日本地球惑星科学連合2015年大会

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[U-07] 連合は環境・災害にどう向き合っていくのか?

2015年5月28日(木) 09:00 〜 10:45 103 (1F)

コンビーナ:*田中 賢治(京都大学防災研究所)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)、座長:田中 賢治(京都大学防災研究所)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)

09:00 〜 09:15

[U07-01] 津波堆積物研究の現状と日本堆積学会の取り組み

*後藤 和久1小松原 純子2菅原 大助1高清水 康博3高野 修4藤野 滋弘5 (1.東北大学、2.産業技術総合研究所、3.新潟大学、4.石油資源開発株式会社技術研究所、5.筑波大学)

キーワード:津波, 津波堆積物, 調査, 日本堆積学会

津波堆積物は,先史時代にまで遡り過去の津波履歴や規模を推定するのに極めて有効である.実際に,仙台周辺で869年貞観地震津波やそれ以前の津波の研究が1980年代後半から進められ,過去に巨大津波が繰り返していた可能性が2011年東北地方太平洋沖地震津波の発生以前から指摘されていた(例えば,Minoura and Nakaya, 1991).
津波堆積物研究の主たる目的は,過去の津波の発生時期の特定,および津波の規模や浸水範囲を明らかにし,その情報をもとに将来の発生予測を行うことにある.つまり,災害の発生以前に古津波堆積物調査を行い,適切なリスク評価を行うことが重要である.しかしながら,津波堆積物の認定は容易ではなく,複数の調査・分析手法を組み合わせて総合的に判断を行う必要がある.また,津波堆積物から引き出すことのできる津波規模に関する情報を知るためには,入射波条件が明らかな津波イベントを対象として,事例研究を増やす必要がある.こうしたことから,津波堆積物の認定基準の確立と,古津波規模復元のための活用法を検討するため,津波発生直後の現地調査が1960年チリ津波以降,世界各地で行われてきた.
例えば,2011年東北地方太平洋沖津波後の現地調査では,砂の内陸方向への到達距離は必ずしも浸水距離と一致せず,地形条件によっては到達距離が大幅に浸水距離を下回る場合があることが明らかにされている(例えば,Abe et al., 2012).2011年以前に行われた869年貞観地震津波の研究では,砂の到達距離を最小限の遡上限界とみなして,地震マグニチュードは8.4以上(例えば,行谷ほか,2010)と推定されていたが,2011年津波の知見を踏まえた再検討の結果では,貞観地震のマグニチュードは8.6以上であったと推定されている(Namegaya and Satake, 2014).このように,津波直後の調査により得られる知見を活用することで,津波堆積物を用いたリスク評価の精度を高めることができ,近い将来の襲来が予想される各地の巨大津波の発生時期や規模の推定をより適切に行うことができるようになると考えられる.
2011年津波以降,津波堆積物研究の重要性は国の指針にも盛り込まれ,津波防災対策を検討する上で重要な役割を果たすようになった.このことを受け,日本堆積学会では津波堆積物の特徴や認定基準について理解を深める機会を提供するため,ワークショップや巡検を他の学会との共催も含めて実施してきた.今後も,特に一般や自治体担当者の方々にも理解して頂けるよう,津波堆積物の利活用法についての情報発信を各学協会との連携のもと続けていく予定である.