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[SSS28-P12] 2014年長野県北部の地震(神城断層地震)で現れた地表地震断層と既存活断層の位置関係
キーワード:2014年神城断層地震, 地表地震断層, 活断層, 断層変位地形, 詳細活断層図
1 はじめに
2014年11月22日の長野県北部の地震(神城断層地震,マグニチュード6.7)では,明瞭な地表地震断層が長さ約9kmにわたって出現した(廣内ほか,2014など).本地震はほぼ南北走向の神代断層(東傾斜の逆断層)が活動したもので,地表地震断層は東西圧縮の場を反映して東上がりの逆断層という変位様式で現れた.筆者らは本地震発生前に,変動地形学的な手法によって神代断層の詳細活断層図(縮尺2.5万分の1,17断面での変位量計測)を作成していた(松多ほか,2006;糸静変動地形グループ,2007).神代断層では,それら以前にも活断層図が公表され(澤ほか,1999;東郷ほか,1999;池田ほか編,2002),縮尺2.5万~5万分の1地形図上に変動地形学的に認定された活断層線の位置が示されていた.筆者らは既存の松多ほか(2006)と糸静変動地形グループ(2007)の詳細活断層図の改訂作業を行い,地表地震断層出現位置と既存活断層線との関係を考察した.
2 松多ほか(2006)・糸静変動地形グループ(2007)の詳細活断層図の再検討
地表地震断層が出現した範囲を含む神城断層(北部の姫川第二ダム付近から南部の青木湖北方)について,活断層線の位置および連続性を再検討した.1947~1948年米軍撮影大縮尺空中写真(縮尺約1.6~2万分の1)を再判読し,その結果に地表地震断層調査での観察を加味して松多ほか(2006)と糸静変動地形グループ(2007)の詳細活断層図を改訂した.活断層線の位置に大きな変更は無かった.しかし北部から南部へ向かい,塩島,大出,白馬駅南東,神城の各地点において若干の活断層線の追加と連続の変更が行われた.神城においては,山麓線に沿う比高1m程度の東上がりの新鮮な変位地形と,東上がりの撓曲崖背後のバックスラストが追加された.また,松多ほか(2006)と糸静変動地形グループ(2007)の調査範囲外であった野平に,西上がりの変位地形をあらためて示した.
3 地表地震断層と既存の活断層との位置関係
地表地震断層と既存活断層の位置は概ねよく一致する.地表地震断層の多くは東上がりの成分を持ち,これらは東傾斜の逆断層である神代断層の活動を反映したものと考えられる.
北部の塩島と大出では,L2面(4~7 ka)とL3面(1~2 ka)を2~8 m東上がりで変位させる既存の撓曲崖基部に明瞭な地表地震断層が出現した.塩島に現れた東上がり0.9 mの最大変位は,沖積低地上に今回新たに認定された比高1 m弱の東上がりの撓曲崖の位置と一致する.研究地域北部では,変位基準が若いにもかかわらず既存活断層線と地表地震断層の位置の一致が概してよい.
南部の神城付近では,L1面(10~20 ka)を比高10 mで東上がりで変位させる明瞭な撓曲崖基部に,東上がり約0.3 mの地表地震断層が現れた.既存断層線と地表地震断層の位置はよく一致する.
最北部の野平では,M面(50~100 ka)を西上がりで切る低断層崖と一致する位置に,西上がり約0.4 mの明瞭な地表地震断層が出現した.これは約1 km西方に位置する神代断層のバックスラストと解釈できる.
4 防災および活断層の長期予測との関連
神城断層地震で出現した地表地震断層は,既存の断層変位地形の位置とよく一致する.このことから考えると,強震動だけでなく地表変位(ずれ)による建物やライフラインの不同沈下,傾斜そして切断による被害を予測・軽減するために,詳細な変位地形の位置を事前に周知することは重要である.今回の地震では,逆断層上盤側での変位(バックスラストや逆断層の短縮変形に伴う増傾斜や膨らみ)に伴う傾斜異常による建物被害がみられた.小さな変位でも建物や農地への影響は大きく,比高1m程度の小規模な変位地形や微細な傾斜異常を詳細活断層図に示すことは,防災上有効であると考える.
糸魚川?静岡構造線北部(総延長約55 km,白馬~大町:神城断層,大町~松本:松本盆地東縁断層帯)では,断層変位地形から算出された平均変位速度分布に基いて,同区間が一括して活動した場合のモーメントマグニチュードが7.46~7.55と推定されている(鈴木ほか,2010).今回の地震は,この様な固有地震としての大地震よりも一回り以上規模の小さな地震がより短い区間で発生し,明瞭な地表変位を出現させて変位地形を成長させることを示した.鈴木ほか(2010)の平均変位速度,地震時変位量および地震時ネットスリップ分布は,大町市を境にして北部の神城断層(総延長約20 km)と南部の松本盆地東縁断層帯の2つの部分に別れるようにも見える.マグニチュード7弱の神城断層地震によって,1m未満とはいえ明瞭な地表地震断層が現れ最大震度6弱の強震動が生じ建物被害が発生したことは重要である.変動地形学的なより詳細な研究によって,固有地震とより小さな地震の関係を検討する必要がある.
