18:15 〜 19:30
[SSS30-P14] 数値シミュレーションから推定される2011年東北地方太平洋沖地震後の宮城県沖地震の発生間隔(その2)
東北地方の日本海溝沿いの地域では、太平洋プレートの沈み込みに伴い、M 7前後の地震が過去に多く発生している。2011年3月11日に発生したM9.0の地震(東北地方太平洋沖地震:本震)では、過去のM7前後の地震の震源域も含め、広範囲に破壊が及んだ。宮城県沖では、30~40年の再来間隔でM7.1~7.4の地震が繰り返し発生したことが知られている(1936年・1978年・2005年8月など) [地震調査研究推進本部, 2011]。2005年の地震から5.5年しか経過していなかったが、本震時のすべり量は、過去に単独で宮城県沖地震が発生した時よりも大きな値が見積もられている。さらに、余効すべりは、単独の宮城県沖地震と同程度かそれ以上のすべり量が、本震後現在までに推定されている。福島県沖では、本震時の挙動は宮城県沖と共通の特徴を示しているが、宮城県沖とは過去のすべり履歴は異なる。1938年にM7.4前後の地震が3回発生して以来、M>7の地震は発生していないが、M<7の地震は時々発生している(最近では2008年7月M6.9、2010年3月M6.7)。茨城県沖は、本震時の破壊域にはあまり含まれていないが、本震の約30分後にM7.6の最大余震が発生した。2008年5月に発生したM7.0の地震のように、20~30年の再来間隔でM7前後の地震が繰り返し発生している茨城県沖では、この余震は、過去にこの地域で知られている地震の中で最大である。
過去の宮城県沖地震震源域内のすべり量の収支だけに着目すると、少なくともこれまでと同様の再来間隔が経過するまでは、次の同規模の地震は発生しないと考えられる。しかし、本震時には、過去の宮城県沖地震震源域を含めた広い領域で大きくすべっているため、今後、宮城県沖での地震発生準備過程として、どのように応力の蓄積・解放が進むかは単純な問題ではない。この問題は、composite law [Kato & Tullis, 2001]を用いた地震発生サイクル数値シミュレーションの先行研究によってすでに検討されてきた [Kato & Yoshida, 2011; Ohtani et al., 2014]が、どちらの結果も、本震時の宮城県沖地震に相当する深部パッチでのすべりが、観測から推定されている値に比べて大きい。中田他 [2014, 地震学会]では、本震時の宮城県沖のすべり量が観測と同程度になるシナリオで、本震後の宮城県沖地震の再来間隔を検討した。数値計算ではOhtani et al. [2014]と同様の手法とプレート形状を用いたが、強度の時間発展則にはaging lawを用いた。また、地震波の放射によるエネルギー減衰を準動的に近似するダンピング係数は0.3とした。さらに、本震のすべり域に広範囲にわたって、周囲よりもやや強めの摩擦不均質(B-Aが大、Lが小)を与えた。福島県沖以南はモデル化しなかったが、宮城県沖地震・前震・本震発生に関する特徴をある程度定量的に再現することができた。その結果、Kato & Yoshida [2011]と同様、本震以前の再来間隔よりも短い間隔でこれまでと同規模の宮城県沖地震が発生していた [中田他, 2014]。しかしこのモデルでは、本震すべり域の南側(福島県沖~茨城県沖)で、観測とは異なる大きな余効すべり(10 m以上)が発生していた。
そこで本研究では、福島県沖と茨城県沖にも、宮城県沖と類似した摩擦特性を持つパッチを1つずつ仮定してモデルを修正し、本震後の宮城県沖地震について再検討した。その結果、南側での大きな余効すべりがなくなり、観測されたような余効すべり分布が得られるようになった。さらに、福島県沖での本震時の挙動や茨城県沖での余震発生なども、観測と定量的に比較できるモデルを得つつある。現時点での結果では、本震以前の再来間隔よりも短い間隔で、これまでと同規模の宮城県沖地震が発生している。これは、中田他 [2014]と同様であり、本研究で新たに想定した福島県沖と茨城県沖のパッチは、宮城県沖における本震時や本震後の挙動には顕著な影響を及ぼさないことを示唆するものである。
