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[MTT40-08] 黒鉱鉱床における金属濃度の空間モデリングと鉱液パス推定への応用
キーワード:黒鉱, 地球統計学, クリギング, 地質モデル, 移流拡散方程式, 松峰鉱床
持続可能な社会作りや技術革新のために金属資源の需要は年々増加しており,この傾向は将来も継続する可能性が高い。これによって既開発鉱山の周辺における鉱床の広がり,および経済的価値の高い新規の金属鉱床の探査・開発がますます重要な課題となってきている。この課題に対処するには,(i)「鉱床内・周辺における品位(岩石中の金属濃度)の高精度空間分布推定」,および(ii)「鉱床を形成した物理法則の解明」の2つが不可欠である。(ii)は複雑な品位分布から低次の物理モデルへの次元変換,すなわちスパースモデリング化の一種に相当する。また,物理法則が解明できれば,鉱液の流動形態や鉱化作用が及んだ範囲が推定できるとともに,鉱床形成のプロセスが定量的に表現できるようになる。
これら(i)・(ii)を本研究の目的に掲げ,そのケーススタディの対象として秋田県北鹿地域において最大規模の黒鉱鉱床である松峰鉱床を選んだ。黒鉱とは火山性塊状硫化物(VMS)の一種であり,Cu,Zn,Pbに富んだ緻密な鉱石である。鉱床形成は海底火山活動に起因し,鉱液が地下深部から海底付近に上昇,海水との混合で冷却され,金属が沈殿したことによる(山田・吉田, 2013など)。解析では,鉱床での77本の垂直,あるいはそれに近いボーリングによる地質柱状図,および1457地点でのCu,Zn,Pb濃度データを用いた。対象領域の大きさは水平方向に500 m×1000 m,垂直方向に標高0 mから-300 mまでの範囲であり,領域を格子で区切った。
まず,地質柱状図を10種の主要地質に分類し,地質分布モデルを作成した。これは,各地質の出現確率の空間分布を3次元最適化原理 (Koike et al., 1998)で計算し,各格子点で最も出現確率が高い地質を選択するという手法に基づく。次に,地球統計学(Geostatistics)の適用によって,金属濃度の3次元分布を推定した。3種の金属濃度データのバリオグラムを求めたところ,いずれも球モデルで近似できる空間的相関構造を有することが見出され,その水平方向の相関距離(レンジ)は垂直方向の2,3倍ほど長いことがわかった。これは鉱液の水平方向への広がりに起因すると解釈できる。バリオグラムに基づき,測点での濃度データから各格子点での濃度を計算する空間推定法には,ordinary kriging(OK)を適用した。これは,3種類の金属濃度相互の空間的相関性は弱く,多変量クリギングよりもOKという単純な単変量クリギングの方が推定精度が高かったことによる。
以上により得られた地質分布モデルと濃度分布モデルとを重ね合わせた結果,高濃度部は黒鉱と黄鉱の分布域に重なるとともに,これらの斑状の分布を繋ぐように水平方向に連続する。この成因として,海底で堆積した鉱石が小規模な火山活動,あるいは海底地すべりなどによって礫状化し,移動の後に再堆積したことが考えられる。また,黒鉱下部には深度方向に珪鉱が連続し,その周囲には流紋岩が広がる。これらの範囲での高濃度部は一部に限られる。
さらに,鉱液の移動と金属の沈殿は移流拡散現象で近似できると仮定して,格子状の濃度分布を移流拡散方程式に当てはめて,移流速度と拡散係数を求めた。移流速度に関しては鉛直上向きが多く,珪鉱と流紋岩の分布域でこの方向が連続するという特徴が現れた。これは鉱液の主要なパスに対応する可能性がある。この連続性から下向き成分が分岐していることは,鉱液の複雑な流動を示唆するものである。また,垂直方向の拡散係数の符号が2:1と偏り,これは概ね浅部ほど濃度が高いという傾向に関連すると考えられる。この移流拡散方程式とクリギングとを組み合わせ,物理法則を考慮した金属濃度の空間分布推定への改良に取り組んでいるところである。
謝辞:貴重なボーリング調査資料のご提供と整理にご協力いただいたDOWAメタルマイン(株),エコシステム花岡(株)に深甚の謝意を表したい。
文 献
Koike, K., Shiraishi, Y., Verdeja, E. and Fujimura, K (1998) Three-dimensional interpolation and lithofacies analysis of granular composition data for earthquake-engineering characterization of shallow soil, Mathematical Geology, v. 30, no. 6, p. 733-759.