2014年11月22日の長野県北部の地震(神城断層地震,マグニチュード6.7)では,明瞭な地表地震断層が長さ約9kmにわたって出現した(廣内ほか,2014など).本地震はほぼ南北走向の神代断層(東傾斜の逆断層)が活動したもので,地表地震断層は東西圧縮の場を反映して東上がりの逆断層という変位様式で現れた.筆者らは本地震発生前に,変動地形学的な手法によって神代断層の詳細活断層図(縮尺2.5万分の1,17断面での変位量計測)を作成していた(松多ほか,2006;糸静変動地形グループ,2007).神代断層では,それら以前にも活断層図が公表され(澤ほか,1999;東郷ほか,1999;池田ほか編,2002),縮尺2.5万~5万分の1地形図上に変動地形学的に認定された活断層線の位置が示されていた.筆者らは既存の松多ほか(2006)と糸静変動地形グループ(2007)の詳細活断層図の改訂作業を行い,地表地震断層出現位置と既存活断層線との関係を考察した.
2 松多ほか(2006)・糸静変動地形グループ(2007)の詳細活断層図の再検討
地表地震断層が出現した範囲を含む神城断層(北部の姫川第二ダム付近から南部の青木湖北方)について,活断層線の位置および連続性を再検討した.1947~1948年米軍撮影大縮尺空中写真(縮尺約1.6~2万分の1)を再判読し,その結果に地表地震断層調査での観察を加味して松多ほか(2006)と糸静変動地形グループ(2007)の詳細活断層図を改訂した.活断層線の位置に大きな変更は無かった.しかし北部から南部へ向かい,塩島,大出,白馬駅南東,神城の各地点において若干の活断層線の追加と連続の変更が行われた.神城においては,山麓線に沿う比高1m程度の東上がりの新鮮な変位地形と,東上がりの撓曲崖背後のバックスラストが追加された.また,松多ほか(2006)と糸静変動地形グループ(2007)の調査範囲外であった野平に,西上がりの変位地形をあらためて示した.
3 地表地震断層と既存の活断層との位置関係
地表地震断層と既存活断層の位置は概ねよく一致する.地表地震断層の多くは東上がりの成分を持ち,これらは東傾斜の逆断層である神代断層の活動を反映したものと考えられる.
北部の塩島と大出では,L2面(4~7 ka)とL3面(1~2 ka)を2~8 m東上がりで変位させる既存の撓曲崖基部に明瞭な地表地震断層が出現した.塩島に現れた東上がり0.9 mの最大変位は,沖積低地上に今回新たに認定された比高1 m弱の東上がりの撓曲崖の位置と一致する.研究地域北部では,変位基準が若いにもかかわらず既存活断層線と地表地震断層の位置の一致が概してよい.
南部の神城付近では,L1面(10~20 ka)を比高10 mで東上がりで変位させる明瞭な撓曲崖基部に,東上がり約0.3 mの地表地震断層が現れた.既存断層線と地表地震断層の位置はよく一致する.
最北部の野平では,M面(50~100 ka)を西上がりで切る低断層崖と一致する位置に,西上がり約0.4 mの明瞭な地表地震断層が出現した.これは約1 km西方に位置する神代断層のバックスラストと解釈できる.
4 防災および活断層の長期予測との関連
神城断層地震で出現した地表地震断層は,既存の断層変位地形の位置とよく一致する.このことから考えると,強震動だけでなく地表変位(ずれ)による建物やライフラインの不同沈下,傾斜そして切断による被害を予測・軽減するために,詳細な変位地形の位置を事前に周知することは重要である.今回の地震では,逆断層上盤側での変位(バックスラストや逆断層の短縮変形に伴う増傾斜や膨らみ)に伴う傾斜異常による建物被害がみられた.小さな変位でも建物や農地への影響は大きく,比高1m程度の小規模な変位地形や微細な傾斜異常を詳細活断層図に示すことは,防災上有効であると考える.
糸魚川?静岡構造線北部(総延長約55 km,白馬~大町:神城断層,大町~松本:松本盆地東縁断層帯)では,断層変位地形から算出された平均変位速度分布に基いて,同区間が一括して活動した場合のモーメントマグニチュードが7.46~7.55と推定されている(鈴木ほか,2010).今回の地震は,この様な固有地震としての大地震よりも一回り以上規模の小さな地震がより短い区間で発生し,明瞭な地表変位を出現させて変位地形を成長させることを示した.鈴木ほか(2010)の平均変位速度,地震時変位量および地震時ネットスリップ分布は,大町市を境にして北部の神城断層(総延長約20 km)と南部の松本盆地東縁断層帯の2つの部分に別れるようにも見える.マグニチュード7弱の神城断層地震によって,1m未満とはいえ明瞭な地表地震断層が現れ最大震度6弱の強震動が生じ建物被害が発生したことは重要である.変動地形学的なより詳細な研究によって,固有地震とより小さな地震の関係を検討する必要がある.