日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS21] 惑星科学

2015年5月25日(月) 09:00 〜 10:45 A02 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)

09:30 〜 09:45

[PPS21-29] タイタンおよび初期地球大気中における有機物エアロゾルの生成過程と溶媒への溶解度

*田畑 陽久1関根 康人1菅 寿美2小川 奈々子2高野 淑識2大河内 直彦2 (1.東京大学 大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.海洋研究開発機構 生物地球化学研究分野)

キーワード:タイタン, 初期地球, 還元的大気, 有機物エアロゾル, 化学進化

地質記録の少ない初期地球における生命の起源を明らかにする上で、太陽系天体における初期地球の類似環境を通じ、当時の化学進化過程を理解することは重要である。土星の衛星タイタンは、N2とCH4を主成分とする弱還元的な大気を持ち、大気化学反応により有機物エアロゾルが活発に生成している。タイタン大気で起きている化学反応は、N2、CO、CO2、CH4からなる、同様の弱還元的大気が存在したと考えられる初期地球大気における化学反応と、そこでの化学進化を理解する鍵となりうる。過去の実験的研究では、タイタン大気を模したN2とCH4の混合ガスに、土星磁気圏からの荷電粒子を模した低温プラズマを照射する方法で、模擬有機物エアロゾル (ソリン) を生成する方法が行われてきた。さらに近年では、初期地球大気を模擬したN2-CH4-CO2-CO混合ガスから生成する、初期地球ソリンに関する実験的研究も行われつつある。しかしながら、これら多様な大気組成から生成するソリンの、生成初期過程に着目した研究は少ない。さらに、初期地球やタイタンの大気中で生成したエアロゾルは、地表の液体中で溶解などのさらなる化学反応を経験すると考えられる。しかし、初期地球ソリンに対して、溶媒抽出を行いその溶解度や溶存成分を調べた研究はまだない。
そこで我々は、N2-CH4及びN2-CH4-CO、N2-CH4-CO2の3種類の混合ガスを用いたソリン生成実験を行い、タイタンソリン及び初期地球ソリンの生成過程を明らかにすることを目的とし研究を行った。生成中のソリンに対しては、気相成分の質量分析およびプラズマの発光分光分析の2種類のその場分析を行った。生成したソリンに対しても、赤外分光分析及びエリプソメトリによって化学構造と生成率を調べた。さらに、様々な有機溶媒を用いて生成したソリンの溶媒抽出を試みた。
その結果、ソリンの成長率を出発ガス組成で比較すると、N2-CH4混合ガスを出発ガスとするタイタンソリンが最も効率よく生成が起き、次いでCOを含むガス組成での初期地球ソリン、CO2を含むガス組成での初期地球ソリンの順に生成率が低下していくことがわかった。また、その場分析の結果、タイタンソリン生成過程の第1ステップはCNラジカルの生成であり、CNラジカルからソリン前駆分子となるHCNやCH3CNなどのシアン化合物の生成が起きることが示唆された。これらシアン化合物や芳香族炭化水素の重合によって、最終的にC=N結合や多環芳香族を含むタイタンソリンが生成すると考えられる。初期地球ソリンの生成過程の第1ステップも同様にCNラジカルの生成であるが、CO2の解離によるCOの生成も重要な初期反応であり、COもソリンの前駆分子となって、C=O結合やC=N結合を含む初期地球ソリンの生成に寄与したと考えられる。
また、生成した初期地球ソリンに対する有機溶媒への溶解実験の結果、初期地球ソリンは、主に極性を有する有機化合物で構成されているが、部分的に極性の低い化合物も存在することが示され、親水基・疎水基の両方を有する化学構造を持つことが示唆される。また、比較的極性の低い有機溶媒であるジクロロメタンに溶解したソリンに対し、紫外可視分光分析を行ったところ、溶解した成分は多環芳香族炭化水素や複素環式化合物に特徴的な吸収を示した。そのような吸収を示す化合物の候補としては、初期生命にとって重要なポルフィリン環も含まれる。これらの結果からは、初期地球大気中で生成した有機物エアロゾルは、窒素を含む複素環式化合物や、親水・疎水基を持つ高分子炭化水素を原始海洋に供給するという重要な役割を果たした可能性が示唆される。