東北地方日本海溝沿いにおける宮城県沖での地震活動については、今後も様々なモデルで検討を続けるとともに、すでに固着している領域があるか、すべり欠損がどの程度蓄積しているかなどを観測からおさえることも必要である。また、防災・減災の観点から、宮城県沖地震だけでなく、余効すべりが生じている領域でのM7クラスの地震の発生可能性について想定に入れておく必要もあると考える。
謝辞:本研究は文科省の「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」の補助を受けて行われました。数値計算には海洋研究開発機構の地球シミュレータを使用しました。
過去の宮城県沖地震震源域内のすべり量の収支だけに着目すると、少なくともこれまでと同様の再来間隔が経過するまでは、次の同規模の地震は発生しないと考えられる。しかし、本震時には、過去の宮城県沖地震震源域を含めた広い領域で大きくすべっているため、今後、宮城県沖での地震発生準備過程として、どのように応力の蓄積・解放が進むかは単純な問題ではない。この問題は、composite law [Kato & Tullis, 2001]を用いた地震発生サイクル数値シミュレーションの先行研究によってすでに検討されてきた [Kato & Yoshida, 2011; Ohtani et al., 2014]が、どちらの結果も、本震時の宮城県沖地震に相当する深部パッチでのすべりが、観測から推定されている値に比べて大きい。中田他 [2014, 地震学会]では、本震時の宮城県沖のすべり量が観測と同程度になるシナリオで、本震後の宮城県沖地震の再来間隔を検討した。数値計算ではOhtani et al. [2014]と同様の手法とプレート形状を用いたが、強度の時間発展則にはaging lawを用いた。また、地震波の放射によるエネルギー減衰を準動的に近似するダンピング係数は0.3とした。さらに、本震のすべり域に広範囲にわたって、周囲よりもやや強めの摩擦不均質(B-Aが大、Lが小)を与えた。福島県沖以南はモデル化しなかったが、宮城県沖地震・前震・本震発生に関する特徴をある程度定量的に再現することができた。その結果、Kato & Yoshida [2011]と同様、本震以前の再来間隔よりも短い間隔でこれまでと同規模の宮城県沖地震が発生していた [中田他, 2014]。しかしこのモデルでは、本震すべり域の南側(福島県沖~茨城県沖)で、観測とは異なる大きな余効すべり(10 m以上)が発生していた。
そこで本研究では、福島県沖と茨城県沖にも、宮城県沖と類似した摩擦特性を持つパッチを1つずつ仮定してモデルを修正し、本震後の宮城県沖地震について再検討した。その結果、南側での大きな余効すべりがなくなり、観測されたような余効すべり分布が得られるようになった。さらに、福島県沖での本震時の挙動や茨城県沖での余震発生なども、観測と定量的に比較できるモデルを得つつある。現時点での結果では、本震以前の再来間隔よりも短い間隔で、これまでと同規模の宮城県沖地震が発生している。これは、中田他 [2014]と同様であり、本研究で新たに想定した福島県沖と茨城県沖のパッチは、宮城県沖における本震時や本震後の挙動には顕著な影響を及ぼさないことを示唆するものである。
東北地方日本海溝沿いにおける宮城県沖での地震活動については、今後も様々なモデルで検討を続けるとともに、すでに固着している領域があるか、すべり欠損がどの程度蓄積しているかなどを観測からおさえることも必要である。また、防災・減災の観点から、宮城県沖地震だけでなく、余効すべりが生じている領域でのM7クラスの地震の発生可能性について想定に入れておく必要もあると考える。
謝辞:本研究は文科省の「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」の補助を受けて行われました。数値計算には海洋研究開発機構の地球シミュレータを使用しました。