日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT25] 地球生命史

2015年5月24日(日) 14:15 〜 16:00 202 (2F)

コンビーナ:*本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、座長:生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、本山 功(山形大学理学部地球環境学科)

14:45 〜 15:00

[BPT25-03] 白亜紀の温暖化極相期における浮遊性有孔虫の殻サイズと海水温,生産性の共変動

*守屋 和佳1筒井 啓太1 (1.早稲田大学教育学部地球科学専修)

キーワード:白亜紀, 浮遊性有孔虫, 殻サイズ, 海水温, 生産性

海棲原生生物である浮遊性有孔虫は,ジュラ紀中期に出現以降,白亜紀末と始新世末の2度の大規模な多様性減少を経験しながらも,現在まで繁栄を続けてきた(例えば,Norris, 1991).なかでも白亜紀の浮遊性有孔虫は,両極に氷床の存在する現在とは異なる温室地球時代に多様化し,形態的にも,古第三紀や現世の種とは異なる空間を占めるものが存在し,独自の進化パターンを持っていたことが知られている(Norris, 1991).白亜紀における浮遊性有孔虫の多様性変動については多くの研究が行われ,特に白亜紀前期から中期に多発した海洋無酸素事変などの大規模な環境擾乱イベントとの関連が議論されてきた(例えば,Leckie et al., 2002).
一方,現世のコアトップや飼育実験などの解析から,浮遊性有孔虫群集全体のサイズ分布や,特定の種の殻サイズは,水温・塩分などの物理的因子や,餌の量(生産性)に依存して変化していることが知られているものの(Bijma et al., 1990a, 1990b; Schmidt et al., 2004),白亜紀における有孔虫の殻サイズの経時変化については,多くの議論は行われてこなかった.そこで,本研究では,白亜紀のなかでも温室時代極相期であるセノマニアン期中期の浮遊性有孔虫,Hedbergella delrioensisの殻サイズ分布の経時変化と古水温・塩分や生産量変動との関係を議論する.
試料には,国際深海掘削計画第207次航海で,赤道大西洋のDemerara Riseから採取された堆積物をもちいた. 64μmのふるいで洗浄した残渣から,125μm以上の粒子を抽出し,そこから,浮遊性有孔虫H. delrioensisを約100個体ピッキングした.ピッキングされた個体の最大径を計測し,各々の試料の殻サイズの平均値の経時変化を検討した.試料を採取したDemerara Riseでは,Forster et al. (2007)や,Moriya et al. (2007)により,すでにTEX86水温,浮遊性有孔虫の炭素・酸素同位体層序が明らかにされている.そこで,計測された有孔虫の殻サイズの経時変化と,上記のプロキシから得られた古水温,塩分,生産性とを比較したところ,炭素同位体比変動から生産性が上昇したと想定される層準では,殻サイズが有意に小さくなっていることが明らかになった.一方で,解析を行った地点では,古水温や塩分にはほとんど変化がないことから,殻サイズの変化は生産性の変化に応答したものと想定される.すなわち,生産性の向上により有孔虫への餌供給が増大した結果,より早く性成熟に達したものと推測できる.

Bijma, J. et al. (1990) Jour Foram Res. 20, 117-127.
Bijma, J. et al. (1990) Jour Foram Res. 20, 95-116.
Forster, A. et al. (2007) Geology. 35, 919-922.
Leckie, R. M., et al. (2002) Paleoceanography. 17, 10.1029/2001PA000623.
Moriya, K. et al. (2007) Geology. 35, 615-618.
Norris, R. D. (1991) Paleobiology. 17, 388-399.
Schmidt, D. N. et al. (2004) Mar Micropaleontol. 50, 319-338.