸から砂丘システムを模倣した緩傾斜式護岸への転換が図られるようになり、次第に緩衝帯としての砂浜や海岸砂丘の重要性を再認識するようになっていた。そのような中、2011年3月11日に東日本の沿岸部で大地震が発生した。
東日本太平洋側を襲ったこの大地震は大きな津波災害を引き起こし、沿岸集落を護岸ごと破壊した。人間活動により開かれた都市が津波により消失したが、その跡地にかつての砂浜海岸や塩性湿地といった、人が手を加える前の本来の生態系が出現した。インタビューの結果、住む場所を失い、先の見えない仮設住宅での生活において、原風景ともいえる故郷の自然が力強く再生している姿に、多くの住民が力づけられたとのことであった。その結果、各地で植樹・植栽活動が行われ、市民による自然資源の調査活動や、仮設住宅における海浜植物を主体とした郷土種による花壇作りが行われてきた。また、生態学者やランドスケープの専門家は、緩衝帯としての海浜環境のレジリエンスの高さに改めて気づき、グリーン・インフラストラクチャーとしてこの自然環境の多様性を保全しつつ、減災にも活用しようという生態系を基盤とした災害リスクの低減(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction; Eco-DRR)を復興計画の骨格に取り込む提言が様々な学協会から報告された。しかし、沿岸域における複雑な土地管理制度が障壁となり、復興計画が固まらぬうちに現状復旧を目指す災害復旧事業が急速に進められた。これにより、海浜部ではより高く丈夫な防潮堤の整備が行われ、海岸林の跡地には大規模な盛土によるより安全な地盤に根ざした保安林の再生が行われた。その結果、震災により復元した塩性湿地や海岸砂丘は再び失われることとなり、復興計画の重要な要素であったこれらグリーンインフラとしてのエコトーンの喪失に対して、各方面から異論が相次いだ。復旧事業の是非については市民間でも意見が分かれているが、着実に進められる事業に対して、再び失われる海浜植物群落を救出し、将来の復元に向けて遺伝資源を保全しようとする取り組みが市民団体により行われた。
2014年に北海道の市民が立ち上げた「北の里浜 花のかけはしネットワーク」と呼ばれるこの団体は、復旧事業により失われる海浜植物の種子を採取し、育苗のノウハウと施設を有する北海道の民間種苗会社および石狩市の育苗施設において、産官学民の協働により育苗し、育てた苗を再び被災地の海浜もしくは近隣の施設に移植することを目指している。活動は現地で採取した海浜植物の種子を5月に北海道にて、市民ボランティアや中学生、研究者ら延べ112名の協力を得て播種し、ポット苗を育苗、その後、9月に仙台市の防潮堤前面の砂浜と海岸林の盛土法面に55名の市民ボランティアと研究者で苗の移植と播種を行った。移植後は定着状況をモニタリングしつつ、次年度の播種・育苗・植栽計画を検討中である。
課題も多い。第一に活動資金の確保である。昨年はクラウドファンディングにより資金集めを行い、渡航費用に充てた。資材については民間種苗会社からの提供に負うところが大きい。継続的な活動に向けて、安定財源の確保が望まれる。第二に、移送による病気や遺伝子汚染の懸念である。本来、移動させないことが原則であるが、被災地における人材や施設の不足から北海道にて育苗を行うことに対して、否定的な意見もあり、育苗中の開花抑制や移植時に根回りの培土除去等、十分配慮しているがさらなる安全対策の確立が求められる。第三にカウンターパートの不足である。持続的な活動とするためにも、多様な年代との多層的交流が望ましいが、被災地ではまだ十分な交流が図られているとは言い難い。この活動は途についたばかりであり、今後の展開に期待したい。