山田亮一・吉田武義 (2013) 北鹿地域における黒鉱鉱床と背弧海盆火山活動, 地質学雑誌, v. 119 補遺, p. 168-179.
これら(i)・(ii)を本研究の目的に掲げ,そのケーススタディの対象として秋田県北鹿地域において最大規模の黒鉱鉱床である松峰鉱床を選んだ。黒鉱とは火山性塊状硫化物(VMS)の一種であり,Cu,Zn,Pbに富んだ緻密な鉱石である。鉱床形成は海底火山活動に起因し,鉱液が地下深部から海底付近に上昇,海水との混合で冷却され,金属が沈殿したことによる(山田・吉田, 2013など)。解析では,鉱床での77本の垂直,あるいはそれに近いボーリングによる地質柱状図,および1457地点でのCu,Zn,Pb濃度データを用いた。対象領域の大きさは水平方向に500 m×1000 m,垂直方向に標高0 mから-300 mまでの範囲であり,領域を格子で区切った。
まず,地質柱状図を10種の主要地質に分類し,地質分布モデルを作成した。これは,各地質の出現確率の空間分布を3次元最適化原理 (Koike et al., 1998)で計算し,各格子点で最も出現確率が高い地質を選択するという手法に基づく。次に,地球統計学(Geostatistics)の適用によって,金属濃度の3次元分布を推定した。3種の金属濃度データのバリオグラムを求めたところ,いずれも球モデルで近似できる空間的相関構造を有することが見出され,その水平方向の相関距離(レンジ)は垂直方向の2,3倍ほど長いことがわかった。これは鉱液の水平方向への広がりに起因すると解釈できる。バリオグラムに基づき,測点での濃度データから各格子点での濃度を計算する空間推定法には,ordinary kriging(OK)を適用した。これは,3種類の金属濃度相互の空間的相関性は弱く,多変量クリギングよりもOKという単純な単変量クリギングの方が推定精度が高かったことによる。
以上により得られた地質分布モデルと濃度分布モデルとを重ね合わせた結果,高濃度部は黒鉱と黄鉱の分布域に重なるとともに,これらの斑状の分布を繋ぐように水平方向に連続する。この成因として,海底で堆積した鉱石が小規模な火山活動,あるいは海底地すべりなどによって礫状化し,移動の後に再堆積したことが考えられる。また,黒鉱下部には深度方向に珪鉱が連続し,その周囲には流紋岩が広がる。これらの範囲での高濃度部は一部に限られる。
さらに,鉱液の移動と金属の沈殿は移流拡散現象で近似できると仮定して,格子状の濃度分布を移流拡散方程式に当てはめて,移流速度と拡散係数を求めた。移流速度に関しては鉛直上向きが多く,珪鉱と流紋岩の分布域でこの方向が連続するという特徴が現れた。これは鉱液の主要なパスに対応する可能性がある。この連続性から下向き成分が分岐していることは,鉱液の複雑な流動を示唆するものである。また,垂直方向の拡散係数の符号が2:1と偏り,これは概ね浅部ほど濃度が高いという傾向に関連すると考えられる。この移流拡散方程式とクリギングとを組み合わせ,物理法則を考慮した金属濃度の空間分布推定への改良に取り組んでいるところである。
謝辞:貴重なボーリング調査資料のご提供と整理にご協力いただいたDOWAメタルマイン(株),エコシステム花岡(株)に深甚の謝意を表したい。
文 献
Koike, K., Shiraishi, Y., Verdeja, E. and Fujimura, K (1998) Three-dimensional interpolation and lithofacies analysis of granular composition data for earthquake-engineering characterization of shallow soil, Mathematical Geology, v. 30, no. 6, p. 733-759.
山田亮一・吉田武義 (2013) 北鹿地域における黒鉱鉱床と背弧海盆火山活動, 地質学雑誌, v. 119 補遺, p. 168-179.