日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS31] 地殻変動

2015年5月25日(月) 14:15 〜 16:00 304 (3F)

コンビーナ:*太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、村瀬 雅之(日本大学文理学部地球システム科学科)、座長:大園 真子(山形大学理学部)、日置 幸介(北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門)

15:00 〜 15:15

[SSS31-04] フィリピン・ミンダナオ島におけるプレート収束過程と地殻ブロック運動

*塩見 雅彦1田部井 隆雄2大倉 敬宏3木股 文昭4伊藤 武男5 (1.高知大学大学院総合人間自然科学研究科、2.高知大学理学部、3.京都大学火山研究センター、4.東濃地震科学研究所、5.名古屋大学地震火山研究センター)

キーワード:MCMC, フィリピン断層, フィリピン海溝, ミンダナオ島, GPS観測

フィリピン諸島の下には東西両方向からそれぞれフィリピン海プレート(PHP),スンダランドプレート(SUP)が沈み込み,内陸では,左横ずれの長大なフィリピン断層がフィリピン全土を南北に縦断している.アジア有数の人口密集域であるフィリピンにおいて地震災害リスクを予測することは非常に重要であるが,日本のような精密観測網による監視体制は整備されていない.Ohkura et al. (2015)は,ミンダナオ島における2010-2014年にまたがるGPSキャンペーン観測データから地殻水平速度場を求め,プレート収束域の変動様式を議論した.変動場では PHPの沈み込みに伴う西北西向きの変位が卓越し,さらに,海溝からの距離増加に伴う減衰が顕著ではない.これをプレート間固着のみでは説明できず,複数の地殻ブロックの剛体運動を導入する必要が生じた.フィリピン断層は,そうしたブロック間の主たる境界を成す.しかし,測地インバージョン解析を行うには,推定すべき未知量に対してデータ数,空間密度とも甚だ不十分である.
本研究では,プレート境界面の固着,内陸横ずれ断層のすべり,地殻ブロックの並進運動などの異なる変動源を同時推定する手法として,マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法を導入する.MCMC法は,確率論に基づいて変化させた乱数を与え膨大な量の順解析を行い,パラメータを推定する手法である.解を事後確率分布付きで推定することができ,解の信頼度を得ることができる.USGSが公表するスラブモデルを元にPHP境界面の形状を深さ80kmまで64枚の矩形要素で近似し,フィリピン断層を4枚の鉛直断層で表現した.プレート境界面のすべり欠損の方向をグローバルプレートモデルに基づくPHP-SUPの相対運動方向に,フィリピン断層の変位方向を左横ずれに固定した.すべり欠損速度,断層変位速度の探索にあたり,PHP-SUPの相対運動速度の110%,トレンチ調査で得られている断層平均変位速度の120%を上限として探索した.
解析の結果,PHP境界面の南部でプレート相対運動速度とほぼ同程度のすべり欠損速度値を得た.ただし,プレート境界面の固着がミンダナオの地殻変動場に及ぼす寄与は大きくなく,最大でも観測値の22%を説明するに過ぎない.残りの大部分は地殻ブロックの並進運動として説明される.前弧と背弧のブロック境界を成すフィリピン断層の運動は一様ではなく,ミンダナオ島南部では浅部の固着が示されるのに対し,北部のセグメントでは年間20 mmを超える速度のクリープが検出されている.このクリープ速度は,さらに北方のレイテ島で確認されたクリープ運動に近い値を示し,フィリピン断層のある部分はクリープにより定常的に歪を解放していることが示唆される.