日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG38] 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態

2015年5月26日(火) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*北 和之(茨城大学理学部)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、中島 映至(東京大学大気海洋研究所)、五十嵐 康人(気象研究所 環境・応用気象研究部)、山田 正俊(弘前大学被ばく医療総合研究所)、竹中 千里(名古屋大学大学院生命農学研究科)、山本 政儀(金沢大学環低レベル放射能実験施設)、篠原 厚(大阪大学理学系研究科)

18:15 〜 19:30

[MAG38-P08] 福島県内の堆積物中から分離された原発事故由来の強放射性粒子の放射光X線分析

*小野 貴大1飯澤 勇信1阿部 善也1中井 泉1寺田 靖子2佐藤 志彦3二宮 和彦4足立 光司5五十嵐 康人5 (1.東京理科大学理学部、2.高輝度光科学研究センター、3.筑波大学、4.大阪大学、5.気象研究所)

キーワード:福島第一原発事故, 放射性物質, 放射光X線分析, 大気粉塵

2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原発事故により、大量の放射性物質が大気環境中へ放出され、各地に飛散した。さらに事故から4年経過した今日においても、事故由来の放射性物質は環境中で検出され続け、今後も長期的な影響力が懸念される。その一方で、確認された放射性物質そのものの詳細な物理的・化学的な性状について、知見が不足している。イメージングプレート(IP)を用いたオートラジオグラフィーにより、事故初期段階では大気粉塵、土壌および植物に付着した事故由来の放射性物質の存在が確認されている1,2)。特に大気粉塵について、我々は先行研究1,3)でつくば市の気象研究所で事故直後に採取した大気粉塵から放射性Csを含んだ粒子(通称Csボール)を発見し、大型放射光施設SPring-8を用いた放射光X線分析を行い、原子炉の構成材料と核分裂生成物(FP: Fission Product)などを含む非水溶性のガラス状物質であることを解明した。しかし、Csボールのような非水溶性の放射性粒子はつくば市以外では確認されておらず、土壌や植物で確認された粒子状の放射性物質について実際に分析された例がない。そこで本研究では、つくば市以外の環境中に同様の放射性粒子が存在することを実証するために、福島県内の堆積物を採取し、放射性粒子の探索および放射光X線分析を用いた化学的性状の解明を行った。
試料には、福島県双葉郡浪江町にある学校の屋外プールから採取した堆積物を用いた。過酸化水素を用いて有機物を除去したのち、IPを用いたオートラジオグラフィーにより放射能を有している粒子の場所を特定し、マイクロマニュピレータを用いて分離した。分離後、粒子の粒径・形状を確認するために走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)による観察・分析を行い、また放射性Csの有無を確認するためにGe半導体検出器を用いたガンマ線スペクトル測定を行った。これらの粒子をカプトンテープ上に貼り付け、アクリル板に固定し、放射光実験用の測定試料とした。放射光実験はSPring-8 BL37XUにて行い、K-Bミラーを用いて縦横約1 μmに集光したX線を励起光とした。蛍光X線分析(SR-μ-XRF)ではスペクトル測定の他に、XYステージを用いて試料を縦横に走査し、イメージングを行った。またSR-μ-XRFで検出されたFe,Zn,Mo,SnのK吸収端とUのL3吸収端に対し、蛍光法によるX線吸収端近傍構造解析(SR-μ-XANES)を行い、これらの元素の化学状態を調べた。さらに試料後方にX線フラットパネルセンサーを設置し、X線回折分析(SR-μ-XRD)により粒子の結晶構造を調べた。
採取された堆積物から、計6粒子の放射性粒子を分離することに成功した。SEM-EDSによる観察では、ほとんどが粒径約2 μmの球状粒子であった。また、ガンマ線スペクトル測定により6粒子すべてで放射性Csを含むことを確認した。2011年3月当時に減衰補正した134Cs/137Csの放射能比が約1であったことから、これらの粒子が福島第一原発由来1)であることが明らかになった。SR-μ-XRF分析により、分析した6粒子すべてから、FPと思われる様々な重元素(Rb,Mo,Sn,Cs,Baなど)と、原子炉の構成材料由来と思われる元素(Si,Fe,Znなど)が検出された。また粒子6粒子のうち1粒子からは、核燃料と思われるUが検出された。SR-μ-XRFイメージングの結果から、これらの元素は粒子中に均一に分布していることが分かった。SR-μ-XANESでは、いずれの粒子においても、主成分であるFe,ZnおよびFP由来の微量元素であるMo,Sn共に、高酸化数のガラス状態で存在していることが明らかになった。この結果は、XRDにより6粒子すべてで回折ピークが検出されなかったことからも支持された。以上の化学的性状は、先行研究1)で発見されたつくば市のCsボールときわめてよく一致していたことから、非水溶性の放射性粒子が、限定された地域・時間帯だけでなく、広範囲に飛散したことを化学的に実証した。同時に、本研究の試料は事故後数年経過した水環境中に存在していたことから、長期的な影響力を持つことが示唆された。今後粒子に含有している元素について定量分析を行い、地域による特性化を行う計画である。
1) K.Adachi et al.: Scientific Reports 3, 2554 (2013)
2) N. Niimura et al.: Journal of Environmental Radioactivity139, 234?239 (2015).
3) Y. Abe et al.: Analytical Chemistry 87, 8521-8525 (2014).